影響調査専門調査会(第21回)議事要旨

  • 日時: 平成15年7月4日(金) 13:00~15:00
  • 場所: 内閣府第5特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    会長代理
    岡澤 憲夫 早稲田大学教授
    委員
    浅地 正一 日本ビルサービス株式会社代表取締役社長
    大沢 真知子 日本女子大学教授
    木村 陽子 地方財政審議会委員
    君和田 正夫 株式会社朝日新聞社専務取締役編集・出版担当
    高尾 まゆみ 専業主婦
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学助教授
    八代 尚宏 社団法人日本経済研究センター理事長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○ はじめに、京都大学大学院経済学研究科教授 久本 憲夫氏より、「正社員ルネッサンス 多様な雇用から多様な正 社員へ」という題目で説明があり、これに基づいて次のような議論があった。

    八代委員
    派遣社員に対しては、常用代替を防ぐために、対象職種や期間を規制する考え方は一般的であるが、割増 保険料を非正社員に課すことはこれと同じ考え方ではないか。また、久本氏が述べたように非正社員の失業リスクに対し て高い雇用保険料を支払うことに一定の論理があるとしても、年金、医療等の失業リスクにあまり関係がない保険料につ いても高くすることは妥当かどうか。
    正社員に対する人材育成や雇用安定、能力開発を促進することが大切だと久本氏は説くが、能力開発に対する直接優 遇措置の方がメリットがあるのではないか。
    また、家族のあり方についても、3世代同居を促進する必要はなく、単に中立的であればいいのではないか。
    大沢委員
    正社員の処遇等に市場メカニズムを働かせることが重要ではないか。そうせずに非正社員に社会保険料等 の負担を課すと、正社員と非正社員間の二重構造が更に極端になるのではないか。
    久本氏
    本当に専門的な派遣労働者に対しては、こまごまとした規制は意味がないのではないか。例えば派遣労働者の 賃金について、職種別でなく、市場価値から見て妥当な一定以上の賃金水準に設定し、一定額以下のものはすべて禁止 すれば、派遣という労働のあり方の濫用は防げるのではないか。
    多くの中小企業等の正社員は市場の変動から守られていないと思う。
    大沢委員
    雇用保護というものがあるとすれば、正社員、非正社員間で同等に適用されるべきであるし、身分の差を設け てはいけないと思うが、賃金テーブルによる正社員と非社員の格差は市場メカ二ズムに合うようにするべきではないか。
    君和田委員
    非正社員のシェアが拡大した背景には、企業の能力開発の限界と能力開発がさほど求められない職種で も一律採用する採用の問題があったのではないか。非正社員を採用しにくい仕組みを作っても別の対処法ができてしまう と思われる。
    久本氏
    企業がしっかりと成果主義に取り組むのであれば、正社員は「高コスト」にならないはずだ。
    浅地委員
    経営者も終身雇用等に関して不安がでてきている。残業の問題も生産性の問題ではなくなってきている。柔 軟な雇用形態が選択できるようにするのがいいのではないか。
    当初、ビル管理で掃除をするパートタイマーについて、年齢等に関係なく、保険料等も正社員として採用したが、結局市 場に従い、通常の企業と同じ扱いになったという経緯もある。
    大澤会長
    当専門調査会は、中立性が重要だという観点で議論をしてきている。
    また、働きに見合った処遇が必要だとしており、働きが良くない人であれば処遇も良くないという意味で、働きに見合った 処遇の格差もありえる。ただし、生涯のある時期に限った非正社員、派遣、試し雇用期間というのはありえるが、格差が固 定化するのは問題で、安定した職への移行やコース転換が可能となることが必要なのではないか。
    また、割増保険料率をかけなくても、厚生年金の適用基準を下げるなら標準報酬最低限を下げない限りは、割増になっ てくる部分もあるかと思う。

    ○続いて、朝日新聞企画報道部記者 竹信 三恵子氏より、オランダ、ノルウェーにおけるワークシェアリングの動向に ついて説明があり、これに基づいて次のような議論があった。

    岡澤会長代理
    21世紀の北欧型のモデルの悩みは、低賃金の在外労働者を雇用し、生産拠点を移転すれば国際競争 力が維持できるが、その一方で産業が空洞化し、福祉財源が枯渇するという点である。オランダやノルウェーでは、外国 人労働者による二重構造の問題をどう対処しようとしているのだろうか。
    竹信氏
    在外労働者が会社を経営し、一種の流動化している移民層を結集しなおすという、労働組合とは違うパターン で安定化を図る一例もでてきている。
    八代委員
    日本の正社員とオランダの正社員はかなり違うのではないか。オランダでは、もともと正社員、非正社員の雇 用保障の違いがあまりないからこそ全部正社員にできるのではないか。
    竹信氏
    ある意味でその通りだと思う。社員を身分ではなく、仕事が恒常的にあるなら常用にする一方、公正で透明な解 雇ルールを整備するなど、労働実態で評価するノウハウを確立することが必要ではないか。
    八代委員
    日本では非正社員、正社員の両方を変えていく必要があるだろう。
    高尾委員
    日本型の正社員の雇用慣行が変わっていく際に、夫の給料が下がるのは困るという声もあると思う。オラン ダでは、どうだったのか。
    竹信氏
    賃金は抑制に留まっていたうえ、パート労働の均等待遇の確保で妻の短時間労働が劣悪な低賃金労働になら ないようにしたため、夫の賃金抑制分を妻がカバーできた。抵抗が少なかったのはそのためだ。また、夫に対する妻分の 控除をなくす代わりに妻の口座に直接現金給付をするなど妻の就業に対して夫の抵抗をなくすような取組みがあった。背 景には、無償で担われている家事・育児・NPO活動などの労働は大事であるという社会的合意があり、無償の労働と有 償労働を両立できるようにすべきだという発想がある。だから、女性だけでなく、男性も無償労働に進出できるようにする ための社会的な保障を充実しようということになる。国は違うが、ノルウェーに子育てに対する現金支給や夫の育児休業 の権利を保障したパパクオータ制ができたのもこうした哲学による。
    浅地委員
    労働時間がよくいわれるのは、パートの世界だけのような気がする。正社員の方が給与の算定根拠がわか りにくいのではっきりさせていくことが必要だと思う。
    木村委員
    正社員を定義する際の不可欠な点は何か。
    久本氏
    定義は非常に難しいが、内容的には雇用契約の包括性である。外面的には、期間の定めのない雇用と月給、ま たは年給である。
    竹信氏
    正社員とは、基本的には、年金支給開始時までを期限に、労働時間の長短に関わらず仕事がある限り働き続け られる無期限の働き方とすべきだと思う。オランダは雇用調整については、基本的には労使の協約や交渉で決まり、短期 契約を理由にした解雇は一部の限られた臨時仕事だけだ。倒産や業務の不調で仕事がなくならない限りは無期雇用で、 有期雇用を何度も更新して長い期間働くといったものは原則としてない。労働時間についても、2002年にパートタイマー は20%まで増やし、フルタイマーは20%まで減らせる権利を法律で決め、男女問わず、一人一人がそこそこは生活でき る収入を稼ぎ出せて無償労働の時間も確保できる週30時間前後の働き方へと近づけていく方向でワークシェアリングを 目指している。

(以上)