影響調査専門調査会(第8回)議事要旨

  • 日時: 平成14年2月22日(水) 13:00~15:30
  • 場所: 内閣府第3特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    委員
    大沢 真知子 日本女子大学教授
    木村 陽子 地方財政審議会委員
    小島 明 日本経済新聞社常務取締役・論説主幹
    神野 直彦 東京大学教授
    高尾 まゆみ 専業主婦
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学助教授
    林 誠子 日本労働組合総連合会副事務局長
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○日本経済研究センター理事長 八代尚宏氏より、家族のライフスタイルに及ぼす雇用慣行・税制・社会保障システムの影響について説明があり、次のような議論が行われた。

    大沢委員
    制度を個人単位化した場合、日本的雇用慣行や年功的賃金といった、既得権をもった部分が変わらず、女性の負担のみが増えるのではないかという不安がある。
    八代理事長
    年功賃金や長期雇用保障等の条件は労使が決めることで、政府は中立性を維持するべきである。賃金格差等の労働市場の不均衡に対しては、年金ではなく、福 祉の分野でやるべきではないか。
    大沢委員
    八代理事長の考えが、規制改革により個人の選択肢、自己責任を増やすということであれば、税制や社会保障改革だけでなく、痛みの分かち合いといった議論も必要 ではないか。
    八代理事長
    既得権の調整ということか。
    大沢委員
    そうかもしれない。
    林委員
    長期雇用保障や年功賃金問題は労使の問題であるという八代理事長の指摘は同感であるが、その場合、政府は正規と非正規の身分格差について、法的な制限・規制をしていくべきではないかと思う。
    八代理事長
    できることは、雇用契約や解雇のルールが、パートと正社員では格差がありすぎているのを見直すことかと思う。
    林委員の考えは、パートに対する雇用保障や年功賃金を法令で強制するということか。
    林委員
    そうではない。今まではパートを非正規に位置付けてきたが、正規の中に、パートタイマーやフルタイマーもある形になれば、平等性を確保できるのではないかと考える。
    八代理事長
    そこは、パートタイムの定義の問題がある。林委員のいうパートタイムはむしろ欧米型の短時間労働者という定義のようだが、日本の場合は短時間か長時間かの違いより、1年を越す雇用保障の有無が非常に大きな違いである。
    正規労働者への雇用保障が非常に厳格なため、企業が過度にパートタイマーに対する需要を増やしているのではないか。
    木村委員
    遺族年金に関する考えを伺いたい。
    八代理事長
    遺族年金については、そもそも夫の厚生年金を分割し、夫の死後は妻は自分の年金のみで生活するのがいいのではないか。
    木村委員
    八代理事長の健康保険の被扶養者の取り扱いについての考えを伺いたい。
    八代理事長
    医療給付も第3号被保険者制度と同じ問題があり、国民健康保険の保険料を婚姻費用として夫に負担してもらうことが1つの解決策ではないか。
    木村委員
    厚生年金について、年収65万以上は被用者健康保険に加入する案についてはどう考えるか。
    八代理事長
    130万の基準を下げることは大事である。ただし、低賃金パートタイム労働者に一般被保険者と同じ保険料率で負担を求めると、厚生年金の保険料が国民年金の 保険料よりも低い一方で、報酬比例部分を含む給付が多いという不均衡が生じる場合がある。
    このため、現行の報酬比例年金を根本的に考え直す必要がある。年金は基礎年金、医療保険は地域保険で一本化するとともに報酬比例部分は民間保険に強制加入させるのと 同じ考え方をとれば、間接的に女性の年金問題も解決するのではないか。ただし、そうした大改革はいきなりは無理なので、できるところから、例えば配偶者控除を改革するとインパクトは大きい。
    大澤会長
    失業給付制度の改善についてはどう考えるか。
    八代理事長
    長期間保険料を納めれば、長期間失業給付を出す制度であるがこれも男女格差を広げる一つの要因である。これは報酬比例年金よりも医療保険に近い考え方で あるべきではないか。
    小島委員
    グローバルな経営をする企業への国内だけの発想による制度や慣行がどう影響するか、国内だけの制度や慣行の影響、インセンティブ効果を重視して経済の活性 化に寄与する仕組みについて何を重視すべきか。
    八代理事長
    働く能力と意欲を持つ人が、就業を可能とさせることが大事であるが、働くと損をするという現行の仕組みは社会的な損失が大きい。個人単位化は、働いても働かな くても同じという意味で、中立化になるため、現行とくらべればより、就業に対してプラスのインセンティブになるのではないか。
    また、所得再分配は、年金ではなく、福祉の役割である。社会保険は強制加入の民間保険と捉え、個人単位で給付と負担を同じにするということが必要ではないか。
    大澤会長
    年金、医療保険を一元化することには、八代理事長と同感であるが、自営業者の所得の捕捉についてはどう考えるか。
    八代理事長
    定額負担・定額給付の国民年金対象の自営業者をサラリーマンの保険に統合することはできないから、サラリーマンを地域保険に統合する。その際生じる事業主 負担の問題については、その分を賃上げすればいいのではないか。また、第3号被保険者問題の解決が必要となる。

