「共同参画」2023年9月号

巻頭言

刑法性犯罪改正が必要だった理由〜罪と恥を加害者に返す

2023年6月16日、刑法性犯罪は不同意性交等罪に変更されるなど、大幅に改正されました。この改正は、性暴力被害者や支援者たちの悲願であり、性被害当事者等の団体や市民団体の運動の成果でもあります。

私は2020年からの約3年間、法務省が設置した刑法改正を議論する専門家会議に参加してきました。

改正の根拠を問うさまざまな議論の中で、「なぜ、刑法改正が必要なのか」と問われるたびに、私の脳裏には、被害を受けた人たちからの異口同音のメッセージが浮かびました。それは、「あなたは悪くないと言われると苦しくなる。私が悪くないのなら、どうして私はこんなに苦しみ、加害者はのうのうと暮らしているの?どうして私は誰にも助けてもらえないの?」というものです。

レイプや、強制わいせつ、セクシュアル・ハラスメントや盗撮被害、さまざまな形で現れる重大な人権侵害に対して、これまでの司法は適切に対応できてきたとは言えません。

相手の同意のない性行為をしただけでは性犯罪が成立せず、暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能という要件が求められてきたからです。しかし、抵抗できない状態だったと認められるハードルは高く、多くの被害者が、あなたの事件は性犯罪ではないと司法から否定されてきました。訴えることにはリスクがあり、被害が知られたときにスティグマを負わされるのも被害者です。それらの犠牲を払って訴えたのに退けられてきた歴史から、被害者は自分が悪かったのではないかという罪の意識を持ち、恥を感じ、孤独に苦しんできました。

対人暴力が発生したにもかかわらず、行為者の責任が追及されないことは、暴力行為を許容することにもつながります。また、被害認定がされないことで被害者が救済されません。

今回の改正により、アルコールや薬物の影響、地位利用など8項目の要件で、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態にさせ、性的行為に及んだ場合に罰することができるようになりました。要件が明確になったことで、自分の被害が性犯罪だと認識できるようになる人が増えると考えられます。また、「同意しない意思」という文言が入ったことも大きな前進です。同意のない性的行為は被害者の心身を傷つけるものだという、性暴力の本質を捉えられるからです。

今後の課題としては、性的同意に対する人々の意識のアップデートや包括的性教育の実施、司法職員など関係者に立法趣旨と運用改善について周知することがあげられます。何より大切なこととして、被害者を中心とした司法システムと被害者支援体制の連携が必要です。

あなたが悪くないと言うためには、被害救済がなされなければなりません。それは、行為の責任を加害者に問うことです。何が起こったのかを明らかにする中で、同意がなかったこと、同意が出来なかったことが認められれば、罪と恥を加害者に返していくことができるでしょう。被害を受けた方たちに「あなたは悪くない」と示すことができる社会を共に作っていきましょう。

山本 潤 性暴力被害者支援看護師(SANE)一般社団法人Spring幹事茨城県立医療大学看護学科助教
山本 潤
性暴力被害者支援看護師(SANE)
一般社団法人Spring幹事
茨城県立医療大学看護学科助教

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