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第2節 女性活躍推進法によって広がりつつある女性活躍推進の取組
女性の活躍推進の取組を着実に前進させるため,平成28年4月に全面施行された,「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号。以下「女性活躍推進法」という。)では,国や地方公共団体,301人以上の労働者を常時雇用する民間事業者等に対して,女性の活躍推進に向けた「事業主行動計画」(以下「行動計画」という。)の策定・公表等を義務付けている。行動計画の策定にあたって,各事業主は,まず,自らの事業における女性の活躍についての現状把握や課題分析を行い,その結果を勘案し,女性の活躍推進に向けての数値目標や取組を行動計画に盛り込むこととされている。加えて,女性の職業選択に資するため,女性の活躍に関する情報の公表が義務付けられている。
(国における取組)
特定事業主の取組として,全ての府省等が,行動計画において,「女性職員の採用」「女性職員の登用」「男性職員の育児休業取得」「男性職員の配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇取得」の4項目についての数値目標を設定するとともに,これら4項目の情報公表を行っている(I-特-14表)。情報公表の対象とされる13項目のうち,行動計画の策定にあたり状況把握すべきとされる7項目2は4機関(内閣官房,内閣府,消費者庁,厚生労働省)が公表している。
2「女性職員の採用割合」「継続勤務年数の男女差」「超過勤務の状況(月平均時間)」「管理職の女性割合」「各役職段階の職員の女性割合」「男女別の育児休業取得率」「男性職員の配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇取得率」は,女性活躍推進法に基づく事業主行動計画策定指針において,特定事業主が把握を行う項目。
(地方公共団体における取組)
都道府県の取組として,知事部局の行動計画において,「女性職員の管理職登用」の数値目標を設定するのは43団体である。女性職員の管理職への登用に都道府県間で大きなばらつきがある状況を反映し,数値目標の水準も都道府県間で大きなばらつきがある。
都道府県推進計画や市町村推進計画において,中小企業における女性の活躍推進に対する支援を地域全体の優先課題と位置づけ,協議会も活用しつつ,積極的な取組を進める自治体が各地にある。
コラム
「女性活躍応援マネージャー」の伴走支援(京都府・京都市)
平成27年3月に「輝く女性応援京都会議」(協議会)を設立し,事務局機能を果たす「京都ウィメンズベース」を中心に,企業経営者に対し,自社における女性活躍推進のコミットメントの発信を精力的に働きかけている。会議の構成団体(公益社団法人京都工業会,京都経営者協会等)それぞれの活動も活発であり,女性管理職育成のための勉強会や地元企業勤務の理工系の研究分野で活躍する女性社員と女子高生の交流会等を実施している。また,中小企業における事業主行動計画の策定を進めるため,「女性活躍応援マネージャー」が企業を直接訪問し,計画策定・届出の伴走支援を実施している。建設業は女性活躍のノウハウがあまり蓄積されていなかったため,女性活躍応援マネージャーの企業訪問をきっかけに,同じ悩みを持つ同業種の事業者が集まる勉強会の開催に繋がるなど,複数の企業が協力しながら女性活躍推進に取り組んでいる。
コラム
インターンシップ事業が切り開く女性の再就職(岐阜県山県市)
岐阜県山県市では地元企業において人手不足が大きな課題となっている一方で,子育て期の女性(市民)の市外への就労が多く,人材のミスマッチが課題となっている。このため,市として様々な取組を実施している。
女性活躍推進法に基づく市町村推進計画を兼ねる「第3次山県市男女共同参画プラン」は,市民への意識調査の結果や審議会での意見を踏まえ,職業生活だけでなく地域活動などでの女性の活躍にも配慮した上で策定した。また,再就職を望む子育て期の女性を対象に行った地元企業でのインターンシップ事業では,市内の中小企業8社で10名の女性が1~3か月の有給インターンシップを体験し,このうち7名が,体験した企業に希望の就業形態で就職することができた。
