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コラム1
働き方・休み方に関する制度のイロハ~勤務先の制度について知ろう~
育児・介護休業、生理休暇、テレワーク制度、等々。誰もが安心、快適に働くことができ、そして誰もがその能力を十分に発揮し、仕事と家庭を両立させながら働くことができる環境づくりのために、企業には働く上での様々な働き方・休み方に関する制度が整備されている。しかし、労働者側は、自分の勤務先の制度について、どの程度把握しているだろうか。制度名は聞いたことがあるが詳細が分からない、そもそも導入されているのだろうか、といった疑問を持っている者もいるのではないか。ここでは、主な制度に関する基本について紹介する。
<育児・介護等との両立に関する制度>
○ 産前産後休業
働く女性の母性保護のために、女性が出産前後に取得することができる、法律で定められた休業。産前は、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から女性が請求した場合に取得可能。産後は、女性が請求せずとも8週間就業することができない(ただし、6週間を経過した女性が請求した場合、医師が支障がないと認めた業務に就くことは可能。)。
○ 育児休業
原則1歳未満(最長2歳まで)の子を養育するための、法律で定められた休業。男女を問わず、子を養育するために希望する期間について休業することができ、1人の子に対して原則2回に分割して取得可能。子が1歳以降、保育所等に入れないなどの一定の要件を満たす場合は、1歳6か月まで(最長2歳まで)延長することができる。休業中の経済的支援として、雇用保険の被保険者で一定要件を満たす場合は、育児休業給付金が支給される。
○ 産後パパ育休(出生時育児休業) ※令和4(2022)年10月新設
育児休業とは別に、原則として子の出生後8週間のうち4週間まで、2回に分割して取得できる、法律で定められた休業。育児休業と産後パパ育休を合わせれば計4回の休業が可能。休業中の経済的支援として、雇用保険の被保険者で一定要件を満たす場合は、出生時育児休業給付金が支給される(出産した女性の場合、産後8週間は産後休業期間となるため、本制度は主に男性が対象となるが、養子を養育しているなどの場合は女性であっても対象となる。)。
※ 取得事由の拡大(感染症に伴う学級閉鎖等や子の行事参加)及び利用可能期間の延長(小学校3年生修了時まで)等を内容とする、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律(令和6年法律第42号)が第213回国会(令和6(2024)年)において成立した。
○ 介護休業
要介護状態(負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための、法律で定められた休業。対象家族1人につき3回まで、通算93日まで取得可能。休業中の経済的支援として、雇用保険の被保険者で一定要件を満たす場合は、介護休業給付金が支給される。
○ 子の看護休暇
小学校就学前の子を養育する場合において、病気・けがをした子の看護又は子に予防接種・健康診断を受けさせるための、法律で定められた休暇。1年度に5日まで(対象となる子が2人以上の場合は10日まで)、年次有給休暇とは別に、休暇を取得することができる。時間単位での取得も可能。有給か無給かは、事業者の規定による。
○ 介護休暇
要介護状態(定義は介護休業と同様)にある対象家族の介護やその他の世話を行うための、法律で定められた休暇。1年度に5日まで(対象家族が2人以上の場合は10日まで)、年次有給休暇とは別に、休暇を取得することができる。時間単位での取得も可能。有給か無給かは、事業者の規定による。
<休暇に関する制度>
○ 時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)
年次有給休暇について、5日の範囲内で、時間を単位として取得することのできる休暇。労使協定(使用者と事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(当該労働組合が無い場合には労働者の過半数代表)との書面による協定)の締結及び就業規則等への定めが必要。
※ 半日単位の年次有給休暇は、時間単位年休と異なるものであり、労働者が希望し使用者が同意した場合であれば、労使協定が締結されていない場合でも、取得することが可能。
○ 生理休暇
月経(生理)によって下腹痛、腰痛、頭痛等により就業が困難な女性が取得することのできる、法律で定められた休暇。半日単位、時間単位での取得も可能。有給か無給かは、事業者の規定による。月経の期間や支障の程度は個人によって異なるため、就業規則等において休暇日数を限定することはできない(生理休暇自体の日数には制限をかけず、有給となる日数のみを限定することは可能。)。
<働き方、労働時間に関する制度>
○ テレワーク制度
