「共同参画」2023年8月号

巻頭言

災害リスク削減のためのジェンダー行動計画

関東大震災(1923年)から今年は100年目にあたります。当時、強風にあおられた火災が広がり死者・行方不明者は10万5千人にも達しました。ちょうど昼食の支度をしていた多くの女性が亡くなり、さらに、貧困により人身売買され遊郭で過酷な生活を送っていた少女たちが閉じ込められ、日本髪のびんつけ油に火が付いたり、着物の裾が絡まって逃げ遅れ、多くの遺体が荒川区の浄閑寺に投げ捨てられました。

他方で、被災直後には女性団体が立ち上がり、大量の缶ミルクと布団を配給しました。さらに10万戸の被災調査を実施し、子どもの保護や女性の職業支援など多様な活動を展開しました。女性たち自身も被災者でしたが、災害活動を契機として、その後の公娼制度廃止や女性参政権運動の躍進に繋げていったのです。東日本大震災(2011年)でも、多くの女性が被災しましたが、その中から地域の女性防災リーダーが生まれ、災害関連法の改正、中央・地方の防災会議への女性の参画、女性の視点に立った防災指針の策定などに繋がりました。

災害から受ける経済社会的な影響は、ジェンダー、年齢、障害の有無、経済力、民族や人種などにより異なり、脆弱性の交差性もあり一様ではありません。2005年、米国で起きたハリケーン・カトリーナでは、避難命令が出ても移動が困難な高齢者や車を持たない黒人貧困層が取り残されました。避難所では食料不足や集団感染による関連死が発生し、女性に対するレイプ事件も多発しました。バングラデシュでは、1991年、大型サイクロンで約14万人が亡くなりましたが、そのほとんどが女性と子どもでした。教育や情報からの排除、女性に対する差別や有害な社会慣行がその主な要因です。しかし、その後悲劇を繰り返さないために、地域防災委員会への女性の参画などを進め、多くの女性が災害対応だけでなく、さまざまな社会変革の担い手やリーダーになりました。

現在、国連防災機関(UNDRR)は国連女性機関(UN Women)等と連携し、世界中の政府や市民団体に呼びかけ、国際規約である仙台防災枠組(2015-2030)のためのジェンダー行動計画(GAP)を策定しています。女性・ジェンダーの視点に立った復興支援制度、統計整備、事前投資、女性防災リーダーの育成、意思決定の場への平等な参画等がその目標達成のために急務だからです。来年の第68回CSWの場で正式発表される予定ですが、これまでに培った国内外の女性・ジェンダーの知見や教訓を行動計画の策定に反映していくことが求められています。

田中由美子 国連女性の地位委員会(CSW)日本代表
田中由美子
国連女性の地位委員会(CSW)日本代表

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