第2節 男女共同参画の視点に立った国際貢献

本編 > II > 第1部 > 第16章 > 第2節 男女共同参画の視点に立った国際貢献

第2節 男女共同参画の視点に立った国際貢献

1 「開発協力大綱」「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」に基づく取組の推進

開発途上国における社会通念や社会システムは,一般的に男性の視点に基づいて形成されていることが多く,様々な面で女性はいまだ脆弱な立場に置かれている。

開発における男女の平等な参加と公平な受益に向けて努力することは,一義的にはその国自身の課題であるが,開発協力を実施するに当たっても男女共同参画の視点を考慮することが必要である。こうした観点から,我が国は平成17年3月に「ジェンダーと開発(GAD:Gender and Development)イニシアティブ」を策定し,個々の人間に着目した人間の安全保障の視点に基づき,全ての政策・事業においてジェンダーの視点に立った活動が行われるよう,企画・立案・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で男女それぞれの開発課題やニーズ,インパクトを明確にしていく「ジェンダー主流化」を推進している。

開発協力においてジェンダー平等の視点を反映するには,援助対象国における男女共同参画の現状を的確に把握することが重要である。具体的な取組として,援助対象国100公館に配置している「ODAジェンダー担当官」を活用し,平成17年度からジェンダー平等の視点に配慮した好事例等を集め,その情報を関係者間で共有するようにしている。

平成26年9月,安倍総理大臣は第69回国連総会において,前年の演説で約束した女性の地位向上を主眼とした3年で30億ドルを超す支援について,既に18億ドル以上を実施した旨発表した。また,UN Womenに対する拠出金を1年間で5倍に増やしたことに触れ,加えてUN Womenの日本事務所を東京に開設し,国連との連携を一層強化しつつ,ODAによる貧困との戦いでは,自助努力の促進や人間の安全保障の確保に並び,女性の力を増すことにテコの支点を求めることが目標到達にとり重要である旨の演説を行った。なお,安倍総理大臣は,平成27年3月の「国連創設70周年記念シンポジウム」で,UN Womenに対する拠出金を,27年は25年に比べて10倍に増やす旨述べている。

平成27年2月,これからの我が国の開発協力方針を定める「開発協力大綱」が閣議決定された。新大綱では,我が国が60年のODAの歴史の中で築き上げてきた基本的な理念である「人間の安全保障の推進」を日本の開発協力の「基本方針」の一つに位置付けるとともに,そうした人間中心のアプローチの観点に立ち,「女性の参画の促進」を実施上の原則の一つに掲げている。具体的には男女平等,開発の担い手としての女性の活躍推進等の観点から,女性がさらされやすい脆弱性と女性特有のニーズに配慮しつつ,開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進し,また,女性が公正に開発の恩恵を受けられるよう,一層積極的に取り組む旨定めている。

開発協力の実施機関として,独立行政法人国際協力機構(JICA)は,ジェンダー平等や女性の地位向上を目的とする協力事業を実施している。この一環として,各セクター・課題における事業のインパクトが男性・女性の双方に及ぶよう,それぞれが抱える問題やニーズの違い等の把握に努めており,その結果が協力事業の計画・実施・評価サイクルにおいて適切に反映されるように,課題別指針「ジェンダーと開発」の策定や国ごとのジェンダー情報の収集を行うとともに,事業の各段階におけるジェンダー視点からのモニタリング等を行っている。

また,開発協力事業の実施に当たって,女性等社会的に弱い立場にいる者が負の影響を受けることがないように,環境社会配慮ガイドライン等に基づいて配慮している。さらに,各部署(在外事務所,国内機関を含む。)に配置している「ジェンダー責任者」,「ジェンダー担当者」を通じて,開発途上国におけるジェンダー平等や女性の地位向上に貢献する協力事業の実施を促進している。また,ジェンダー平等の視点を組み込んで効果を上げた協力事業の成功例の収集,各開発セクター・課題と男女格差との関係を説明する具体例の収集,他援助機関との積極的な連携・意見交換を通じた事例・手法の研究,職員その他援助関係者に対する研修等といった取組を行っている。

