「共同参画」2022年10月号

特集3

スペシャルインタビュー
一般社団法人日本新聞協会 会長 丸山昌宏氏にお話を伺いました
内閣府男女共同参画局総務課

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アキレス議長:男女雇用機会均等法施行から35年が経ち、その間にさまざまな法令整備も進んできました。しかしながら、世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数では146カ国中116位と、いまだ日本の状況は世界に大幅な遅れをとっていることを否めません。新聞の業界団体としてどうご覧になっていますか。

丸山氏:おっしゃる通り、世界と大きな差をつけられている状況は把握しております。我々の業界全体を見渡しても課題は満載ですし、私が会長を務めております毎日新聞社を例にとりましても、労働組合からの要望を受けて、年々改善に向けた取組を実施してはいるのですが、十分な成果が出せていないと自覚しています。


丸山 昌宏氏
丸山 昌宏氏
一般社団法人日本新聞協会 会長
(株式会社毎日新聞社 代表取締役会長執行役員)


アキレス議長:なかなか進展しない理由はどこにあるとお考えですか?

丸山氏:やはり新聞社特有の「働き方」に原因があると思います。特に編集局では、特ダネ主義で朝から晩まで長時間、土日も関係なく働いて成果を出して昇進していく。そんな“昭和モデル”で勝ち抜いた人たちが組織の幹部となって、なかなか考え方を変えられない。ある意味、過去の実績が成功体験となっているので変える意義を見出せないのです。そうこうしているうちに他業界の先進的な企業がどんどん働き方を改善し、優秀な人材を集めています。我々の業界も本気で変わらなければいけないときを迎えていると危機感を抱いています。

アキレス議長:新聞業界で働く女性の数自体は増えていますよね。

丸山氏:はい。毎日新聞社では、私が入社した1979年は新人記者22人のうち女性は1人でした。当時は女性が声を上げる機会もほとんどなかったのではと思いますが、今年は新規採用者の64%は女性です。総従業員における女性の割合も26%まで増えてきました。また、新聞業界平均では2割程度になっています。

林副議長:新聞の読者の半分が女性であることを考えると、まだまだ伸ばす余地はありますね。

丸山氏:「新聞購買の決定権を持つのは女性。だから女性に選ばれる新聞にならなければいけない」というのは長年指摘されてきたことです。より読者のニーズに合う紙面を目指すという意味だけでなく、優秀な人材の確保という意味で環境整備は急務です。

アキレス議長:紙媒体から電子媒体へと、発信の形態が移行しつつあることは、新聞業界における男女共同参画に影響しているのでしょうか。

丸山氏:あると思います。紙でも電子でもメディアとしての役割は変わりませんが、「印刷」という工程がない分、締め切りに拘束される度合いは軽減します。半面、デジタルは24時間いつでも流せますから、時間帯に関係なく仕事に追われるとも言えますが、働く時間と場所の融通が利きやすく、男女問わずより柔軟なワークスタイルを設計できる環境へと変わりつつあります。経営者としても、良い人材に長く活躍してもらうためには、働き方の魅力を高めることが必須と考えています。

アキレス議長:「1社に生涯勤める」というキャリアモデルは変わりつつありますし、若い世代は常により良い環境を求めて動く人が増えていますね。


アキレス 美知子氏
アキレス 美知子氏
男女共同参画推進連携会議議長
(SAPジャパン株式会社特別顧問、三井住友信託銀行取締役、横浜市参与、G20 EMPOWER 日本共同代表)


丸山氏:その「良い環境」の定義も、報酬や知名度だけではなく、育児や介護といったライフイベントと両立しやすい制度など個人の人生に寄り添った自由度の高い職場を意味すると理解しています。全国で新聞を発行する新聞社では“常識”だった全国転勤の前提も、今後は見直しが必要になってくると考えています。

林副議長:新聞業界全体での協議も進んでいるのでしょうか? メディアは各社の独自性を重視し、尊重されるべきものですので、編集や経営の方針において足並みを揃えることはなかなか難しいと察します。ただ、女性の雇用や教育機会をどう充実させていくかという共通課題については、合同で取り組めることもあるのではないでしょうか。

丸山氏:業界全体が変わっていかないといけないと考えています。新聞協会加盟社の代表者が集まる新聞大会で、今年は女性役員をパネリストに加えて、男女共同参画に関わるテーマについて議論するパネルディスカッションを企画しています。

アキレス議長:確かな前進となる一歩だと思います。業界団体の上層の方々が「なんとかしようよ」というメッセージを発して機運をつくることは重要ですね。G20 EMPOWERの活動として、各国から集めたベストプラクティスの共通点をボストンコンサルティンググループと共同で分析し、まとめた結果、やはり「トップがどう振る舞うか」は非常に効力を持つことが分かりました。そして、メッセージを発するにはビジョンが不可欠です。男女共同参画が実現した社会とはどんな社会であるか、丸山会長はどんなビジョンをお持ちですか。