    ○次に、事務局から影響調査専門調査会中間報告について説明があり、これについて次のような議論が行われた。

    木村委員
    男女共同参画社会だけでなく、社会保障の構造改革や労働力確保の関係等もっと大きな視点から税制、社会保障制度、雇用システムが問題になっていることを強調 すべき。また、個人単位化を軸足として明示し、これに伴う問題点の解決法も交えるというスタンスにすべき。
    大澤会長
    軸は個人単位化、中立化ということにあるが、予想される反論に対して防衛的になりすぎてトーンが弱くなってはいけない。
    高尾委員
    日本的な雇用システムが変わらなければいけないことに期待が大きすぎるのではないか。また、再就職としてパートタイムを選択することについては、非常に消極的な 理由が大きいのではないか。
    大澤会長
    統計ではそうでているが。
    高尾委員
    統計ではそうだが、実際の理由はそうではないのではないか。
    大沢委員
    結婚で退職し、さらに、出産の際も退職するため2割しか働いていないという現状を出すべき。また、育児休業について、いまだ取得者数が少なく、また、能力支援を受 ける機会がないから再雇用のための能力支援を受けたことがないという状況を書く必要があるのではないか。また、持続的な経済成長のために女性をもっと活用する必要がある 等、制度改革をする問題意識を理解してもらうための前書きが必要ではないか。
    高尾委員
    103万円や130万円を意識し、就労調整して得る節税額、社会保険料節約額に比べ、就業期間等の違いによるネットの受給額の差の方が大きいといったことをもっとア ピールし、女性の就労を促す必要もあるのではないか。
    小島委員
    報告書は、女性のアファーマティブアクション的なニュアンスを与える報告書ではなく、どういう社会にしたいというビジョンを示し、そのための具体的な方策はこうだ、と 読まれるものにすべき。
    雇用システムは、年俸制等、大きく構造的に変わりつつある。そういう変化も捉えて今までのものは大きな問題を生んでいるのでそれを直そうという姿勢を示すべき。
    日本の社会の種々のシステムは今や分水嶺を超えた。家族手当をやめることを組合も納得している。家族が一人増えることにより家庭が維持できないという時代が終り、実際に は消滅過程に入っている。
    大澤会長
    企業の雇用システムが急速に変化していることはニュース等から伝わっているが、そのような企業の選択がすべて非合理的であり、かつジェンダーに中立的であると は限らないといったところが、当調査会の課題ではないか。
    また、ワーキングチームのアンケート調査結果は、追加分析をしたところ女性の管理職が比較的多い企業ほど家族手当は廃止、あるいは賃金に振り返るという有意な傾 向が認められた。雇用システムのあり方を政府の政策として義務付けたりすることは難しいが、バリアをなくし、合理的な選択を行うための環境整備をする必要がある。
    中間報告では、問題点がありそうなところを洗いだし、中立性や個人単位化を追求すれば、日本経済全体にとっても、ミクロの女性男性双方の個人の生涯所得にとってもメリットが あるという方向性を打ち出し、ひいては企業が合理的な経営をできるような環境整備に繋がるという委員の共通認識を盛り込めればいいのではないか。
    永瀬委員
    社会保障制度を個人単位化、中立化する際に、今まで女性が担ってきた子育てを社会が担うといった視点が必要ではないか。
    坂東局長
    当調査会では、中立性の観点で議論をしている。児童手当や育児休業、母子家庭に対する手当等と、中立的な分野を一緒に議論することは難しい。
    大澤会長
    子育て支援や、高齢女性の所得保証等のポジティブな制度目標と抵触しない形で、中立化や個人単位化の制度設計を選択するべきだということが永瀬委員の意見で はないか。
    永瀬委員
    日本と違い、世帯単位ではない国では、社会単位で児童や高齢者を見る制度をとってきていると思う。日本では、個人単位化を進める際に制度の組替えが必要なのではないか。
    坂東局長
    八代理事長の説明の際の議論にもあったが、過大な所得再分配機能を今の年金制度だけにたよってはいけないのではないか。
    永瀬委員
    現在、高齢者には50兆円の社会保障給付に比べ、児童には2兆円程度の給付しかない。1人あたり給付で考えてもやや高齢者に偏っているのではないか。
    高尾委員
    中間報告に子供に対する保障給付という視点をいれる必要があるのではないか。
    大澤会長
    子どもの有無に対する制度の中立性については、日本はOECD諸国の中で、もっとも児童支援パッケージが薄く、かつ住宅費や教育費の負担をいれるとマイナスにな るということもある。住宅費については、恵まれた人には社宅などがあり、存在により住宅政策を改めよという声が大きくならなかった。また、教育費は、奨学金制度が薄いというこ とが原因とも考えられる。
    中間報告について、十分議論できていないため、もう一度会議を召集したい。

    ○ 次に自己評価マニュアルについて、事務局から作業経過等について説明があり、以下のような議論が行われた。

    永瀬委員
    例が入り、分かりやすいものがよい。
    大澤会長
    実際に使用する版は、ポンチ絵等の入った使い易いものにする方がいいのではないか。

(以上)