(民間事業者等における行動計画の策定や情報公表の取組3)
平成28年12月末時点で,301人以上の行動計画の策定等が義務付けられる一般事業主の99.8%に相当する15,740事業主が行動計画の届出を行っている。301人以上の一般事業主のうち,厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う3,875事業主について,1社あたりの情報公表は平均5.2項目で,企業規模が大きいほど,公表項目数が多くなる傾向にある(I-特-20図)。行動計画の策定・届出等が努力義務とされる300人以下の一般事業主のうち,2,155事業主が自主的に行動計画の策定・届出を行っている。
3女性活躍推進法によって,常時雇用する労働者が301人以上の民間事業者等は一般事業主として,自らの事業における女性の活躍に関する状況把握,課題分析,状況把握,課題分析を踏まえ,計画期間,数値目標,取組内容,取組の実施時期を盛り込んだ行動計画の策定,策定・変更した行動計画の非正社員を含めた全ての労働者への周知及び外部への公表,行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出,女性の活躍に関する情報の公表が,義務付けられることになった。常時雇用する労働者が300人以下の事業主に対しては,努力義務となっているが,女性の活躍推進の裾野を広げるため積極的な取組が期待される。
(「女性の活躍推進企業データベース」における情報充実についての重要性)
行動計画の策定等が義務付けられる301人以上の一般事業主のうち,「女性の活躍推進企業データベース」上で,「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主の割合は4分の1程度,「行動計画の公表」「情報の公表」のいずれかを行う事業主を含めても,同データベースに登録する事業主の割合は5割程度であり,「見える化」の推進が重要となる(I-特-25図)。
(女性の活躍推進に積極的に取り組む企業の認定 ~「えるぼし」認定~)
「えるぼし」の認定企業数は平成28年12月末現在で215社であり,規模別では,1,001人以上の大企業が7割を超え,業種別では,金融業・保険業,卸売業・小売業,製造業の3業種で6割超を占める(I-特-28図,29表)。しかしながら,「えるぼし」の認定企業でも,女性職員の継続就業,管理職への女性の登用等について,認定基準を満たすことは容易ではない。
(中小企業における女性の活躍推進に向けた取組の促進)
中小企業の中には,自主的に行動計画の策定・届出等を行い,女性の採用拡大,女性の職域拡大や育成,正社員転換等を通じた女性の継続雇用,女性の管理職登用の拡大といった課題に対して,各社独自の知恵を出し,同業他社との連携等も活用しつつ,課題解決のため積極的に取組を進める企業がある。
(女性活躍推進法をメインエンジンとした女性活躍の加速・拡大)
女性活躍推進法が全面施行され,働く女性の活躍推進には,事業主の役割が重要であるとの認識の下,国や地方公共団体のみならず,企業等も含めた事業主に対して,女性の活躍に関する状況の把握や課題の分析,行動計画の策定・公表等を義務付ける等,女性の活躍推進のための制度的枠組みが構築された。国や地方公共団体,大企業において,行動計画の策定・公表等が行われ,国や地方公共団体による支援,「えるぼし」認定や公共調達等を通じたポジティブ・アクションの推進もあり,2,100あまりの中小企業(平成28年12月末現在)が自主的に行動計画の策定・届出等を行った。少子高齢化が進む中で,社会の多様性と活力を高め,我が国経済が力強く発展していくため,女性活躍推進法の施行を契機に女性活躍推進の取組をさらに推し進め,企業や地域が自律的に女性活躍に取り組む流れを確立させ,社会全体として女性の活躍が加速・拡大していくことが必要である。
コラム
印刷業界で他社に先駆けて女性営業職を採用
株式会社金羊社(印刷業,従業員数290人,東京都大田区)
