影響調査専門調査会(第7回)議事要旨

  • 日時: 平成14年1月16日(水) 10:00~12:00
  • 場所: 内閣府第3特別会議室

(開催要領)

  1. 出席委員
    会長
    大澤 眞理 東京大学教授
    会長代理
    岡沢 憲芙 早稲田大学教授
    委員
    小島 明 日本経済新聞社常務取締役・論説主幹
    高尾 まゆみ 専業主婦
    橘木 俊詔 京都大学経済研究所教授
    永瀬 伸子 お茶の水女子大学助教授
  2. 議題次第
  3. 概要

    ○ 事務局から雇用システムに関するアンケート調査結果について説明があり、これについて次のような議論が行われた。

    橘木委員
    日本での福利厚生については、大企業と中小企業では全く実態が違う。中小企業まで含んだ実態調査が結構出ており、これ らも参照する必要があるのではないか。個人的な意見としては、企業は福利厚生から撤退してもいいのではないか。
    大澤会長
    賃金が成果主義、能力主義に非常に大きく変わっていると言われているほどには、福利厚生制度を変えると答えている企業 が少ないという印象がある。縮小・廃止という回答が以外に少ないと思う。
    小島委員
    基本的には、福利厚生といったものは、経済の水準が上がってくれば、あとは個人の選択であると思う。本当の弱者というも のには、社会的に対応すべきではないか。本調査に関しても、中小企業の実態も踏まえる必要があるのではないか。
    大澤会長
    最終報告に向けて、今後結果が出てくる他省庁の調査も参考にできると思う。
    坂東局長
    大企業の正社員とそうでない人との格差は非常に大きくなりつつあるのではないか。また、女性は、大企業の正社員として、 こうしたフリンジベネフィットを受ける割合は非常に少ない。さらにパートタイム的な仕事をしている正社員の妻は、こうした家族 福祉を失うことを恐れて従業していると類推される。
    小島委員
    大企業の諸制度の対象者となる正社員の比率が急激に減少しているというトレンドは重視するべきであろう。
    坂東局長
    正社員の比率が落ちていることはデータで得られるのか。
    橘木委員
    かなり落ちている。
    永瀬委員
    女性の比率は完全に落ちている。男性も25歳以上ではそれほど違いはないが、25歳未満の学生ではない層および高年齢で 非正規という層は非常に増えている。
    橘木委員
    今まで日本の労使関係は、大企業VS中小企業であった。しかし、今後は正社員VS非正規社員が主流になる可能性があり、 どう処理したらいいのかということが今後の大きな問題になると思う。
    大澤会長
    家族主義的な処遇から、成果主義や能力主義的な処遇に移行してきているということは、既存の制度の縮小・廃止という経 路ではなく、それが適用される雇用者の比率が下げられるという経路ではないか。
    小島委員
    アメリカでも、1960年代ぐらいまでが大企業のピークであった。以降、従業員が多い大企業は構造不況産業になり、それが中 小企業の時代になり、今度は新しい分野に参入した。日本も、今、そういう過程に入っているのではないか。
    大澤会長
    今回の調査では、製造業が約半分と多く回答率が高い。しかし、回収率が低いので、これを業種別・企業規模別に分けると セルごとのサンプル数が小さくなり、分析できない。
    小島委員
    今、上場企業の3割か4割は赤字企業であり、リストラが続いている。どうしても構造問題に触れざるを得ないのではないか。
    橘木委員
    金融業などでは合併が進んでおり、持ち株会社全体と持ち株会社の下の企業とでは企業状況が違うのではないか。
    永瀬委員
    配偶者手当が税金とリンクしている思想は何か。103万円内の就業を奨励するような制度になっているが、企業の目的なの か、労働組合の要望なのかその発展の歴史と思想はなんであるのか。
    坂東局長
    内助の功への評価あるいは無償労働の評価ということではないか。また、社宅の雰囲気ということもある。
    永瀬委員
    実証分析では、社宅に住む奥さん方は、非就業に対して社宅がプラス効果をもっているという結果がある。
    橘木委員
    今回の調査は人事労務担当者が回答しているのか。
    坂東局長
    人事管理の係員等が回答していると思われる。しかし、経営企画室などが回答をすれば、また違った傾向かも知れない。
    小島委員
    歴史的には手当類全般は生活費補助である。それで、生活水準や所得水準が上がるにつれて手当の発想は弱くなる傾向 があり、賃金に振り替えるという発想になってきている。
    岡沢会長代理
    手当類は同業他社との賃金格差の横並びのため、フリンジとして採用したかも知れない。
    ところで、こうした制度の影響力を考える際、諸制度の中で、どれが最後まで残りそうなのかを考える必要がある。例えば、社 宅制度は、住宅供給不足の時代において、非常に大企業に入りたいインセンティブとして機能を果たしたが、現在の住宅事情 から考えると、労働者に対する心理的な影響力というのは、随分変わっているのではないか。諸制度の時系列的な機能の変 化とか心理的な変化という影響力の変化も考慮する必要があるだろう。
    大澤会長
    日本はOECD諸国の中で、児童支援パッケージが最も薄く、住宅費負担を入れるとマイナスになってしまう。そんななかで社 宅制度の意味は大きい。
    また、今回の調査の退職年金について、勤続年数が受給資格になっている場合、その平均が14年程度であるが、女性の勤 続年数は殆んどここに収まってしまい、女性は殆んどこの退職年金をもらえないということが出ている。
    坂東局長
    正社員で長く勤続する人を対象に、いろいろな福利厚生が設計されている。それは女性を対象としたものではない。
    大澤会長
    ここは余りにきれいに収まっているのでびっくりした。今後は家族手当と退職年金制度が残っていきそうな気がする。
    永瀬委員
    退職年金は、負担と会計の制度がどうなっているのかということが、大きいかも知れない。
    大澤会長
    社宅にしても、税制との関連もあり、バブルの時に投資が増えたといわれる。
    永瀬委員
    社宅に住む人は金融資産蓄積が増え貯金が増えるという傾向がある。研究では社宅に住んでいるというのは、安いコストで 高い実物を給付されているという形で調整をしたため、他の条件を考慮して豊かだという効果がある。
    大澤会長
    今回の調査については回収率が期待したほどではなかったので、今電話での聞き取りをしてもらっている。ただしその結果 も、今回の調査結果の傾向を変えるものではないようである。

