特集 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題と未来

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特集 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題と未来

令和2(2020)年は,我が国の男女共同参画にとって,歴史的な年であった。

新型コロナウイルス感染症(以下,「新型コロナ」という。)の感染拡大は,各国の弱いところを露わにした。我が国においては,男女共同参画の遅れが露呈することになった。

新型コロナの感染拡大は,令和2(2020)年の年明け頃から世界規模で人々の生命や生活に大きな影響を及ぼしている。とりわけ女性への影響が深刻である。経済的な影響を見ると,女性の就業が多いサービス業等の接触型産業が強く影響を受けたことから,製造業が強い影響を受け「男性不況」ともいわれた平成20(2008)年のリーマンショックと対比して,「女性不況(シーセッション(She-Cession))」と呼ばれることもある。

また,DV(配偶者暴力)や性暴力の増加,深刻化は,ロックダウンした各国で報告された。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は,令和2(2020)年4月9日に,新型コロナの感染拡大が既存の不平等を強め,社会的・政治的・経済的システムにおける女性・女児のぜい弱性を露呈させ,新型コロナの影響を増幅させたと述べ,新型コロナの影響からの回復においては,女性・女児を対応の中心に据えるよう,各国政府に対して要請した。

我が国では,令和2(2020)年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発出されたが,ステイホーム,在宅ワーク,学校休校等の影響は,サービス業,とりわけ飲食・宿泊業等を直撃し,非正規雇用労働者を中心に雇用情勢が急速に悪化した。同時にこれまで見過ごされてきたことや,潜在的にあったものの表面化してこなかった諸問題,例えば,経済的・精神的DV (配偶者暴力),ひとり親世帯,女性・女児の窮状,女性の貧困等がコロナ下で可視化され,改めて男女共同参画の進展状況について疑問の声が上がるようになった。こうした我が国の構造的な問題への関心の高まりや,ジェンダー不平等に対する問題意識の高まりは,男女共同参画を強力に推進するとともに,誰一人取り残さない多様性と包摂性のある社会を実現する機会と捉えるべきである。

第1節,第2節では,緊急事態宣言下でどのようなことが起きていたのか,就業面と生活面をめぐる環境の変化について,政府統計及び内閣府で行った調査等を中心に整理を行い,概観する。

第3節では,新型コロナに対する政府の取組について整理した上で,コロナ下で改めて注目されることとなった「新しい働き方」や「新しい暮らし方」について,ジェンダーの視点から整理・分析し,ポストコロナ時代における男女共同参画の未来を考察する。

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就業者数(前年差)

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労働力人口(前年差)

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完全失業率

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コロナ下における対応策等の推移

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コロナ下における対応策等の推移(続き)

特集のポイント


第1節 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題~就業面~

  • 平成31(2019)年1月以降の就業者数の推移を見ると,男女ともに,緊急事態宣言が発出された令和2(2020)年4月に前の月と比べて大幅に減少しており,男女で比較すると,女性は70万人の減少,男性は39万人の減少と,女性の減少幅の方が大きい。
  • 就業者数の増減を産業別に見ると,緊急事態宣言中の令和2(2020)年4月から5月の前年同月差の一月当たり平均は,女性は「飲食サービス業」,「生活関連サービス業,娯楽業」,「小売業」の順に,男性は「飲食サービス業」,「建設業」,「製造業」・「小売業」の順に,減少幅が大きい。
  • 雇用形態別雇用者数(役員を除く)の前年同月差の推移を見ると,女性は,正規雇用労働者の増加が続く一方,非正規雇用労働者は令和2(2020)年3月以降,13か月連続の減少。
  • 産業別雇用者の雇用形態別の割合を男女別に見ると,女性は非正規雇用労働者の割合が高く,女性雇用者(役員を除く)の半分以上が非正規雇用労働者となっている。特に,「宿泊業,飲食サービス業」,「生活関連サービス業,娯楽業」は,雇用者(役員を除く)全体における女性の非正規雇用労働者の割合が高い。一方,男性は正規雇用労働者の割合が高く,男性雇用者(役員を除く)の約8割が正規雇用労働者となっている。
  • コロナ下におけるひとり親世帯への影響を見ると,令和2(2020)年7~9月期平均の完全失業率への影響は,子供のいる有配偶の女性にはほとんど影響が見られない一方,母子世帯の親には約3%ポイントの押し上げ要因となっている。

※令和2(2020)年の実測値と,平成27(2015)年から平成31・令和元(2019)年までのデータから作成した予測モデルで算出した令和2(2020)年の予測値の差で評価。

第2節 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題~生活面~

  • 全国の配偶者暴力相談支援センターと「DV相談プラス」に寄せられたDV(配偶者暴力)相談件数を合わせると,令和2(2020)年度は19万0,030件で,前年度比で約1.6倍に増加。
  • 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの令和2(2020)年度の相談件数は5万1,141件で,前年度比で約1.2倍に増加。
  • 平成31(2019)年1月以降の自殺者数の推移を見ると,女性は令和2(2020)年6月以降,男性は令和2(2020)年8月以降,前年同月差で増加傾向にある。
  • 令和2(2020)年の自殺者数を見ると,男性は前の年と比べて23人減少しているが,女性は935人増加している。

第3節 ポストコロナ時代における男女共同参画の未来

  • テレワークを経験して感じたことを,就業者のテレワークを経験した女性と男性を比較すると,女性は,家庭生活においての課題を感じ,男性は仕事についての課題を感じている。
  • 医療・福祉,情報通信業等,コロナ下においても就業者数が増加している産業がある。有効求人倍率を見てみると,第1回緊急事態宣言後,飲食業関連の職業を中心にサービスの職業の減少幅が非常に大きいが,介護サービスの職業については,3.4倍以上で推移しており,ニーズが高い。IT関連の転職求人倍率も高く推移している。今後,このようなニーズのある分野や成長分野等へのシフトが重要であり,そのためには,人材育成,マッチング,勤務環境の改善等が必要である。
  • 1日の時間の使い方について,令和2年度調査(令和2(2020)年11月~12月調査)と令和元年度調査(令和元(2019)年12月調査)を比較すると,男性の仕事時間が減少した分,育児時間が増加し,男性の育児参画が進んだように見える。ただし,女性の育児時間も同様に増加しており,また家事時間については変化がないことから,女性が男性の2倍以上,家事・育児をしている傾向は,第1回緊急事態宣言前も宣言後も変わらない。