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コラム2

生理休暇の国際比較


女性特有の健康課題と聞いたときに、月経(生理)に係る不調が頭に浮かぶ人は多いのではないだろうか。

日本は、昭和22(1947)年に労働基準法が制定された時から、生理休暇に係る規定(同法第68条)が存在しており、早くから法制化を実現していた。諸外国における生理休暇の法制化に関する動きをみると、法制化まで至っている国は少なく、日本以外の国で生理休暇を法制化している国は、約6か国・地域と言われており、その大宗はアジア地域が占めている。

そのような中、令和5(2023)年2月スペインにおいて、生理休暇の法制化が議会で可決され、ヨーロッパで初めて、生理休暇を法制化した国となった。ヨーロッパとアジアでは生理休暇の内容や受け止めについてどのような違いがあるのだろうか。

本コラムでは、OECD加盟国の中で生理休暇の法制化を実現している日本、韓国、スペインの3か国の状況を比較し、生理休暇に係る状況をみていく。

はじめに、各国において生理休暇がどのように規定されているのかを確認していく。

日本では、労働基準法第68条において「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。」と規定している。生理休暇中の給与の扱いについては事業者に委ねられており、生理休暇取得に際して、医師の診断書等の特別の証明は原則、不要である1

韓国では、勤労基準法第73条において、「使用者は、女性勤労者が請求するときは月1日の生理休暇を与えなければならない。」と規定している。生理休暇中の給与は無給であり、生理休暇取得に際して、医師の診断書等の特別の証明は、日本と同様、原則、不要である2

スペインでは、性と生殖に関する健康と中絶に関する法律第3章において、「女性が月経困難症等の症状で仕事を欠勤する場合は、一時的な障害による特別な状況として明確に認識する」と規定されている。スペインの場合は、日本及び韓国とは異なり、生理休暇を取得する際に医師の診断書が必要である。医師の診断書があれば、重い生理痛に苦しむ女性の休暇に係る費用は国が負担することとなっている3

このように「生理休暇」と一言に言っても規定の内容は各国において大きく分かれていることがうかがえる。

(表)各国の生理休暇制度の概要
国名 休暇日数の上限 有給・無給の別 事実証明の要否
日本 法律上、制限なし 事業者判断 原則、不要
韓国 1回/月 無給 原則、不要
スペイン 法律上、制限なし 有給 医師の診断書が必要

各国において実際、どの程度、生理休暇が利用されているのだろうか。

日本における生理休暇の取得率について、厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、女性労働者のうち、生理休暇を請求した者の割合は、平成9(1997)年度に3.3%であったが、令和2(2020)年度においては0.9%に減少している。

韓国とスペインにおいては、生理休暇の取得率について、公的統計を確認することができず、詳細な取得率は不明であったが、後述するように韓国とスペインにおいても、生理休暇の取得をためらう場面があるようだ。

日本における取得率が低調であることの要因として、「男性上司に申請しにくい」、「利用している人が少ないので申請しにくい」や「休んで迷惑をかけたくない」が主な理由として挙げられている4

韓国においても日本と同様の理由で生理休暇の取得が難しいようであり、「男性中心の職場環境では生理休暇の申請がしにくい」や「自分が仕事を休むことにより周りに迷惑をかけたくない」との理由から、生理休暇の取得をためらう女性が多いようである5

生理休暇の法制化からまだ1年ほどのスペインにおいても、生理休暇の取得をためらう女性の声として、「毎月数日間休みを取る人と同僚からみなされることにより、孤立感が生まれる」や、スペインに限ったケースではあるが、「医師の診断書が必要となり手続が煩雑になるため」等、日本や韓国と同様の声が上っているようである6

生理休暇制度の内容については、日本、韓国、スペインの3か国において、それぞれ異なる内容である(表)が、生理休暇の取得をためらう要因としては、「職場の同僚への後ろめたさ」や「職場における自身の評価」という、職場環境に関した共通の要因がみられるようである。

まずは、女性の社会進出の推進とともに、男女それぞれに特有の健康課題についてお互いに理解を深め、仕事と健康の両立を推進していくことが大切である。その理解を深めた上で、限られた労働力の中で、一時的な欠員にも柔軟に対応することができる働き方・組織体制を考えていく必要があるのではないか。

1 厚生労働省「働く女性と生理休暇に関するシンポジウム」(令和5(2023)年9月28日開催)資料から引用。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001150877.pdf

2 独立行政法人日本貿易振興機構「韓国の労働問題マニュアル」(平成27(2015)年3月公表)から引用。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2e605cc56ec4d331/report_manu_kr201503.pdf

3 法律名及び当該条文はスペイン政府ホームページ(Agencia Estatal del Boletin Oficial del Estado)に掲載の情報を和訳している。
https://www.boe.es/buscar/doc.php?id=BOE-A-2023-5364
有給無給の別等、制度の詳細は、BBC, Spain gives final approval to law making it easier to legally change gender(令和6(2024)年5月27日閲覧)から引用。
https://www.bbc.com/news/world-europe-64666356

4 日経BP総合研究所「働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活2021」調査/『ウェルビーイング向上のための女性健康支援とフェムテック』(日経BP刊)より 禁無断転載。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/DRS/20/seirikaiteki/news_20211213.pdf

5 Asia Society,[KoTEX Issue No.4] Menstrual, Maternity, and Menopause Leave: The Work-Life Balance of Women in South Korea and Worldwide(令和6(2024)年5月27日閲覧)から引用。
https://asiasociety.org/korea/kotex-issue-no4-menstrual-maternity-and-menopause-leave-work-life-balance-women-south-korea-and

6 Sifted, Spain is the first European country to introduce paid period leave - but will women take it? Not everyone is convinced that the new law is without flaws(令和6(2024)年5月27日閲覧)から引用。
https://sifted.eu/articles/spain-paid-period-leave