平成24年版男女共同参画白書

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第3節 子どもの健やかな成長と安全で安心な社会の実現

1 子どもに対する暴力・虐待への総合的な対策

児童虐待への対応については,平成12年11月,児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)が施行され,その後,16年及び19年に児童虐待防止法及び児童福祉法の改正が行われ,制度的な対応について充実が図られてきた。しかし,重大な児童虐待事件が後を絶たず,全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数も増加を続け,22年度には5万6,384件(東日本大震災の影響により,福島県を除いて集計した数値)となるなど,依然として社会全体で取り組むべき重要な課題となっている。児童虐待は,子どもの心身の発達及び人格の形成に重大な影響を与えるため,児童虐待の防止に向け,(ア)虐待の「発生予防」,(イ)虐待の「早期発見・早期対応」,(ウ)虐待を受けた子どもの「保護・自立支援」に至るまでの切れ目のない総合的な支援体制を整備・充実していくことが必要である。

厚生労働省では(ア)発生予防に関しては,生後4か月までの乳児がいる全ての家庭を訪問し,子育て支援に関する情報提供や養育環境等の把握,育児に関する不安や悩みの相談等の援助を行う「乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)」や,養育支援が特に必要であると判断される家庭に対して,保健師・助産師・保育士等が居宅を訪問し,養育に関する相談に応じ,指導,助言等により養育能力を向上させるための支援を行う「養育支援訪問事業」,子育て中の親子が相談・交流できる「地域子育て支援拠点事業」の推進等,相談しやすい体制の整備等,(イ)早期発見・早期対応に関しては,虐待に関する通告の徹底,児童相談所の体制強化のための児童福祉司の確保,市町村の体制強化,専門性向上のための研修やノウハウの共有,「子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)」の機能強化,(ウ)保護・自立支援に関しては,社会的養護の質・量の拡充,家族再統合や家族の養育機能の再生・強化に向けた取組を行う保護者支援の推進等の取組を進めている。

また,平成24年4月より児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から,親権の停止制度を新設し,法人又は複数の未成年後見人を選任することができるようにするなどの措置を講ずるための改正民法が施行されるとともに,里親委託中等の親権者等がいない児童の親権を児童相談所長が行うこととすることや,児童の福祉のために施設長等がとる監護等の措置について親権者等が不当に妨げてはならないこととするなどの措置を講ずるための改正児童福祉法が施行されている。

厚生労働省では,平成16年から11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け,児童虐待問題に対する社会的関心の喚起を図るため,関係府省庁や地方公共団体,関係団体等と連携した広報・啓発活動を実施している。23年度においては,月間標語の公募,シンポジウムの開催(東京都世田谷区),広報用ポスター等の作成・配布及び政府広報を活用したイベントの実施,テレビ,ラジオ,新聞等による広報啓発等を実施した。また,民間団体が中心となって実施している「オレンジリボン・キャンペーン」について後援を行っている。

警察では,各種活動を通じて児童虐待事案の早期把握に努めるとともに,児童相談所,学校,医療機関等の関係機関との緊密な連携を保ちながら,児童の生命・身体の保護のための措置を積極的に講じており,児童虐待の疑いのある事案では,速やかに児童相談所等に通告するほか,厳正な捜査や被害児童の支援等,警察としてできる限りの措置を講じて,児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした対応の徹底を図っている。また,平成12年2月に制定した「安全・安心まちづくり推進要綱」(平成18年4月一部改正)に基づき,防犯カメラの整備を促進するなど,児童が犯罪被害に遭いにくいまちづくりを積極的に推進している。

法務省の人権擁護機関では,子どもの人権問題に関する専用相談電話「子どもの人権110番」を設置し,全国一斉「子どもの人権110番」強化週間を実施するほか,相談用の便箋付き封筒「子どもの人権SOSミニレター」を小中学生に配布し,さらに,子ども向けのインターネット人権相談受付窓口(子どもの人権SOS-eメール)を開設するなどして相談体制の充実を図っている。また,全国各地で講演会・研修会等の実施などの啓発活動を積極的に推進するとともに,人権相談,人権侵犯事件の調査処理を通じて,児童虐待の問題に取り組んでいる。

文部科学省では,児童虐待への適切な対応等について,学校教育及び社会教育関係者に対し周知を図り,学校教育・社会教育関係者と児童相談所等の関係機関との緊密な連携の促進に努めている。また,各学校・教育委員会における取組の充実を図るため,平成17年度,国内・海外の先進的取組等の収集・分析等を実施し,18年度,教職員向けの研修モデル・プログラムの検討を行い,20年度,虐待を受けた子どもへの支援等について教職員の対応スキルの向上を図るよう,研修教材を作成し,21年5月,当該研修教材「児童虐待防止と学校」(CD-ROM)を,都道府県等を通じて,学校教育関係者に配布した。

平成22年3月,厚生労働省と協議の上,学校等と児童相談所等の相互の連携を強化するため,学校等から児童相談所等への児童の出欠状況等の定期的な情報提供の実施方法等に関する指針を策定し,都道府県・政令指定都市の教育委員会,福祉部門等宛てに通知し,23年3月,同指針に基づく実施状況等を検証し,結果を公表するとともに,24年3月,児童虐待の速やかな通告を一層推進するための留意事項を,都道府県等を通じて,学校教育関係者に周知した。

