「共同参画」2022年12月号

特集3

スペシャルインタビュー
一般社団法人日本雑誌協会 理事長 堀内丸惠氏にお話を伺いました
内閣府男女共同参画局総務課

トップ画像


アキレス議長:男女共同参画に関しては、政府主導でさまざまな法整備が進んでいます。各業界でも取り組まれていますが、なかなか変わらない現状もあります。社会全体の男女共同参画の進み具合について、堀内理事長はどのように見ていらっしゃいますか。

堀内氏:全体としては、女性が仕事を続けやすい制度はかなり整えられてきましたが、実際にそれを活用するとなると個人の努力に頼るところが大きかったように思います。会社としては、制度を整備するだけではなく、制度の利用率を高めるための風土づくりに力を入れていくべきなのでしょうね。


堀内丸惠氏
堀内 丸惠氏
一般社団法人日本雑誌協会 理事長
(株式会社集英社 代表取締役会長)


アキレス議長:おっしゃるように風土づくりは大切ですね。どうしたらもっと制度を利用しやすくなると思いますか。

堀内氏:重要なのはやはり経営側の意識だと思います。制度が使われない原因を分析し、解決していく。経営側がしっかりリードしていかないと、浸透はしませんよね。

アキレス議長:堀内理事長は集英社の会長でもいらっしゃいますが、ご自身はどのように取組まれていますか。

堀内氏:集英社は女性向けの雑誌や書籍、児童書などを多く扱い、女性社員の力によって支えられているといっても過言ではありません。よって女性が長く働き続けられる環境を整えることが、経営にとっても重要な課題であり、そのための制度を整えてきました。同時に、それを阻むような行為は絶対に許さないという姿勢を貫いてきたつもりです。現在の女性社員比率は約44.9%、女性管理職比率は42.3%、平均勤続年数では女性のほうが男性より長いくらいです。

アキレス議長:社会全体と比較するとかなり進んでいますね。

堀内氏:出版健保(出版業界の健康保険組合)の被保険者や、出版労連(出版業界の労働組合)の会員の女性割合を見ても4割以上ですので、この業界が女性に支えられている産業であることは間違いありません。しかしながら、役員比率となると、他の業界と並んでまだ一桁台という会社がほとんどです。また、日本雑誌協会の理事は各社の社長で構成されるのですが、女性の理事は17人中1人です。

アキレス議長:御社の女性役員比率はいかがでしょうか。

堀内氏:22%です。まず女性の編集長や課長が生まれて、次に女性の部長が誕生し、やがて取締役にという流れで少しずつ増えていきました。いずれは役員も男女同等になるとは思いますが、まだ時間がかかりそうですね。

林副議長:女性のキャリアパスとしてはいかがでしょうか。御社に入社した女性は、基本的に女性向けの雑誌や書籍を担当して経験を積んでいくものなのでしょうか。

堀内氏:配属は男女関係なく適性に応じて決まります。例えば、女性誌を担当した後に、文芸の編集を経て営業や人事を経験したり。「女性だから女性ものを」という決まりは一切なく、適材適所でやっています。

林副議長:あくまでイメージですが、週刊誌を扱う部門は締め切りに追われるハードな職場で、子育て中の女性は配属しづらい状況もあるのでしょうか。そんな中で例えば「看板週刊誌でスクープを出して売り上げ部数を伸ばした編集長しか専務になれない」といった暗黙の条件があるとすれば、女性の役員登用は進みませんよね。

堀内氏:そのような暗黙の条件はないと思います。役員へのキャリアパスも多様ですし、優秀な編集者が経営層に向いているとは限らないというのが私の印象です。ただ、優秀な女性編集者に対して「この人はファッションに強い」「この人は文芸一筋だ」と特定の分野への能力発揮を期待するあまりに、マネジメントの経験を積む機会を十分に提供してこなかった問題はあったと思います。任せてみれば「意外とマネジメントに向きそうだね」と分かり、それが次につながるキャリアパスになっていく。集英社でも、「女性誌をたくさん出していて、部員のほとんどが女性なのに、部長や役員だけがなぜか男性」という風景が長らく続きましたけれど、ずいぶん変わっていきました。

