男女共同参画社会基本法逐条解説

1 趣旨

本条は、本法が基本法であることから、具体的にどのような措置を講ずるかについては規定していないが、男女共同 参画社会の形成を促進するためには、苦情の処理等が重要であることから、国は、政府の施策についての苦情の処理 のために必要な措置及び人権が侵害された場合における被害者の救済を図るために必要な措置を講じなければならな い旨規定しているものである。

本条は、個別の苦情に対する処理手続等を定めたものではないが、本条に規定する一定の施策についての苦情に ついて、これが適切に処理されるよう仕組みが整備され、適切に運用されること、及び本条に規定する一定の場合におけ る被害者について、適切に救済がなされるよう仕組みが整備され、適切に運用されることを求めるものである。

本条は、国として必要な措置を講じるための規定であって、そのための措置として、例えば、行政相談制度や、人権擁 護委員を含む人権擁護制度の活用が想定される。また、各省庁においても、所管の行政に関する苦情等に関し適切な処 理等がなされるよう措置することが考えられる。

本条は、個別の施策自体の充実を直接に目的としたものではないが、各種の施策についての苦情等があった場合に その処理が適切になされるよう措置することにより、男女共同参画社会の形成の促進を図るものである。

なお、本条は第15条、第16条と異なり、国だけの規定で、地方公共団体に義務付けていない。しかし、第9条により、地方公 共団体には国の施策に準じた施策等を行う責務があり、この「国の施策」には苦情の処理等の施策も含まれている。

また、苦情の処理、人権の侵害による被害者の救済は、政府だけでなく、立法、司法にも担われるものであり、措置を 講じる主体を「国」としている。


2 用語解説

(1)「苦情の処理」

行政上の事項について不満をもつ関係者からの苦情の申し出を、当該事項を所掌する機関又は他の行政機関におい て受け付け、争訴手続(行政不服審査など)とは異なる簡易・迅速・柔軟な方法でこれを処理することである。

(2)「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」

第8条(国の責務)に規定する「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策」のうち、「政府」が実施するものであ るので、第13条の男女共同参画基本計画に盛り込まれた施策が中心となり、これには積極的改善措置も含まれる。

(3)「男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策」

第15条(施策の策定等に当たっての配慮)に規定する「男女共同参画社会の形成に影響を及ぼすと認められる施策」 と同義であり、男女共同参画社会の形成の促進のための施策でなくても、影響の度合いはともあれ、およそ政府が策定、 実施する施策は全てこれに含まれ得る。

(4)「必要な措置」

施策についての苦情を受け、必要な処理を講ずることを国に義務付けている。なお、具体的な苦情処理機関、処理方 法については規定していない。

(5)「性別による差別的取扱い」

人権が侵害された場合の代表的例示。基本理念の第3条(男女の人権の尊重)に「男女が性別による差別的取扱い を受けないこと」と規定されているのと同義である。

(6)「その他の男女共同参画社会の形成を阻害する要因によって人権が侵害された場合」

社会における制度、慣行、暴力等により人権が侵害された場合のことである。侵害主体は特定していないので、国、地 方公共団体、民間の団体、私人等様々である。

(7)「被害者の救済を図る」

「被害者」とは、一般に犯罪その他の不法行為により害を被った者のことをいう。本条では、人権が侵害された被害者 が対象となる。

「被害者の救済」とは、被害者が人権侵害から救い出されることである。


<参考1>

本条の規定に基づき、具体的にどのような措置を講じるかについては、男女共同参画会議苦情処理・監視専門調査 会で検討され、平成14年10月17日、「男女共同参画に関する施策についての苦情の処理及び人権侵害における被害者 の救済に関するシステムの充実・強化について」として取りまとめられた。

<参考2>施策についての苦情

施策についての苦情は、苦情を申し出た国民の権利・利益を簡易・迅速に、かつ個々の事案の事情に照らして柔軟に 救済するという観点から重要である。さらに、男女共同参画社会の形成の促進に関する施策及び男女共同参画社会の 形成に影響を及ぼすと認められる施策は広範・多岐にわたることから、施策の改善について行政の自主性にのみ期待す るだけでは不十分である。関係施策に対する国民の苦情や意見を幅広く把握し、これを適切に施策に反映させていく上で 苦情の処理は有用な手段であり、国民からの期待も大きい。このため、システムを充実・強化させることは、行政の信頼 性を高めるとともに、苦情の申し立てという行政への参加を通じて民主主義を活性化することにもつながる。(「男女共同 参画に関する施策についての苦情の処理及び人権侵害における被害者の救済に関するシステムの充実・強化につい て」(平成14年10月17日男女共同参画会議苦情処理・監視専門調査会)の「はじめに」から抜粋)

<参考3>人権の侵害

人権が侵害された場合に、効果的な支援体制を構築することにより被害者の救済が迅速に図られるようにすること は、個人の尊厳を重んじる民主主義社会の基本であり、極めて重要である。(出典は参考2と同じ)

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