男女共同参画白書(概要版) 平成30年版

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第2節 男女の健康支援

(平均寿命と健康寿命)

我が国の平成28年の平均寿命は女性が87.14年,男性が80.98年と世界でも高い水準である。28年の健康寿命(日常生活に制限のない期間)は女性が74.79年,男性が72.14年,平均寿命と健康寿命の差(日常生活に制限のある「不健康な期間」)は女性が12.35年,男性が8.84年となった(I-特-26図)。

I-特-26図 平均寿命と健康寿命の推移

(ライフステージに応じた女性の健康支援)

女性は思春期,成熟期,更年期,老年期と,男性とは異なる心身の変化に直面する。理由の1つは性ホルモンの動きであり,女性は男性のように一定に分泌されず,月経,排卵,次の月経と,概ね1か月単位で変動が繰り返される。女性には卵巣の寿命があり,男性の性ホルモンが加齢によって緩やかに下降するのに対し,女性では急激な減少・喪失という,大きな性ホルモンの動きが40代後半~50代に訪れる(I-特-34図)。

I-特-34図 男性・女性ホルモンの推移

(人工妊娠中絶,若年層の予期しない妊娠の防止等)

女性人口千人当たりの人工妊娠中絶数(中絶実施率)を見ると,スウェーデンや英国,フランスの10代が高く,他の先進国も20代前半の年齢層で高い(I-特-37図)。日本の中絶実施率を見ると,年齢計は6.5であり,年代別に見ると20歳未満は5.0,20~24歳は12.9である。

コラム

予期しない妊娠の防止と性感染症の予防に向けた取組~英国とフィンランドの事例~


若年層の予期しない妊娠の防止と性感染症の予防は各国共通の課題であり,いずれの国も,現状を踏まえた啓発や相談指導の充実等の取組を進めている。英国とフィンランドの取組事例を概観する。

(相談内容は秘匿されるため,心配せずに医療機関に来るよう若者に呼びかけるNHSのポスター)

(相談内容は秘匿されるため,心配せずに医療機関に来るよう若者に呼びかけるNHSのポスター)

英国では,国民保健サービス(NHS)の仕組みの中で,一般家庭医(GP)の診療所や若者向けクリニック(ユース・クリニック等),避妊クリニック等において,避妊方法や予期しない妊娠等に関する相談,性感染症の検査や治療,低用量ピルを含む避妊法の提供が行われている。NHSのサービスは,英国居住者であれば誰でも原則として無料で利用できる。NHSの医師や看護師等には,利用者が未成年か否かに関わらず,守秘義務が課されている1。しかしながら,未成年者の場合,相談内容が親や教師に伝わるのではないかと心配し,相談や治療をためらうケースがある。NHSでは,必要な者に迅速に支援の手が届くよう,若者を対象としたブックレットやウェブサイト等において,生命や身体の安全に関わる場合等を除き,相談や治療の内容が家族や教師に伝わることはない旨,平易な言葉で周知している。

フィンランドでは,1970年から,学校教育の中で,予期しない妊娠や性感染症の予防策を含む性教育が行われてきた。また,中学校,高校,大学などの学校保健師と,ネウボラの医師・保健師等が,若者の予期しない妊娠の防止等に重要な役割を果たしている。学校保健師は,避妊や性感染症等を含めた生徒の健康や医療面の相談にのるほか,自治体によっては低用量ピルの提供等も行う。学校保健師のサービスを受けられない若者には,各自治体が運営する「青少年ネウボラ」や「家族計画ネウボラ」2において,月経や避妊,性感染症,人工妊娠中絶等に関する相談や医療サービスが提供される。フィンランドでも我が国同様,低用量ピルには医師の処方箋が必要である。ただし,未成年者でも,医師の診察や処方箋の発行に親の同意は不要であり,若者が医師の診察をためらうことがないよう,市町村のウェブサイト等でこうした情報が周知されている。人工妊娠中絶も同様である。例えば,ヘルシンキ市が運営するウェブサイトでは,「未成年者が中絶を希望する場合,一般には両親に相談することが望ましいが,ただし,(両親の)同意は不要である」,「本人の希望に反して,医師等が両親に事情を伝えることはない」旨案内されており,親に相談できない等の理由で若者が問題を一人で抱え込むことがないよう取組を進めている。