アキレス議長:それはいつ頃から変わったのでしょうか。

堀内氏:ここ20年ほどの変化だと思います。それも能力のある人に重職を任せる適材適所が進んだ結果だと捉えています。例えば、私が社長になったときには、法務部門時代の部下だった女性に監査役をお願いしました。「どう考えても、この人しかいない」と選んだ結果がたまたま女性だったんです。会社とその部門にとって一番相応しい人を選んだ結果が女性。その積み重ねで自然と進むのが、男女共同参画の理想形ではないかとも思います。集英社の役員の半数が女性になるにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、100%子会社の通販会社では社長以下5人の役員のうち4人が女性です。若い会社ほど最初から能力主義で女性活躍が進みやすいかもしれませんね。

アキレス議長:堀内理事長は意識を強く持って社内の女性活躍を進めていらっしゃるのですね。素晴らしいです。一方で、日本の社会全体となるとまだ課題は山積しています。6月に発表された「女性版骨太の方針2022」について、どんな感想を持たれましたか。


アキレス 美知子氏
アキレス 美知子氏
男女共同参画推進連携会議議長
(SAPジャパン株式会社特別顧問、三井住友信託銀行取締役、横浜市参与、G20 EMPOWER 日本共同代表)


※本方針は、女性活躍・男女共同参画の取組を加速するために、毎年6月をめどに政府決定し、
各府省の概算要求に反映するものです。詳しくはこちら
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/sokushin.html


堀内氏:やはりものごとを進める上では、目標の共有と情報開示が大事だとあらためて感じました。集英社でも、先ほど申し上げた女性の平均勤続年数などの数字はホームページで開示しています。それもあって採用時の女性の応募者が多いのかもしれません。「この会社なら長く働き続けられそうだ」と思っていただけている。ちなみにこのホームページを担当したのも人事部門の女性です。

アキレス議長:情報開示にオープンであるという姿勢も、一つのメッセージですね。骨太の方針の目玉の一つが、「男女間の賃金格差の開示の義務化」です。御社の取組としてはいかがでしょうか。

堀内氏:私の知る限り、いわゆる大手出版社では男女の賃金格差はないと思います。給与は勤続年数と役職手当で変わってきますが、昇進にもほとんど差はないですね。むしろ最近は女性のほうが早いくらいです。

林副議長:男女賃金格差が生じる原因の一つとして、女性の離職の問題があるのですが、結婚や出産を迎える30代で辞めてしまう人はあまりいないですか。また、新卒では女性はどれくらい採用しているのでしょうか。


林 香里氏
林 香里氏
男女共同参画推進連携会議副議長
(東京大学 理事・副学長)


堀内氏:離職率は極めて低いですね。これは出版社全般を通じて言えると思います。新卒は今年23人入りまして、うち女性は10人です。昨年は17人中9人。一昨年は20人中10人と、ほぼ同等の比率ですね。「体力的に女性は難しいだろう」という配慮で男性を多めに採っていた時期もあったのですが、今は「個々の働き方の調整は、入社後に相談すればいい」という考え方で、純粋に能力と適性で採用を決めています。

アキレス議長:男性に対する取組に関してはいかがでしょうか。骨太の方針では、男性の家庭進出・地域参加にも踏み込んだ内容になっています。

堀内氏:非常に重要なポイントだと見ています。集英社でも、まさに力を入れている点でして、例えば男性の育児休業取得に関しても、保育園の送迎のために短時間単位で柔軟に取りやすい仕組みづくりを進めています。これも制度以上に風土の醸成が大事ですね。つい2週間ほど前も、エレベーターで30代前半の男性社員に声をかけたら「育休から復帰して今日から出社です」と返ってきたので、「ぜひどんどん取ってくれ」と伝えたところです。経営層や人事から積極的に声をかけて、雰囲気を作っていくことが大事でしょうね。