さらに,被害者となった児童生徒の相談等に適切に対応できるよう,学校における教育相談体制の充実を支援している(本節4参照)。

2 メディア・リテラシーの向上

内閣府では, 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成20年法律第79号。以下「青少年インターネット環境整備法」という。)及び「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画」(以下「青少年インターネット環境整備基本計画」という。)に基づき,関係省庁や民間団体等と連携して,青少年及び保護者等に対する広報啓発活動や国内外の調査等の施策を実施するとともに,同基本計画の見直し等に向けた検討を推進している。

総務省では,放送分野におけるメディア・リテラシー(メディアからの情報を主体的に読み解き,自ら発信する能力)の向上に資する教材を「放送分野におけるメディアリテラシー」サイトを通じて広く公開することにより,メディア・リテラシーの普及を図っている。また,インターネット,携帯電話等の情報通信分野におけるメディア・リテラシーの育成に資する教材の普及を図っている。さらに,子どもを取り巻くインターネットのトラブルについて,保護者・教職員が知っておくべき事項等をまとめた「インターネットトラブル事例集」をウェブ上に公開し,普及を図るとともに,地域における啓発講座等において活用している。平成23年9月からは,青少年のインターネットリテラシー指標に関する有識者検討会を開催し,青少年のインターネットリテラシーを計測するテストの開発に取り組んでいる。

経済産業省では,関係者と連携し,フィルタリング等に関する情報提供・普及啓発活動を実施して,保護者や青少年のインターネットを適切に活用する能力の向上及びフィルタリングの普及を行っている。

3 児童ポルノ対策の推進

「児童ポルノ排除総合対策」(平成22年7月27日犯罪対策閣僚会議決定)に基づき,関係省庁が連携して,児童ポルノ排除に向けた国民運動の推進,インターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策等を推進している。

総務省では,インターネット・サービス・プロバイダの規模に見合った精度の高いブロッキング方式の開発・実証を行い,その導入に向けた支援・環境整備を行うために,「児童ポルノサイトのブロッキングに関する実証実験」を実施するとともに,当該実証実験の成果等の普及・啓発や児童ポルノアドレスリスト作成・管理を行う民間団体等の活動の支援を行うことで,民間事業者の自主的な取組としてのインターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策の導入の推進を行っている。

警察では,「児童ポルノ排除総合対策」等に基づき,インターネット利用児童ポルノ事犯の態様の変化に応じた取締りの強化,関連事業者によるブロッキングの自主的実施がより実効性のあるものとなるように,関連する情報を提供するなどの流通・閲覧防止対策,被害児童の早期発見及び支援活動等を推進している(第10章第4節2参照)。

経済産業省では,関係省庁と連携の下,青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするため,フィルタリングの普及促進やインターネットの適切な利用等に関する啓発活動,民間事業者の自主的な取組としてのインターネット上の児童ポルノの流通・閲覧防止措置の導入の推進等を行っている。

4 児童買春対策の推進

警察では,平成16年6月に法定刑の引上げ等の改正がなされた,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号。以下「児童買春・児童ポルノ禁止法」という。)に基づき,児童買春の取締りを強力に推進するとともに,被害児童に対しては,関係機関等と連携しつつ,継続的な支援等を実施するなどの保護対策を推進している(第10章第4節3参照)。

厚生労働省では,児童買春の被害者となった児童に対し,相談,一時保護,児童養護施設等への入所等の対応を行い,場合により心理的治療を行うなど,その心身の状況に応じた適切な処遇を図っている。

文部科学省では,被害者を含めて児童生徒等の相談等に適切に対応できるよう,スクールカウンセラー等の配置を推進するなど,学校における教育相談体制の充実を支援している。

5 「人身取引対策行動計画2009」の積極的な推進

人身取引対策に関する関係省庁では,「人身取引対策行動計画2009」(平成21年12月犯罪対策閣僚会議決定)に基づき,子どもが被害者となる人身取引対策の取組を進めている。

6 安心して親子が生活できる環境づくり

文部科学省では,補助金の交付及び地方財政措置により,市町村が,経済的に就学困難な学齢児童生徒の保護者に行う就学援助事業の助成を始め,初等中等教育段階,高等教育段階それぞれにおいて教育費の負担を軽減するための取組を行っている(第8章第3節2参照)。

また,障害のある子どもの自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,障害の状態等に応じ,特別支援学校や特別支援学級,通級による指導において,特別の教育課程や少人数学級の編成の下,特別な配慮をもって作成された教科書,専門的な知識経験のある教職員,障害に配慮した施設・設備等を活用して適切な指導及び支援を行う特別支援教育を推進している。特に,特別支援教育支援員の配置については,平成23年度から高等学校に新たに地方財政措置が拡充された。

厚生労働省では,子どもが地域において,いつでも安心して医療サービスを受けられるよう,小児初期救急センターや小児救急医療拠点病院,小児救命救急センター等の整備を支援する等により,小児救急医療を含め,小児医療の充実を図っている。

7 社会全体で子どもを支える取組

未来を担う子どもたちを健やかに育むため,学校,家庭及び地域住民等がそれぞれの役割と責任を自覚しつつ,地域全体で教育に取り組む体制づくりを推進する「学校・家庭・地域の連携協力推進事業」を実施している。