平成22年版男女共同参画白書

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第2節 女性の就業と労働力人口

(人口減少と少子高齢化の進展)

我が国では,人口減少と少子高齢化が同時に進行している。厚生労働省「人口動態統計」によれば,我が国の合計特殊出生率15は,昭和40年代には,人口水準が中長期的に安定する水準である2.1程度で推移していたが,昭和50年代以降,2を下回り,低下傾向を続けてきた。平成18年からは3年連続で上昇したが,21年の合計特殊出生率は前年と同率の1.37であり,我が国の人口は減少局面にある。同時に,寿命の延伸が続いている。

国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」(死亡中位,出生中位)によれば,我が国の総人口は平成67(2055)年には9,000万人を下回り,「働く年齢」の中核の人々である生産年齢人口(15~64歳)の比率は約5割にまで低下する(第1-特-8図)。

労働力人口や消費者数の減少は,経済成長力の低下につながることが懸念され,働く人の割合が減り,扶養される人の割合が高まる状況において,経済全体として一人当たり所得の増加を続けるためには,生産性の向上を図ることが不可欠となっている。また,社会保障制度についても,費用を負担する担い手が減少していく中で,制度を安心できる持続可能なものとしていくことが課題となっている。

しかし,生産年齢人口の減少と同じテンポで働き手が減るとは限らない。言うまでもなく,現在,生産年齢人口のすべてが働いているわけではなく,そうした人々の就業を促進することで,働き手を増やすことができる。このため,若者,女性,高齢者など潜在的な能力を有する人々の労働市場への参加促進が不可欠である。中でも,女性の年齢別労働力率についてのM字カーブや,345万人に上る就業希望者の存在に明らかなように,我が国は,他の先進国と比較して働き盛り世代の女性の就業率が低く,女性の潜在力を発揮する余地が大きいといえる。女性の就業を進めることで労働市場における人口構造変化の影響を緩和することができると考えられる。

15 女性がその年齢別出生率にしたがって子どもを産んだ場合,生涯に産む平均の子ども数に相当。

第1-特-8図 年齢階級別人口の将来推計別ウインドウで開きます
第1-特-8図 年齢階級別人口の将来推計

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(雇用政策の労働力人口への影響)

第1-特-9図は,第1-特-8図で示した生産年齢人口の全人口に占める比率とともに,独立行政法人労働政策研究・研修機構の推計16を用いて,労働力人口(現在働いている人と現在は働いていないが求職活動をしている人の合計)の全人口に占める比率について,過去の推移と将来の推計値を示したものである。

平成2年から17年までの推移を見ると,生産年齢人口比率は平成2年から低下しているのに対し,労働力人口比率は12年までは上昇し,その後低下に転じている。生産年齢人口比率の低下に対して労働力人口比率の低下が緩やかであるのは,この間に高齢者等で労働力人口が増加していたからである。

平成22年以降の将来推計については,性別,年齢別の労働力率が現在(平成18年)と同じ水準で推移すると仮定した場合には,平成42(2030)年までの推計期間を通じて低下を続けることになる。一方,各種の雇用政策を講ずることにより,若者,女性,高齢者等の労働市場への参入が進んだ場合17には,労働力人口比率は上昇することになる。このように,政策対応によって就業を促進することで,労働力人口の減少を抑制できる可能性がある。

16 独立行政法人労働政策研究・研修機構(2008)「労働力需給の推計-労働力需給モデル(2007年版)による将来推計-」

17 若者,女性,高齢者等の方の労働市場への参入が進んだ場合として,以下のような雇用政策の進展が想定されている(独立行政法人労働政策研究・研修機構(2008)のケースC)。

  • 年齢間賃金格差は一定程度解消することにより,若年者の労働市場への進出が進む。
  • 65歳まで雇用が確保される割合が平成42年には95%の企業割合まで高まり,高齢者の働く環境が整う。
  • 保育所幼稚園在所児童比率が一定程度増加し,女性の就業環境が整う。
  • 短時間勤務制度などの普及により継続就業率が向上する。
  • 男性の家事分担割合が上昇する。
  • 短時間雇用者比率が高まり,平均労働時間も短縮する。
  • 男女間賃金格差が平成42年までに解消する。

第1-特-9図 労働力人口比率の将来推計 別ウインドウで開きます
第1-特-9図 労働力人口比率の将来推計

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(OECD諸国の中でも低い日本の女性就業率)

少子高齢化に直面した諸外国では女性の就業率が増加してきているが,我が国ではその進展は緩やかである。

第1-特-10図は,OECD諸国について,働き盛り世代と考えられる25~54歳の女性の就業率を比較したものである。2008(平成20)年の値を見ると,我が国の女性の就業率は7割弱とOECD諸国の中でも低い水準であり,北欧諸国とは10ポイント以上の開きがある。また,1994(平成6)年の水準と比較すると,他の多くの国で上昇しているのに対して我が国ではあまり上昇せず,相対的な順位が下がっている。

このことからも,我が国では就業の促進を図るに当たり,女性に着目することが重要であると考えられる。

第1-特-10図 OECD諸国の女性(25~54歳)の就業率 別ウインドウで開きます
第1-特-10図 OECD諸国の女性(25~54歳)の就業率

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(「M字カーブ」の解消による労働力人口の増加)

それでは,女性の就業率の向上により実際にどの程度の労働力人口の増加が可能であろうか。

既に見たとおり,女性の就業希望者は345万人に上る。現状の年齢階級別労働力率に,年齢階級別の就業希望率を加えて求めた年齢階級別の「潜在的労働力率」のグラフを見ると,やはり30歳代がくぼんだM字型になっているが,特に20歳代から50歳代にかけて実際の労働力率よりも高い水準となっており,M字の底もやや浅く,台形に近くなっている(第1-特-11図の(3))。仮に,こうした希望者のすべてが就業した場合には,女性の労働力人口は,平成21年の女性労働力人口(2,770万人)に対し,12.5%増加することになる。

次に,いわゆる「M字カーブ」の解消を図った場合の労働力人口の増加について簡単な試算を行ってみる。現状の労働力率(同図中の(1)),及び現状の労働力率に就業希望率を追加した「潜在的労働力率」(同図中の(3))のそれぞれについて,M字カーブを解消した場合にどの程度労働力人口が増えるかを求めた。さらに,仮に労働力率がスウェーデンと同じ水準になった場合の労働力人口の増加(同図中の(5))も示した。

これによると,平成21年の女性労働力人口に対し,M字カーブ解消により131万人の増加(4.7%の増加に相当,同図中の(2)),潜在労働力率を前提にM字カーブが解消した場合には445万人の増加(16.1%の増加に相当,同図中の(4)),労働力率がスウェーデン並みになった場合には528万人の増加(19.1%の増加に相当,同図中の(5))となる。

女性の就業に関する希望が実現できる社会が望まれる。そのためには,様々な課題を解決する必要があるが,ここで示した試算から,我が国では女性の就業者が増加する潜在的な余地は大きく,少子高齢化という人口構造変化が労働力人口の減少に与える影響を緩和するための大きな可能性があることが分かる。

第1-特-11図 M字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算別ウインドウで開きます
第1-特-11図 M字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算

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