I-特-37図 人工妊娠中絶率(国際比較)

(備考)英国NHSのホームページ,infopankki.fi(ヘルシンキ市が運営するフィンランドの基本情報サイト),フィンランド国立健康福祉センター(THL)・ヘルシンキ市・タンペレ市・エスポー市のホームページ,“Sexual and reproductive health in Finland”(THL),「ネウボラ フィンランドの出産・子育て支援」(高橋睦子,かもがわ出版)等を参考に作成。

1ただし,利用者が13歳未満の場合,医師や看護師等の判断により,ソーシャル・ワーカー等が関与する場合がある。

2ネウボラには,妊娠期から就学前まで子を持つ家庭に切れ目ない支援を行う「出産ネウボラ」,「子どもネウボラ」のほか,避妊や性感染症の相談対応等を行う「青少年ネウボラ」や「家族計画ネウボラ」,虐待や精神疾患,離婚等の問題を抱える家庭への支援を行う「家族ネウボラ」等の種類がある。

(月経痛,月経前症候群(PMS),月経不順など)

内閣府男女共同参画局の調査4によると,月経痛,月経による体調不良・精神不安等の月経に伴う症状を20代,30代の相当数の女性が感じている(I-特-38図)。平成20年に低用量ピルが月経困難症治療薬として保険収載されており,現在は,月経に伴う症状についても,婦人科で幅広い治療法が提供されている。

4内閣府男女共同参画局が,平成29年12月にインターネットモニター5,000名を対象に実施した調査。

I-特-38図 月経に関する不調

(不妊)

国立社会保障・人口問題研究所の平成27年調査5では,不妊の心配をしたことがある夫婦の割合は35%,実際に不妊の検査や治療経験のある夫婦の割合は18.2%である。不妊治療(体外受精)の治療延べ件数は,平成27年には40万件を突破し,10年前の3倍となっている(I-特-39図)。不妊治療を行った場合でも,年齢が上がると,生産分娩率が下がる傾向が見られる(I-特-40図)。

5「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(国立社会保障・人口問題研究所,平成29年3月31日)

I-特-39図 体外受精の延べ件数の推移

I-特-40図 体外受精における年齢と生産分娩率

(女性とがん)

女性で罹患数1位の乳がんと5位の子宮がんは,20代後半から罹患率が上昇し,40代後半~50代前半でピークになるのに対し,胃がんや大腸がん,肺がんなど男性の罹患率が高いがんは,年齢が上がるほど罹患率も上昇する。年齢階級別にがんの罹患率を見ると,20代後半から50代前半までは,女性が男性を大きく上回る(I-特-41図)。

I-特-41図 年齢階級別がん罹患率(平成25年)

コラム

乳がん治療と仕事を両立できる職場づくりに向けた取組~NPO法人ビーシーアンドミー古田代表の挑戦~


古田 智子(ふるた ともこ)
NPO法人ビーシーアンドミー代表理事。
1965年生まれ。東京都出身。国・地方公共団体を事業領域としたシンクタンク等を経て,2013年2月,株式会社LGブレイクスルー設立。14年7月,乳がんと診断され,8月に温存手術,その後,放射線治療,抗がん剤治療を行い,現在はホルモン療法中。16年4月,NPO法人ビーシーアンドミーを設立し,企業研修のほか,東京都浴場組合と協力して,公衆浴場で乳がん検診を啓発する「おっぱい銭湯」等の取組を実施。

古田 智子(ふるた ともこ)