我が国は人間の安全保障を推進すべく,二国間及び多国間協力を通じ,開発途上国におけるジェンダー平等と女性の地位向上に向けた取組を支援している。具体的には,無償資金協力(草の根・人間の安全保障無償資金協力及び日本NGO連携無償資金協力を含む。),有償資金協力,専門家の派遣等の技術協力,国連人間の安全保障基金や日・UNDPパートナーシップ基金等,様々な援助枠組みを活用し,より効果的な事業の実施を図っている(二国間協力についてはII-16-1表,多国間協力については本節3参照)。

II-16-1表 様々な枠組みを活用した援助の実施別ウインドウで開きます
第II-16-1表 様々な枠組みを活用した援助の実施

また,我が国は,人間の安全保障に直結する地球規模の課題として,保健分野における取組を重視している。2010(平成22)年9月のミレニアム開発目標(MDGs)国連首脳会合において,保健関連MDGsの達成に向けた「国際保健政策2011―2015」を発表した。2013(平成25)年5月には,経協インフラ戦略会議において,「国際保健外交戦略」を発表し,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)をジャパンブランドとして推進していくことが決定された。これにより,同年9月の安倍総理大臣による女性関連施策の発表も踏まえUHCを通じた女性の医療アクセスの改善を目指し,産科病院の建設や産前・産後健診システムサービスの向上,母子保健政策の策定支援,看護人材の育成等を行っている。

さらに,我が国は,「国際保健政策2011―2015」と同時に,「日本の教育協力政策2011―2015」も発表した。現在も学校に通うことのできない子供の半数以上が女子であることを受け,同政策では「スクール・フォー・オール(School for All)」モデルの下,脆弱な立場に置かれることの多い女子にとっても通いやすい学習環境を実現することを目指している。

法務省では,国連と共同で運営する国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)において,途上国の刑事司法実務家を対象として,女性犯罪者を含む特別な配慮を有する犯罪者への処遇を主要課題とする国際研修を実施するとともに,2015(平成27)年に予定されている第13回犯罪防止刑事司法コングレスにおける女性犯罪者の社会的統合と処遇についてのワークショップの準備会合を開催した。

2 女性の平和への貢献

我が国は,平和を推進する国際機関の役割の重要性及び紛争時において最も支援を必要とする者は女性や子供であることを考慮し,人間一人ひとりに着目し人々の保護及び能力強化を行う人間の安全保障の視点から,女性に対する支援を行っている。例えば,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連児童基金(UNICEF),国連開発計画(UNDP),国連人口基金(UNFPA)等の国際機関を通じて積極的に協力している。また,平和構築人材育成事業において女性の平和構築人材の育成に取り組んでおり,平成26年度には「平和構築とジェンダー」をテーマとするワークショップを開催した。

防衛省・自衛隊では,国際平和協力活動の現場に女性の自衛官を含む部隊等を派遣している。平成26年度には,国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)において,26年6月から同年12月までは10人(事務官1名を含む。),同年12月から現在にかけては11人の女性自衛官を含む部隊を派遣している。そして,25年6月以降,現在まで延べ2人の女性自衛官を司令部要員として派遣している(平成27年1月末現在)。

また,平成26年5月の安倍総理大臣のNATO本部訪問時のラスムセンNATO事務総長(当時)との会談において,女性・平和・安全保障分野における日NATO協力として,NATO本部への我が国の女性職員の派遣について合意されたことを受け,同年12月より,女性自衛官1名をNATO本部に派遣している。当該女性自衛官はNATO女性・平和・安全保障担当特別代表のオフィスにおいて,NATOが実施する様々な活動について,女性の視点を盛り込み,女性の参画を促す助言等を行っている。

内閣府国際平和協力本部事務局では,国際平和協力隊の隊員派遣前研修を実施しており,女性と平和,安全に関する国連安全保障理事会決議第1325号(2000(平成12)年)の要請を反映し,ジェンダーに関する講義を行っている。一般的なジェンダーに関する知識の付与だけでなく,派遣先国のジェンダー特性を含め,現地でのより効果的な活動に結び付くよう,教育を実施している。