    ○次に、事務局から影響調査専門調査会中間報告について説明があり、これについて、次のような議論が行われた。

    坂東局長
    退職後、正規社員としての再就職が難しい現状の雇用システムを考えると、社会保障制度のみを議論することは難しいので はないか。雇用システムに関する論点と有機的に結び付けて議論していただけるとありがたい。女性が意欲と能力さえあれば 働けるという制度ではない。
    永瀬委員
    日本の正社員と非正規社員の賃金体系の格差は大きく、共働き世帯であっても、妻の貢献分が非常に低いのが日本の特徴 である。また、中年期のやり直しがしづらいが、これは大体において正規社員と非正規社員とで同一価値賃金労働が認められ ないからである。しかし、再就職する際には、家にいる場合と、就職して得るものとの比較をするが、適当な仕事がないので家 庭にいるとする中高年の比率は意外に少ない。特に、大卒女性は、50代になってはじめて家事都合という理由がなくなる。ただ しこれは92年データの分析である。最近のデータでは、職業意欲はより高まっている。自己の選択によるかどうかは難しい問 題である。
    高尾委員
    学歴が高いほど家事都合が多くていいのだろうか。もう少し、夫婦の労働時間の調整等ができればいいのではない か。また、大卒女性が長く家の中にいるということは、父母会に参加してみて実感できる。ただし、被用者でなくても、 外国語を教える等により、所得を得ている女性もいるのではないか。
    小島委員
    働いている女性と専業主婦の間には、NPO、趣味をやる等単純な分類では収まらない部分があり、高齢化社会になるとその 比率が極めて大きくなると思う。
    永瀬委員
    児童手当も社会保障の中にいれたらどうか。また、第3号問題のようなものは介護保険でも医療でもあり、社会保障全体とし て考えるべき。
    橘木委員
    育児休業制度もやったらよい。また、雇用保険も入るのではないか。
    大澤会長
    税制では、日本では配偶者控除の影響が大きいが、国際比較をすると、他の制度が効いてくる場合もあり、包括的にとらえる 必要があるのではないか。社会保障についても包括的に見ていく必要があろう。
    小島委員
    男女の勤続年数に格差があるが、男性側も年金やキャリアがポータブルでなく、15年くらい経つと企業内市場なので、そこが 変わらなければ、日本の雇用制度はダイナミックに動かない。それ次第で女性の雇用機会も大きく変わってくる。
    岡沢会長代理
    若い段階でやめたくないのにやめさせられるというのが女性環境の一端である。
    永瀬委員
    キャリアのポータビリティはどうすれば可能になるのか。
    小島委員
    仕事の専門性を評価する仕組みがないといけない。
    岡沢会長代理
    北欧では全く逆であり、キャリアはポータブルである。ただし、公的機関、民間部門も原則的にはすべて新聞、インターネット による公募である。その際、年齢と性を条件に排除してはならず、このため女性の社会進出がかなり進んだということもある。
    大澤会長
    その割に北欧では、民間企業の管理職の女性比率が、カナダ、アメリカ、オーストラリアに比べて高くない。
    岡沢会長代理
    北欧では労働市場にある種の住み分けがあり、公務員は女性の管理職の世界である。テクノロジーを専攻した男性の管理 職が高いのがプライベートセクターである。専攻した分野により、公務員に女性が多いということになるのではないか。また、プ ライベートとパブリックの相互乗り入れが相当ある。