乳がん患者数は年々増加しており,平成25年現在,女性の11人に1人は一生のうちに乳がんと診断されると言われており,誰もが罹り得る病気である。また,乳がん罹患のピークには,職場でも家庭でも多くの責任を持つ40代後半の働き盛り世代が含まれる。

官公庁ビジネスソリューション事業を経営する古田智子さんも,平成26年,起業直後に40代で乳がんに罹患した。自身が治療を行う中で初めて,乳がんは死に至る病でなく,治療後に日常生活を取り戻している患者が大勢いること,短期の入院や通院での治療が可能であり,罹患しても働き続けられるケースが多いことを実感したという。

古田さんは,自身の経験から,平成28年に,乳がん治療と仕事の両立ができる社会づくりを目指して,NPO法人ビーシーアンドミーを立ち上げた。古田さんのもとには,乳がんに罹患した方から多数の相談が寄せられるが,なかには,乳がんだと会社に告げたところ,望まない配置転換や契約解除をされたケースの他,治療と仕事の両立は無理だと考えて,本人が自発的に辞めてしまうケースもあるという。

40~50代の最も活躍する世代の女性が乳がんによりキャリアを絶たれることは,本人のみならず,人材育成に投資してきた企業にとっても大きな損失である。古田さんは,こうした思いで,乳がんに罹患した社員が働き続けられるよう,企業と協力して管理職向けの研修等の事業に取り組んでいる。

インターネット・通信関連事業を中心に,医療機関向けシステム事業,調剤薬局事業を展開する株式会社ソフィアホールディングス(東京都新宿区)は,平成29年11月,ビーシーアンドミーの企画により,「もしも上司が・部下が・同僚が乳がんになったら」と題する社員向けの研修を行った。同社の新村直樹社長によれば,医療関連の分野でビジネス展開する以上,自社においても,がん治療と仕事の両立に関するノウハウを持たなければいけないと考え,研修を実施したという。

研修への参加は任意であったにも関わらず,男性管理職も含め,社員の半数以上が参加した。参加した社員からは,仮に乳がんに罹患した場合でも,治療のサイクルに併せた仕事の段取りにより十分な成果を上げられることや,コミュニケーションの取り方などがん以外の疾患で療養している社員にも応用できることに気づいた,等との声が上がった。

ソフィアホールディングスは,現在でも,療養が必要な社員がいる場合,本人の状況を踏まえて,柔軟に対応しているが,今回の研修を一つの契機に,将来的には,治療と仕事の両立に向けた制度の整備も視野に入れているという。

乳がん治療と仕事を両立できる職場づくりに向けた取組~NPO法人ビーシーアンドミー古田代表の挑戦~

(更年期障害)

日本人女性の閉経の平均年齢は50歳であり,その前後の5年間(45~55歳頃)を更年期という。女性の場合,閉経に伴う女性ホルモン(エストロゲン)の量が急減することにより,汗,寒気,冷え症,動悸等の自律神経失調症状や,イライラ,怒りっぽい,抑うつ気分等の精神症状等,多彩な症状が発現する。内閣府男女共同参画局の調査によると,40代女性では約40%が,50代女性では約50%が更年期の症状を感じており,50代女性の場合,約10%の者が治療をしていると回答した。

(フレイル6と要支援・要介護)

65歳以上の高齢者を対象に,体重減少,筋力低下,疲労感など5つの観点からフレイル(虚弱)とフレイル予備群に分類した研究結果を見ると,フレイルもフレイル予備群も女性で多い(I-特-42図)。

65歳以上の要介護認定者数は,平成27年度末現在で607万人(女性422万人,男性185万人)である。各年齢階層の人口に占める認定割合を男女別に見ると,男女とも80歳以上になると認定率が急上昇するが,特に女性の上昇率が男性と比べて高い(I-特-43図)。