3 国際機関・研究機関等との連携・協力推進

2015(平成27)年は第4回世界女性会議で採択された「北京宣言」及び「北京行動綱領」の採択から20年に当たる(「北京+20」)ことから,我が国におけるそれらの実施状況に関する報告書等を国連に提出した。同年3月には,「北京+20」を主要テーマに第59回CSWが開催され,我が国からは外務大臣政務官が政府団の首席代表としてステートメントを行い,我が国の取組を紹介するとともに,議論に積極的に参加した。UN Womenにおいては,我が国は執行理事国として,2011(平成23)年6月から2015(平成27)年1月までの間に合計11回,執行理事会会合に積極的に参加した。平成26年度には,UN Womenに対して,1,924万ドルの拠出を行った。

また,紛争下の性的暴力について,国連アクションやバングーラ紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所といった国際機関との連携や国際的な議論の場を重視し,一層積極的に取り組んできている。2014(平成26)年,コンゴ民主共和国及びソマリアにおける案件につき,バングーラ紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表の専門家チームに215万ドルの財政支援を行い,第1位のドナーとなった。さらに,2014(平成26)年に国連平和維持活動に派遣される女性保護アドバイザーに対する訓練教材の開発や派遣要員向けEラーニング・プログラム実施のため,国連PKO局に対し約54万ドルの財政支援を行った。

なお,我が国は,2014(平成26)年に国際刑事裁判所の被害者信託基金に初となる拠出を行い(約60万ユーロ),紛争下における女性暴力対策や被害者支援にも力を入れるなど,国際刑事裁判所を始めとする国際司法機関とも協力を深めている。

また,男女共同参画推進連携会議においては,「国際的に連携した女性のエンパワーメント促進」チームを組織して,「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」24について,我が国の企業・団体等における理解促進に向けた活動を行うなど,UN Womenの取組との連携・協力を図っている。

さらに,我が国は,国連教育科学文化機関(UNESCO)に信託基金を設置し,アジア,アフリカを中心に世界各地においてジェンダーに配慮した教育プログラムの開発や女子に対する代替的学習機会の提供等に協力している。

また,国連開発計画(UNDP)に設置した日本信託基金(日UNDPパートナーシップ基金)を通じ,女性の政治参加の促進等のプロジェクトに対して,支援を実施している。これらに加え,我が国が主導して国連に設置された人間の安全保障基金では,女性及びジェンダー平等に焦点を当てたプロジェクトを支援してきている。

さらに,2015(平成27)年3月8日の「国際女性の日」に内閣府特命担当大臣(男女共同参画)からのメッセージを寄せた。

独立行政法人国立女性教育会館では,アジア太平洋地域における男女共同参画を推進する女性教育の人材育成を目指して「アジア太平洋地域における男女共同参画推進官・リーダーセミナー」を実施するなど,途上国における女性教育の推進の支援等を実施している。また,海外の関係機関との連携協力として,協定を結んでいる韓国女性政策研究院,韓国両性平等教育振興院,カンボジア王国女性省,フィリピン大学機構等と互いに訪問し情報交換を行うなど交流を深めた。

また,2014(平成26)年11月には「ダイバーシティ推進と女性のリーダーシップ」をテーマとして,「NWEC国際シンポジウム」を開催し,同年10月にはカンボジア,フィリピン,ラオス,ミャンマー及びベトナムの人身取引対策に携わるメンバーを対象としたワークショップ型研修を独立行政法人国際協力機構の委託事業として実施した。

242010(平成22)年3月に,国連と企業の自主的な盟約の枠組みである国連グローバル・コンパクト(GC)と国連婦人開発基金(UNIFEM)(当時。現UN Women)が共同で作成した7原則。
◯女性のエンパワーメント原則(WEPs)
1)トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進,2)機会の均等,インクルージョン,差別の撤廃,3)健康,安全,暴力の撤廃,4)教育と研修,5)事業開発,サプライチェーン,マーケティング活動,6)地域におけるリーダーシップと参画,7)透明性,成果の測定,報告(内閣府仮訳)