アキレス議長:トップや上司からお声をかけていただくと、取りやすいですよね。男性育休取得率は何%くらいになりましたか。

堀内氏:女性の100%に比べるとまだ低く、昨年は27%です。その前年は17%ですから、これでも格段に増えました。一つは新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が進んだことも大きいと思います。在宅勤務制度についても、今後は正式な制度として運用できるように整えている最中です。在宅勤務のやりやすさは、男女というより部門ごとの業務内容の違いによって差が出ますので、現状に合った方法を探っています。

林副議長:電子書籍が普及してきたことは、女性の働きやすさにプラスに働いているのでしょうか。印刷などの工程が省かれることで、負荷が減るメリットがあるのではないかと想像するのですが。

堀内氏:実は逆かもしれません。電子書籍はページ数に制限もなく、ある意味で無限に制作ができてしまうので、紙の雑誌・本の業務とは違う新たな負荷も生じるんです。一方で、在宅でも業務を進めやすい点で、働き方の効率は向上します。例えば、小さいお子さんを自宅でケアしながら仕事を進めるといった働き方もやりやすくなったのではないでしょうか。

アキレス議長:その点に関してはあえて指摘させていただきますと、「小さい子どもは親の仕事のジャマをする天才」ですので(笑)、現実としてはケアをしながらは難しいかと思います。

堀内氏:なるほど。確かにそうですね。これも含め、在宅勤務ならではの新たな問題にも目を配る必要があると感じています。「いつでも働けるだろう」という前提で、深夜にメールを送ると過重労働につながりかねません。「緊急性の高い連絡を除いては、夜10時以降の業務メールは禁止」というアナウンスを出したこともあります。

アキレス議長:細かな目配りをなさっているのですね。では、今後の協会としての取組について教えてください。

堀内氏:まずは「知ること」が第一歩。男女共同参画に関して加盟社の実態を正確に把握し、皆さんと共有することから始めたいと思います。メディアを通じていろんなことを言っておきながら、「では自分たちは?」と内省を怠ってはいけませんよね。新聞や放送なども含めると、メディア業界は世間より遅れていると思いますので。

アキレス議長:素晴らしいファーストステップだと思います。ジェンダーのデータについては業界ごとに情報が不統一で国内の統計を取りづらいという課題がありますので、その点も情報発信を扱うメディアの方々に牽引していただくことを期待しています。

林副議長:コンテンツに関連した取組はありますか。女性に対して差別的・暴力的な表現の追放や、女性に伝統的な女性の役割を強要するような表現を防止するためのイベントなど、一般に向けた啓発や発信は協会としてなさっているのでしょうか。

堀内氏:啓発を目的としたイベント開催まではまだできていませんが、各出版社を集めてジェンダー表現について討議する機会は毎月設けています。

林副議長:雑誌は、熱心な特定のファンを巻き込むパワーを持つ媒体だと思いますので、社会の意識変革に対しても発信力を生かしていただきたいです。女性だけでなく、教育雑誌を通じて子どもたちにも影響力がありますよね。

堀内氏:集英社ではまさに今、子どもたちの意識調査を推進したり、シンポジウムを開催したりという動きが進んでいます。女性誌を9誌出している会社ですから、編集現場にいる女性たちから提案や企画が生まれることも多いんです。

アキレス議長:ぜひその議論の中に男性も入っていただきたいですね。するとお互いに新たな気づきもあると思いますので。

堀内氏:おっしゃるとおりで、私自身も含めて男性がもう少し勉強をして、意識を変えていく努力がもっと必要ですね。全員がすぐに変わることは難しくても、気づいた人が発信していく。それが社会を進める流れをつくると思います。

アキレス議長:ぜひこれからも変化をリードし、発信していただくようお願いします。本日はありがとうございました。


構成/宮本恵理子 撮影/竹井俊晴
インタビュー実施日:2022年7月19日
(株式会社集英社での役職は当時のもの)


集合写真

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019