6「フレイル」とは加齢とともに,筋力や認知機能等の心身の活力が低下し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの危険性が高くなった状態。適切な介入・支援により,生活機能の維持向上が可能。

I-特-42図 フレイルとフレイル予備群の占める割合

I-特-43図 要介護認定者数と認定率(年齢階級別)

(女性の定期健診とがん検診)

男女別・年齢別に健診等(健康診断,健康診査,人間ドック)の受診状況を見ると,いずれの年代でも男性の方が受診率が高い。女性のうち,正規職員,非正規職員,仕事なしで家事を担う者を比べると,正規職員の場合,30代で8割以上の者が健診を受けているのに対し,仕事なしで家事を担う者では3割程度と大きな開きがある(I-特-45図)。子宮頸がん検診と乳がん検診の受診率について,正規職員,非正規職員,仕事なしで家事を担う者のいずれも年代によりばらつきがみられる(I-特-48図)。

I-特-45図 女性の健診受診率

I-特-48図 女性のがん検診受診率

コラム

「バストにいちばん近い会社」ワコールの乳がん・子宮がん検診の推進等


株式会社ワコールホールディングス(以下「ワコール」という。)では,2015年11月に「ワコール健康宣言」を発表し,「社員の健康は持続的成長のための重要な資産」との基本方針の下,がん対策・生活習慣病対策・メンタルヘルス対策の3分野の取組を進めている。

(乳がん検診車「AIO」)

(乳がん検診車「AIO」)

がん対策においては,男性社員900人に対して,女性社員が5,000人と女性が非常に多い企業であることから,乳がん検診・子宮がん検診にも注力している。具体的には,2009年10月に乳がん検診サポート事業を発足させ,乳がん検診車「AIO(アイオ)」を購入,2011年から,本社や各事業所にバスを横付けし,移動の手間なく乳がん検診・子宮がん検診を受けられるようにした。「AIO」は他社への貸し出しも行っており,各地域で働く他社の女性の乳がん検診の受診率向上・早期発見にも寄与している。

ワコールでは,原則として,「お財布要らず(一時的でも個人の支払いなし)」,「手間要らず(会社で受診可能。定期健診のついでに受診)」,「休み要らず(就業時間内の受診を原則とする)」の3つの観点からがん検診の受診環境整備を進めている。百貨店や専門店などの店頭で働く外勤スタッフについても,勤務場所に近い契約医療機関において,定期健診のメニューにがん検診を組み込み,検診費用の立替払い等を不要とし,受診と移動に係る時間を就労扱いとすることで,受診率向上を達成したという。こうした様々な取組を通じて,検診受診率は乳がんが約80%,子宮がんが約65%と高い水準を誇る。また,がん検診を始めとした健康経営推進の結果,経済産業省と東京証券取引所が共同で実施する「健康経営銘柄」に3年連続(2016~2018)で,「健康経営優良法人(ホワイト500)」に2年連続(2017,2018)で選ばれた。

ワコールは,女性用のランジェリーを製造・販売する企業であり,「バストにいちばん近い会社の責務」という考えの下,自社の女性社員のための活動に止まらず,乳がん対策等の社会貢献にも取り組む。例えば,乳がん手術を受けた方の術後のQOL向上のために,1974年から,体への負担を軽減し,ボディラインを綺麗に見せるインナーウェアや水着などを開発・提供する「リマンマ事業」と名付けたソーシャルビジネス1なども手掛けている。

(個室で専門のアドバイザーに相談しながら商品を選べるリマンマルーム)

(個室で専門のアドバイザーに相談しながら商品を選べるリマンマルーム)

(幅広のストラップなど,体に負担がかからない工夫が施されたリマンマの商品)

(幅広のストラップなど,体に負担がかからない工夫が施されたリマンマの商品)