    岡沢会長代理
    社会保障制度において、結婚とか離婚という考え方、もしくは事実婚、法的な結婚をどう制度の中に組み込むかということもあ る。
    坂東局長
    結婚まで含めると中間まとめでは難しい。社会保障制度全般について論点を中間報告にむけて出すと時間的に難しい。その 他については指摘の紹介にとどめ、年金を中心に行うのが現実的と考えるがその点をご議論いただきたい。
    橘木委員
    全く無視するのは難しい。
    永瀬委員
    母子世帯の問題に一言触れるべき。
    大澤会長
    論点としてまとめるには議論が足りないことについては、「社会制度・慣行の現状」として国際比較の観点を入れてもりこんで はどうか。
    橘木委員
    こうあるべきまでは言えない。
    大澤会長
    論点整理はできると思う。
    永瀬委員
    社会保障制度については、雇用との関係など幅広い視点が要求されているのではないか。特に男女共同参画の視点はひと つのポイント。
    橘木委員
    やはり幅広い視点からまとめた方がいいのではないか。雇用システムのところを大きくした方が良い。非正規社員の多くが女性であり、男女間の賃金格差は、日本だけが先進国の中で唯一拡大中であることは問題である。これに対して何か言うべき。 オランダのようにワークシェアリングの方でパートと正社員の賃金差を法律で無くす国もあるが日本でできるか。
    坂東局長
    ワークシェアリングといっても、同一労働同一賃金が確立していないと実現は難しいくらいは言えるかも。
    大澤会長
    具体的にはパート労働法第3条の改正が課題になる。
    橘木委員
    正規社員の時間当り賃金縮小という逆の発想もあるのではないか。連合は否定するが。
    大澤会長
    子会社にして賃金を下げるという方法もある。
    小島委員
    継続雇用を維持するという前提だと、子会社にして賃金を減少するということもある。
    橘木委員
    労働者側にも雇用が確保されるなら賃金カットを受け入れるという思考はあるのか。
    小島委員
    ない。会社側は総コストの中の労働コスト比率を下げたいが、賃下げができないので分社化にとどまっている。正規社員の賃 金ファンドは一定で、労働コストは下がっていない。そこでワークシェアリングとなるが、これは難しい。
    岡沢会長代理
    1960年代に北欧では、インフレは起こさないことを前提として実際的な賃下げをした。そして、少子高齢化の進展による税負 担増にあたり、女性が社会参画をして、1世帯あたりの労働時間数、所得者、納税人口の増加を行った。結果として今では、賃 金水準は低い。
    橘木委員
    オランダも同じで1.5にして1の人と0.5の人の時間当り賃金は変えていない。
    永瀬委員
    それが日本に必要だが何故できないか。
    岡沢会長代理
    男女共労働市場参加率が高い北欧では、大抵の経済状況では、夫婦で少なくともどちらかが働く形になっている。失業保険 もある。だから、失業率5%というのはそれほど深刻ではない。日本では非常に深刻になる。
    永瀬委員
    財務省のヒアリングの際、配偶者の103万円は根幹に関わるので外せないということであった。年金の3号被保険者について も同様ではないか。
    大澤会長
    社会保障制度に関する論点では、年金のみでなく、包括的にまとめてはどうか。
    また、育児休業制度は社会保障と雇用システムをつなぐ制度といえる。広い意味での社会保障といってもいいのではない か。

(以上)