印刷業は力仕事が多く,男性中心の職場だったが,オートメーション化を進め,女性の職域が拡大した。そのため女性社員が増えたが,職域が拡大しても,女性自身が職場のリーダーになることに対して戸惑いがあったため,リーダー育成の仕組みづくりとして,複数の社内委員会を立ち上げ,若手・中堅社員に全体の運営・管理や議事進行を任せることで,マネジメントの経験を積ませた。これが良い訓練の場となり,男女ともに若手社員が,管理職への意欲を持つ契機となった。管理職に占める女性比率が8.6%(46名中4名)と,業種平均(4%)を上回る。生え抜きの女性役員も誕生し,女性管理職にとってロールモデルとなっている。
コラム
自社の中核である生産現場への女性の配置
朝倉染布株式会社(繊維工業,従業員数98人,群馬県桐生市)
繊維製品への染色業を行う企業であり,平成28年末現在,桐生市で唯一,「えるぼし」を取得している。社内の人員配置を見ると,二交代制の染色と仕上げの生産現場に女性が少ないことから,女性の職域を拡大するため,女性が生産現場で働く際の問題点の調査等を行った上で,染色の現場に女性社員を新たに配置した。その際,染色後の布が積まれた500キログラム近いワゴンを移動するなどの力仕事があるため,新たにバッテリーカーを導入した。職場環境の整備は,男性社員の健康や安全を守るという副次的な効果もある。今後,引き続き女性の職域拡大を図るとともに,生産現場に配置された女性社員が,女性に向いている等の理由で特定の工程に長期間留め置かれることを避け,多能工化によるキャリア形成を支援する予定である。
コラム
計画的な人材育成と管理職登用
社会福祉法人太田福祉記念会(医療・福祉,従業員数233人,福島県郡山市)
介護老人福祉施設や訪問介護事業所を経営しており,福島県で初めて「えるぼし」を取得した。質の高い介護サービスを提供するため,性別に関わらず,経験とスキルを持つ職員に長く働いてもらう必要があると考え,職場内訓練や研修により,計画的に人材育成を進めている。併せて,別の施設への定期人事異動等により,新しい職場環境を5~6年程度のサイクルで経験させることで,職員の仕事に対する意欲の維持を図っている。平成28年4月から,管理職候補者への研修にも取り組むなど,管理職に占める女性比率を,31年度末までに,7割以上にしたいと考えている(業種平均は42.9%)。介護は夜勤などがあり,きつい職場のイメージを持たれがちであるが,同法人では,介護職員の離職率は業界平均(16.5%)を大きく下回る2%台半ばで推移している。
コラム
経営トップの強いリーダーシップによる女性幹部の育成
三州製菓株式会社(食料品製造業,従業員数247人,埼玉県春日部市)
平成28年4月に,全国で初めて「えるぼし」を取得した企業の一つである。現社長の強いリーダーシップの下,1980年代末にゼロだった女性管理職を,約20年間で5名(女性比率27.8%)にまで増やした。意欲と能力のある社員の正社員登用にも熱心に取り組んでおり,現在,女性正社員の27%がパート勤務からの転換者で,うち2名はアシスタントマネージャーの役職を得た。管理職の女性が多い企業でも,女性は補助的立場に回る傾向があるため,会議での男性発言禁止タイムや,商品企画を担う社員を全員女性とするなど,他社に見られない取組も実践している。こうした大胆な改革の結果,若手女性社員が開発した新商品が社全体の売上げの1割を超えるヒット商品となるなどの成果も生まれている。
(商品企画を担当する社員の打合せ)
コラム
公正な人事評価制度の下での役職登用
ヒューリック株式会社(不動産業,従業員数149人,東京都中央区)
平成28年4月に全国で初めて「えるぼし」を取得した企業の一つである。労働力人口が減る中で,企業が生き残りを図るには,女性が働き続けられる環境整備が不可欠であるとの社長の強い意向の下で,女性活躍の基盤整備が進められた。中途採用された女性社員が,中心となって立ち上げた直営ホテル事業の成功などの実績を基に,管理職に昇格した事例に象徴されるように,性別や年齢,経歴に関わらず,意欲と能力のある社員を公正に評価し,登用する方針を徹底している。24年に本社ビル内に事業所内保育所を設置し,28年末現在,社員の子供4名に加え,近隣の子供も入所し,地域における女性活躍のための社会的なインフラ整備にも貢献している。
(部局横断で女性活躍に向けた要望等を出し合う「女性活躍推進プロジェクトチーム」)