1ソーシャルビジネスとは,社会的課題を解決するために,ビジネスの手法を用いて取り組むものであり,社会性・事業性・革新性が求められ,継続的に事業活動を進めていく必要がある。「リマンマ事業」は,乳房切除手術を受けた女性に寄与するため,1974年に社長直轄の「社会福祉課」を設置して始まったものであり,現在に至るまで事業が継続されている。(ワコールホームページ)

(疾患等の性差)

通院者率(人口千対)を見ると,痛風や脳卒中(脳出血,脳梗塞等)は男性に多く,骨粗しょう症や甲状腺の病気,関節リウマチ等は女性に多い。女性の通院者率が高い骨粗しょう症は,閉経前後の50代前半から女性の通院者率が大きく上昇する。脂質異常症も女性の通院者率が高い疾患だが,50代前半までは,男性の通院者率が女性より高い(I-特-54図)。

I-特-54図 男女別の通院者率(女性に多い疾患)

(医療分野における女性の参画)

医療分野への女性の参画状況を見ると,医師,歯科医師に占める女性の割合は増加傾向にあり,平成28年には,医師は21.1%,歯科医師は23.3%である(I-特-56図)。OECD加盟国では,女性医師の割合が4~5割を占める国が多い(I-特-58図)。

I-特-56図 医療職,医療系学部学生に占める女性の割合

I-特-58図 女性医師の占める割合(国際比較)

コラム

フィンランドの医療制度と医師の働き方


フィンランドでは,医療の約8割が公的部門で行われており,医師のおよそ3分の2が公的医療機関で働く。公的医療機関には,一次医療を提供する市町村の医療センターと専門医療を提供する公立病院がある。住民は通常,居住地域内の医療センターと主治医が決められており1,医師の診察を希望する際は,まず医療センターに連絡し,予約を取る。医療センターの外来受付時間は平日昼間2で,フィンランドに1年以上暮らす者であれば誰でも低額3で利用可能だが,患者が多く,受診までの待ち時間が長い。民間クリニックも1次医療を提供しており,費用は高いが,医療センターに比べて待ち時間は短い。

(フィンランド社会保健省ホームページより)

(フィンランド社会保健省ホームページより)

日本と異なり,緊急時を除いて,病院に直接行くことはできない。最初に医療センターや民間クリニックで診察を受け,医師が専門的治療の必要性を認めた場合に限り,病院に診断書が送られ,診療を受けることになる。

フィンランドでは,当直医を除くと,医師も8時間労働が基本だという。フィンランド第2の都市であるタンペレ市のタンペレ大学耳鼻咽喉科(30床)で勤務経験のある医師によると,同科の医師数は13名でうち女性が8名(当時),朝8時にミーティング,その後,それぞれ外来や病棟,手術室に移動して仕事をこなし,午後4時には1人の当直医を残して帰宅するというのが1日の大まかな流れだという。

フィンランドでは,人口当たりの医師数が日本に比べて多い4。加えて,受診する医療機関を自由に選ぶことができないなど,医療へのアクセスに制限があるため,初診や軽症の患者で大病院が混雑し,医師が疲弊する状況が生じにくい仕組みとなっている。こうした仕組みにより,国民1人当たりの年間の医療機関受診回数は日本の約3分の15,医師1人当たりの年間延べ診察数も日本の約4分の16に止まる。タンペレ大学耳鼻咽喉科でも外来患者数は,1日当たり20~30人程度だという。

また,在院日数も日本に比べ極めて短い7。タンペレ大学耳鼻咽喉科の場合,手術件数は年間約1,500件に上るが,その半数は全身麻酔の日帰り手術である。日本では一週間程度の入院8となる慢性副鼻腔炎9の手術も,タンペレ大学では1泊2日10,止血のための鼻内ガーゼは自分で抜去し,出血が止まらない等の術後のトラブルがあれば,自宅近くの病院か,かかりつけの医療センターを受診するのが通常だという。加えて,診療科にもよるが,金曜日には大半の患者が退院し,土日の入院患者数は極めて少ない。日本の医療提供体制と比べると不便に感じるが,患者も一定の不便さを受け入れることで,医師が仕事と家庭を両立できる体制となっている。

