「共同参画」2018年11月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(7)~ジェンダー予算の例①~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

「ジェンダー予算」は、歳入と歳出から成る「公共予算」が、ジェンダー平等を推進する形で計画・執行されるようになることを目的としています。公共政策の領域は多様であり(図1)、男女双方の意見やニーズが反映されるべきですが、多くの国々で、予算編成・承認は男性中心で行われてきました。女性のニーズが充分に反映されず、その結果、男女間の格差や不平等が温存・拡大されてきたという認識が共有されています。また、経済合理性の観点からも、ジェンダー視点の無い予算は、限られた公共予算の非効率的な分配の仕方だと認識されています。

「ジェンダー予算」の導入点や実施主体は多様です。(図2)分析の対象も、国、中央省庁、地方自治体の予算と多様ですし、実施主体も、省庁や自治体の行政職員、国会・地方議員、研究機関、NGOと多様です。予算をジェンダーの視点から分析し、それが男性と女性にどのような異なるインパクトをもたらしているか、もたらしうるかを検証し、公共政策・公共投資から男女が平等に「機会」と「便益」を得られるようにするのが目的です。

「歳入」を対象としたジェンダー予算として有名なのは、90年代の南アフリカのVAT(付加価値税)の事例です。南アフリカでは、乾燥豆、パン、米、果物などの食料品は非課税でした。しかし、貧困家庭が煮炊きや照明や暖房に使うパラフィンという固形燃料はVATの課税対象でした。貧困家庭、特に母子家庭の家計には大きな負担です。そこで、女性支援NGOとエコノミストのグループが協力して、VATのジェンダー分析を行いました。その結果、パラフィンからの税収はVAT全体の1%にも満たないこと、したがって、廃止しても税収にはほとんど影響が無いことがわかりました。そこで、貧困家庭(特に母子家庭)への経済支援として課税の廃止を提言し、政府が実行しました。

また、私が関わったジェンダー予算の一つは、モンゴル政府からの要請で2002年に行った「ジェンダー視点に根ざした予算立案のためのキャパシティ・ビルディング(能力構築)」というイニシアティブです。当時、社会主義経済から市場主義経済への移行期にあり、貧困が大きな問題となっていました。特に女性世帯主の家庭において貧困度合いが高まっていましたが、男性と女性の貧困状況の違いは分析されず、貧困削減戦略や国の予算配分にも反映されていませんでした。そこで、財務省が主体となり、ジェンダー予算の制度化の第一歩として、財務省と社会福祉・労働省、国家研究機関、地方自治体の中に「ジェンダー分析」ができる人材の育成が始まったのです。研究機関では、人材育成を兼ねて「雇用」と「社会保障及び福祉」の領域で、現状やニーズのジェンダー分析調査を行い、その結果を政策策定のためのベースラインとしました。今で言う「エビデンスベースの政策立案」の土台づくりです。また、NGOに対してもジェンダー予算のワークショップを行い、効果的な政策提言やアドボカシーを行えるような支援を行いました。

「日本では、どうすれば良いですか?」とよく聞かれますが、まずはジェンダー分析ができる人材を増やすことと、男女別のデータやジェンダー統計を拡充することだと思います。次回は先進国での取組み事例を紹介します。


図1 公共政策・予算の多様な領域(例)
図1 公共政策・予算の多様な領域(例)


図2 ジェンダー予算:導入点と実施主体の例
図2 ジェンダー予算:導入点と実施主体の例


執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
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