「共同参画」2009年 6月号

実践・活動に結びつく学習プログラムの開発
~連携・協働を推進しつつ、地域づくりに参画する人材が育つために~ 
国立女性教育会館

独立行政法人国立女性教育会館では、男女共同参画を推進する上で大きな役割を果たしている女性関連施設の現状と課題を把握するための調査研究を行うとともに、女性団体・グループ、行政、女性関連施設が連携・協働して、地域づくりに参画する人材を育成する学習プログラムを開発しました。

女性関連施設の現状と課題の把握

平成15年9月以降、地方自治法の改正を受けて、公立施設に「指定管理者制度」が導入されたことにより、女性関連施設にも、男女共同参画にこれまで関わりのなかった組織・団体が指定管理者として選ばれる可能性が生まれました。また、3~5年の期間で区切り、管理者として指定されることから、施設の継続的運営に影響を及ぼす可能性が懸念されています。そこで、「指定管理者制度導入施設の現状と課題に関する実態調査」を行ったところ、平成18年度には、357施設中74施設(20.7%)が指定管理者制度を導入していましたが、平成21年3月現在では、368施設中91施設(24.7%)となっており、この3年間での増加が明らかになりました。

また、指定管理者制度の導入以降の、市民ニーズへの対応や費用対効果を明らかにするため、「女性関連施設における事業評価に関する調査」を特定非営利活動法人全国女性会館協議会と共同で実施しました。その結果、女性関連施設の36.0%が自己評価を実施しており、そのうち、指定管理者制度を導入している施設では64.5%、それ以外の施設では26.8%が「自己評価を実施している」と回答しています。女性関連施設における評価の取組はまだ始まったばかりであり、今後、事業の実施と施設の運営上の成果を客観的に把握する評価基準の確立と評価手法の検討及び職員の研修が必要です。

地域づくりに参画する人材を育成する学習プログラムの開発

このように、女性関連施設を含む公的施設は、運営主体の多様化、経費節減と運営効率化の中で、事業の充実、施設の存在意義の明確化が求められています。特に、人と人をつなぐ拠点、人と情報をつなぐ拠点としての役割を充実していくこと、そして「連携・協働の推進」及び施設職員、団体・グループのエンパワーメントも含めた「人材育成」が重要です。

このため、3年間の調査研究のまとめとして、国立女性教育会館では、実践・活動に結びつく学習プログラムを開発しました。これまでも、女性団体・グループと施設、行政と施設という二者間の連携・協働は多くなされてきましたが、本プログラムでは、女性団体・グループ、行政、施設の三者が連携・協働し、地域づくりに参画する人材を育成することを目的に様々なワークショップを用いていることが特長といえます。

「社会活動キャリア」という概念の提示

本プログラムでは、女性の活動を社会的視点からとらえ直すために、新たに「社会活動キャリア」という概念を取り入れました。「社会活動キャリア」とは、企業等における職業キャリアと同様に、NPOやボランティアでの活動等もキャリアとしてとらえるというものです。「社会活動キャリア」という地域づくりにつながる多様な活動を社会的に評価するスキームを構築し、それに基づく事例分析等を行うことにより、「地域づくりに参画する人材」のイメージを明確化し、人材育成の促進を図ります。

アクション・ラーニングの導入

さらに、本プログラムは、実践・活動に結びつく学習(アクション・ラーニング)として企画しており、参加者が実践力を向上できるプログラム展開となっています。具体的には、

(1) 男女共同参画推進の視点

(2) 統計データの分析

(3) 地域における男女共同参画政策、女性関連施設、女性団体の問題の整理・課題化

(4) 地域づくりに参画する人材育成上の課題

(5) 女性の社会活動キャリア事例の分析

(6) 課題解決に向けた実践へのつながり

という各項目の学習方法として、ワークショップを織り込み、グループで討議を行ないます。ワークショップでは、ファシリテーターを置くとともに、ワークシートの開発、付せんの活用等による問題や課題の可視化等を行うことで、ワークショップの効果的な運営を図ります。参加者が主体的に学び、地域で実践が可能な事業計画案を生み出すことが期待されます。

学習を通じてネットワークを構築

本プログラムでは、女性団体・グループ、行政、女性関係施設の三者が同じ時間を共有し、対等な関係で学ぶ過程で、それぞれが抱える課題の共通点・相違点等を認識し、互いの特長を生かして連携・協働しながら地域づくりに参画する人材育成プログラムを実施していくという方向性が見えてきます。すなわち、この学習を通じて、三者間に実践的ネットワークが構築されるため、学習終了後でも連携・協働関係を継続できるようになります。

実験的なプログラムの実施

国立女性教育会館は、本プログラムを静岡県及び千葉県で実験的に実施しました。プログラム参加者からは、「『社会活動キャリア』という概念が地域の人材育成において、生活圏における諸問題と女性たちの取組を振り返り再評価するという意味で有効なものである」「参加者が課題を共有することで今後の連携・協働のきっかけづくりになった」「改めて自分の地域のことを考えることができ、大変有用である」等の意見があり、一定の成果を上げることが出来たといえるでしょう。しかし、事前学習の必要性や「社会活動キャリア」概念の精緻化の必要性、ファシリテーターの重要性及び育成などの課題も明らかになったことにより、今後、この学習プログラムのさらなる改善を図っていくことが必要です。

なお、本プログラムを実施した静岡県及び千葉県では、実験的プログラム終了2ケ月後には、参加者が地域で「男女共同参画の視点にたった地域課題解決型ワークショップ」を実施するなど、本プログラムの広がりが見られました。

今後の方向性

本プログラムは、連携・協働を推進しつつ、地域づくりに参画する人材が育つことを目的として開発していることから、学習内容は男女共同参画だけでなく、例えば消費者教育や環境教育など、地域の課題に応じた多様な応用が考えられます。「アクション・ラーニング」の推進によって、全国の女性関連施設が男女共同参画の拠点として、それぞれの地域の課題を解決するための活動を活発化し、地域の活性化につながることを期待します。

独立行政法人国立女性教育会館 静岡県におけるプログラムの実験実施の様子