ただし,フィンランドの医療も決して良い面ばかりではない。前述の待機時間の長さも課題の一つだが,その他,男女の働き方についても,我が国同様,女性医師は男性医師に比べてパートタイムで働く割合が高い11。フィンランドでは,市町村の責任の下で医療サービスの提供が行われるが,例えばヘルシンキ市では,医療センターの予約受付の際に,看護師が患者の症状を聴取し,医師の診察の要否を判断するなど,効果的・効率的なサービス提供に向けて,各市町村で様々な取組が進められている。

(備考)札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科 白崎英明准教授提供資料(「フィンランドの医師支援について」),「主要諸外国における国と地方の財政役割の状況」報告書(財務総合研究所,平成18年12月26日),外務省ホームページ「世界の医療事情 フィンランド」,「平成28年度千葉県市町村職員海外派遣研修報告書」(公益財団法人千葉県市町村振興協会),栗原明美「フィンランドの保健医療福祉制度及び看護事情から見る我が国の課題」(順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究第5巻,2017年),「充実した公的福祉制度(フィンランド)」(JETROユーロトレンド,2000年8月),フィンランド保健福祉省ホームページ,ヘルシンキ市ホームページ,エスポー市ホームページ等を参考に,内閣府男女共同参画局にて作成した。なお,タンペレ大学耳鼻咽喉科の医療提供体制等は,白崎准教授がタンペレ大学で勤務した2000年3月当時の状況である。2016年3月に札幌医科大学で勤務したヘルシンキ大学耳鼻咽喉科Atula准教授への白崎准教授による聞き取りによると,医師の勤務環境等は現在でも同様とのこと。

1本人の希望により変更することも可能である。

2医療センターの場所や連絡先,診療時間は市町村のホームページで確認できる。ヘルシンキ市の医療センターの場合,月・火・木・金:午前8時~午後4時,水:午前8時~午後6時のセンターが大半であり,一部のセンターが平日午前7時~午後8時までの診療となっている。同市に隣接するエスポー市の場合,すべてのセンターの診療時間が平日午前8時~午後4時である。(いずれも2018年3月現在,ヘルシンキ市及びエスポー市のホームページ)

318歳以下は無料。

4日本の人口1,000人当たりの医師数は2.4人,フィンランドは3.2人(2014年)。(OECD Health Statistics 2017)

5日本の国民1人当たりの年間医療機関受診回数は12.7回(2014年),フィンランドは4.3回(2015年)。(OECD Health Statistics 2017)

6日本の医師1人当たりの年間延べ診察数は5,385回,フィンランドは1,310回(2014年)。(OECD Health Statistics 2017)

7日本の平均在院日数は16.5日,フィンランドは9.4日(2015年)。(OECD Health Statistics 2017)

8「平成26年患者調査」(厚生労働省)

9かぜなどで副鼻腔(頬,両目の間,額の下の骨の中の粘膜で覆われた空洞)の粘膜に炎症が生じ,慢性化した状態。鼻汁が出る,匂いが分かりにくくなる,鼻汁が喉にまわって咳の原因になる等の症状が生じる。また,鼻とつながっている中耳や喉に影響を及ぼし,急性中耳炎や喉の炎症,気管支炎,時には鼻づまりによる睡眠障害を起こすこともある。(日本耳鼻咽喉科学会ホームページ「鼻の病気Q&A副鼻腔炎」)

10内視鏡的副鼻腔手術の場合。

11パートタイムで働く医師の割合は,男性約15%,女性約21%である。35~44歳の子育て世代の女性医師の場合,パートタイム勤務者が4人に1人となる。(札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科 白崎英明准教授提供資料より(元データはフィンランド医師会による2016年労働市場調査))