情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方を指す。テレワークを、働く場所という観点から分類した場合、自宅で働く「在宅勤務」、本拠地以外の施設で働く「サテライトオフィス勤務」、移動中や出先で働く「モバイル勤務」などがある。就業形態でみると、企業に勤務する被雇用者が行うテレワーク(雇用型テレワーク)や、個人事業者等が行うテレワーク(自営型テレワーク)などがある。制度の詳細は、各事業者の規定等によって定められている。
○ フレックスタイム制
労働者が始業及び終業時刻を自主的に決定して働く制度。労使協定(使用者と事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(当該労働組合が無い場合には労働者の過半数代表)との書面による協定)の締結及び就業規則等への定めが必要。あらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、始業及び終業時刻について労働者の決定に委ねることで、労働者が自身の生活と業務の調和を図りながら効率的に働くことができるものである。なお、1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社又は退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分けることも可能であるが、コアタイムもフレキシブルタイムも必ず設けなければならないものではない。
○ 勤務間インターバル制度
終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組み。法律で制度の導入を事業者の努力義務と定めており、労働者の十分な生活時間や睡眠時間を確保しようとするもの。制度の導入に当たっては就業規則等への定めが必要。
制度名 | 根拠となる法律 | 設置義務 | |
---|---|---|---|
育児・介護等との両立に関する制度 | 産前産後休業 | 労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「労働基準法」という。)第65条第1~2項 | ○ |
育児休業 | 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)第5~10条 | ○ | |
産後パパ育休 (出生時育児休業) |
○ | ||
介護休業 | 育児・介護休業法 第11~16条 | ○ | |
子の看護休暇 | 育児・介護休業法 第16条の2~4 | ○ | |
介護休暇 | 育児・介護休業法 第16条の5~7 | ○ | |
休暇に関する制度 | 時間単位の年次有給休暇 (時間単位年休) |
労働基準法 第39条第4項 | ※労使協定の締結及び就業規則への定めによる |
生理休暇 | 労働基準法 第68条 | ○ | |
働き方、労働時間に関する制度 | テレワーク制度 | ― | ※各事業者の規定等による |
フレックスタイム制 | 労働基準法 第32条の3 | ※労使協定の締結及び就業規則への定めによる | |
勤務間インターバル制度 | 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法 (平成4年法律第90号)第2条第1項 |
※努力義務 |
それぞれ制度には、事業者の義務として法律で定められているもの、事業者の努力義務として定められているもの、労使協定の締結等が必要なもの、各事業者に委ねられているもの等があり(表)、義務として法律で定められている制度については、働く者の権利として請求することが可能である。また、契約期間の定めのある労働者(有期雇用労働者)であっても、要件を満たせば利用することができる制度が多々存在する。仕事との両立に困難を感じた際には、制度を利用することで乗り越えられることがあるかもしれない。
企業にとっては、適切な制度を整備することにより、従業員の権利を保護して健全な労働環境を提供することができ、さらにはその適切な運用が、従業員のモチベーションやエンゲージメント1を高めることや生産性の向上に寄与し、ひいては企業全体の成長や企業価値の向上につながるとも考えられる。先駆的企業においては、法定を超える様々な制度を整備し、従業員の働き方をサポートしているケースもみられる。働き方が大きく変化し、価値観が多様化している現代において、時代に合わせた制度の見直しが求められるであろう。
働く全ての人が自らの能力を最大限に発揮し、生き生きと生産性高く働き続けていくためには、企業による制度の整備・見直しに加え、従業員自らが勤務先の制度を知り、それぞれのライフステージに応じて上手に活用していくことが重要だと考えられる。
1 エンゲージメントとは、人事領域においては、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」といった意味で用いられる(経済産業省「未来人材ビジョン」(令和4(2022)年5月))。