丸山氏:性別をはじめとする様々な属性によらず、適材適所で能力を発揮できる。男女共同参画は、そんなあるべき社会を目指すための取組だと捉えています。今後労働人口が減少する日本社会全体の重要課題であり、メディアとして発信を強化しなければいけないテーマです。同時に、「世間に対して正しいことを主張する前に、あなたの会社はどうですか?」という指摘に耐え得るだけの施策の手も緩めてはいけないなと気を引き締めているところです。

アキレス議長:期待をしております。今後は男女の賃金格差、男性育休取得率や女性管理職比率といった数字の情報開示が義務化されていくでしょうから、各社の取組の真剣度は上がるのではないでしょうか。今の学生さんたちは就職活動をする際にかなり熱心に調べていますので、努力の成果が人材獲得にも直結する時代になりそうですね。現状の課題についてもう少し具体的に伺いたいのですが、2020年に日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が実施したアンケート結果を拝見しますと、メディア業界で働く多くの女性たちが「男女の賃金格差がある」「任される仕事に男女差がある」という不満を抱えているようです。

丸山氏:毎日新聞社の例になりますが、同じ職種では男女の待遇格差は全くありません。しかし、上級管理職になるほど女性が減るので、結果的に給料の平均値に差が出てしまうのです。

林副議長:御社の女性管理職比率は何%くらいなのでしょうか。


林 香里氏
林 香里氏
男女共同参画推進連携会議副議長
(東京大学 理事・副学長)


丸山氏:今年の春でようやく12%を超えたところです。胸を張って言えるくらいの数字に引き上げていきたいと思っています。

林副議長:厚生労働省のデータ等で調べると、「映像・音声・文字制作業」部門での女性の平均給与額が30代以降でガクンと下がる傾向があります。メディア関連の業界では結婚・出産などのライフイベントの影響が大きいのでしょうね。つまり、働き方の改善によって格差解消につながるはずです。

アキレス議長:今回の「女性版骨太の方針2022」については、どんな印象をお持ちになりましたか。

丸山氏:特に女性の尊厳について重きを置いている印象を持ちました。当社でもハラスメント対策に関しては組合の要望も強く、防止に努めてきました。相談窓口も整備し、相談しやすいように窓口には女性を配置しています。難しいのは、事案発生後の処罰の仕方です。被害者のプライバシーを守るために、どこまで公表すべきかと議論をしています。

アキレス議長:外資系企業ではどんなに地位の高い人でも、それが事実として確定すると職を失うことになります。厳正に対処することで、抑止力になると思います。他に、今後の取組として力を入れていきたいポイントはありますか。

丸山氏:やはり重要なポストに女性をつけていくこと。そのための中長期的な育成に注力したいですね。私が社長に就任したときに編集局で一気に5人の女性部長が誕生しました。特に新聞の主軸とも言える政治部と社会部の部長が女性になったのは画期的な人事だったのですが、残念ながらその後が続きませんでした。後継を担う副部長以下の女性の役職者が不足していたからです。そこで、人材のプールを増やすことが不可欠と考え、年度ごとに女性役職者の比率目標を策定し、各部局に振り分けることにしました。やはり“流れ”をつくる設計が重要ではないかという考えです。

アキレス議長:素晴らしいですね。その流れを加速するために一つお願いがあります。女性を要職に引き上げた後にぜひ多方面からのサポート体制を整えていただきたいのです。「お手並み拝見」で孤独を抱えて自信を失った女性たちをたくさん見てきました。女性を抜擢したときには「何かあったらいつでも相談を」と寄り添っていただきたいと心から願います。

丸山氏:肝に銘じます。社長を務めた6年の間に「語る会」と称して社員と話をする機会を設けていたのですが、会長就任が決まった後の最終回で女性社員からかなり責められましてね(苦笑)。「同期の男性と能力は同じなのに、私の評価が低いのは納得できない」「女性対象のリーダー研修を増やしてほしい」と直接要望を受け、背筋が伸びました。

アキレス議長:トップに率直に意見を言えるというのは、風通しのいい環境の表れですね。

丸山氏:紙からデジタルへ移行する流れも、女性活躍の追い風になるはずです。前述のとおり働き方が柔軟になるという点もさることながら、デジタルでは「どの記事が深く読まれたか」の分析がより正確に測れます。すると、単に特ダネ主義ではなく、斬新な切り口で社会に貢献する記事が評価される文化が醸成されます。新しい価値を発信できる新聞業界へと進化できるよう、弛まぬ努力を続けていきたいと思います。

アキレス議長:力強いメッセージをありがとうございました。

構成/宮本恵理子 撮影/竹井俊晴
インタビュー実施日:2022年7月4日


アキレス美知子氏、丸山昌宏氏、林香里氏


※本方針は、女性活躍・男女共同参画の取組を加速するために、
毎年6月をめどに政府決定し、各府省の概算要求に反映するものです。
詳しくはこちら
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/sokushin.html

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