「共同参画」2022年11月号

巻頭言

性暴力撲滅への道、あきらめないぞ!

社会には、性暴力被害→心的外傷後ストレス障害(以下PTSD)発症→生活・社会不適応→再被害という悪循環が明らかに存在していますが、見過ごされ放置されてきました。そして、その状況は継続し複雑化しています。

女性の人権を確立する取り組みが世界的に活発になったのは第2次世界大戦後でした。1960年代の日本の状況は、欧米とそれほど変わらなかったはずですが、その後の40年で日本は大きく遅れをとってしまいました。日本における女性の地位の低さと並行して、性暴力被害者支援の分野も大きく出遅れました。米国では、 DV・性暴力・虐待の窓口は統合され、その支援機関が公的か民間であるかにかかわらず、公的な資金援助のもとに、救援からPTSD治療まで無料で被害者に支援が提供されています。米国でも、「30年前は、人々は子どもの虐待は存在しないと信じていたし、性暴力について誰も話題にしなかったし、トラウマについても誰も話そうとしなかった」そうです。視察見学では「辿っているプロセスは同じだから、米国の失敗も成功も学ぶことができる」と、同じ課題に取り組む者としての共感と励ましを受けました。国を超えて「女性と子どもに対する暴力の撲滅」への意気込みも感じました。

日本でも、ようやく社会の認識が変わりつつあり、DV・性暴力・虐待があることは知られていますが、多くは「自分の身に起こりうること」とは思っていないのではないでしょうか。特に社会における性暴力被害の理解はまだ浅く、誰もすぐに声を上げることができません。性暴力被害者の半数以上がPTSDを発症し、その症状が社会生活を妨げます。集中困難や言語化困難のため物事の説明がうまくできません。物事や行動の意味の解釈や問題解決への認知反応の歪みのため、相手の話を正しく解釈できません。結果として、人間関係に支障をきたし、支援にもつながりにくい状況に陥ります。DV被害の背景には孤立した妊娠・出産・子育てがあり、その延長ともいえる子どもの発達のゆがみや適応障害が被害者を追い詰めています。そして、DV被害の半数には性暴力被害が合併しています。

DV・性暴力・虐待の被害者はPTSDどころか、自分が被害を受けている自覚すらないことが多く、ただ「つらい、生きづらい」状態になっています。被害直後のより早い時期に支援に繋がることが、PTSD発症の予防・治療、そして被害者の尊厳ある人生への回復につながります。人権侵害としての暴力の認識を深め、そのトラウマに気づき手を差しのべることができる社会づくりは性暴力撲滅への道です。

山形大学学術研究院・地域教育文化学部主担当 河野銀子
一般社団法人日本フォレンジックヒューマンケアセンター(NFHCC) 副会長
日本福祉大学看護学部 教授
長江美代子

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