「共同参画」2024年3・4月号

巻頭言

当事者のニーズを尊重した支援:2023年改正DV防止法施行にむけて

2023年に改正DV防止法が成立し、2024年4月に施行される。DV防止法は5回の改正を重ねてきたが、2023年改正法では重篤な精神的被害を受けた場合にも接近禁止命令等の対象を拡大することをはじめとする大幅な改正が行われた。都道府県における関係機関等から構成される協議会の法定化や、DV基本計画等への国、自治体、民間団体等の連携記載の義務化による民間団体との連携の強化等が盛り込まれ、実効性のある支援の実現にまた一歩近づいた。

2001年にDV防止法が成立したとき、私は裁判所の法廷通訳を務めていた。DV事案の通訳を担当したことを契機に、女性の人権を侵害している状況を打破したいと思い、研究に取り組むようになった。自治体のDV施策を研究する過程で、DV防止法制定の背景には、DV被害当事者をはじめ、民間女性NGO/NPO、婦人保護事業関係者、専門家、研究者、自治体関係者など様々な立場の人々が立法過程に参入し多大な貢献をしたこと、また、女性を中心とした超党派の国会議員により議員立法でDV防止法が成立したことを知った。その中で日本のDV被害者支援をリードしてきた民間シェルターの研究に従事するようになった。

DV防止法制定以降、行政を中心としたDV被害者の保護の枠組みが整えられてきた。公的機関の相談窓口においてDV被害者に直接対応するのは婦人(女性)相談員等である。また、自治体の中には相談窓口の対応を民間支援団体に委託するケースもある。その場合、被害者に接するのは民間の相談員である。一方、民間の支援では、先駆的に民間シェルターがDV被害者を匿い、支援活動を行ってきた。支援の最終的な目標は、DV被害者が安全で安心した生活に戻り、生活を再建することである。民間シェルターはDV被害当事者を尊重し、ニーズに応じた具体的な支援を編み出してきた。裁判所や公的機関に同行し支援するなどDV被害当事者に寄り添う支援を貫き、柔軟な発想と支援を形づくってきたからこそ、当事者が望む支援が次々と生み出されてきたといえる。

昨今、経済的困窮や精神的な疾病など様々な困難が複合的に絡まりあったDVの実態が明らかになっている。また、外国人のDV被害者は、言葉の問題や在留資格の有無等により困難な状況に置かれている。デートDV、男性の被害者や同性カップルのDVも顕在化している。こうした状況において、民間シェルター・民間支援団体の柔軟性や機動性は一層重要性を帯びてくる。2023年改正法施行に際し、民間シェルター・民間支援団体のスタッフ、婦人(女性)相談員らが培ってきたスキルや専門性が活かされ、現場で支援に携わる者の声がDV施策等を決定する行政の意思決定過程に反映されることを期待している。DV被害当事者が常に尊重され、不利益を被らないような支援のあり方を検討するとともに、行政と民間が対等な関係性を保ちながら協働し、DV根絶にむけて社会全体で取り組んでいくことが求められている。

小川真理子
小川真理子
Mariko Ogawa
東京大学大学院情報学環特任准教授
男女共同参画室副室長

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019