特集1
スペシャルインタビュー
(株)テレワークマネジメント代表取締役 田澤由利氏にお話を伺いました
内閣府男女共同参画局総務課
毎日会社に行けなくなるから働けない?
林局長:田澤さんは御自身でテレワークの会社を立ち上げられて、今や100人を超えるスタッフが全国各地にいて田澤さんの下、テレワークで仕事をされていると伺っています。会社の概要と立上げに当たって御苦労されたことや、そもそもなぜこういった会社を立ち上げようと思われたのかをお聞かせください。
田澤氏:私は二つ会社を持っておりまして、一つが100人超の在宅で働くスタッフがいる会社(注:株式会社ワイズスタッフ)と、もう一つがテレワークを導入する企業にコンサルティングをする会社(注:株式会社テレワークマネジメント)で、最初に起業する時とステップアップする時の二つに分けてお話をさせていただきます。
私は大学を卒業後、電機メーカーに就職しました。そこで一生会社員として働こうと思っていたのですが、残念なことに結婚・出産・夫の転勤で辞めなくてはいけなくなりました。当時は男女雇用機会均等法が施行される頃だったので、制度的には働ける状況でした。ところが、夫の転勤が重なり辞めなくてはいけなくなりました。会社も辞めるなと言って下さるし、私も辞めたくないと思っていたのですけど、結局、退職することになりました。「両想いなのに、何でやめなきゃいけないのだろう」。自分なりの答えは、「毎日会社に行けなくなるから」でした。毎日会社に通わなくても働き続けられるような社会になれば、子育て中でも、あるいは夫の転勤で地方に住んでも自分らしく生きられるのではないかと思ったのが最初の大きなきっかけです。
その後フリーライターとして、家で働くということに挑戦し始めました。家にいてパソコンで原稿を書いてメールで編集部に送るという仕事をしていると、どこにいても働けるということがわかってきて、そういった働き方がもっと広がらないといけないと思いました。ふと周りを見渡してみると、同じように家で働きたい女性がたくさんいたのです。子育てや親の介護をしている女性たちから「私も家で働きたい」と私のところに相談がたくさん来て、世の中こんなにたくさんの女性が働きたいけど働けない状態にあるのだということがわかりました。だったら家で働くという働き方をもっと多くの人ができるようにしたいと思ったのが、最初の会社(注:株式会社ワイズスタッフ)を作るきっかけになりました。
林局長:私も田澤さんと同じ均等法世代なので今のお話とてもよくわかります。あの頃の雰囲気だと夫が転勤になると辞めてついて行く方が多かったと思います。でもそういった中、ついて行った先で仕事を続けようとか、会社を立ち上げようとされたところが素晴しいと思います。
田澤氏:ありがとうございます。そこにもきっかけがありまして、自分が働きたいとか世の中がもっと働けるようになったらいいなという思いだけだったので、会社を作るところまでは最初考えていなかったのです。ところが、こういう働き方をもっとできなければだめだとインターネットで言っていたら、ある男性から「家で働くことは確かにすばらしいと思うけれども、御主人がいてご飯を食べさせてくれているからそういう新しいことに挑戦できるのでしょう」と言われたのです。私は自分が挑戦する話をしているのに、どうして夫の給料の話をされるのだろうと、もやもやしました。こんな風に思われたくない。悩んだ結果、収支が明確な会社を作ることに至ったのです。
テレワークは夢物語?
林局長:大変興味深いエピソードですね。会社を作ろうとなった時に、例えば銀行から融資を受けたり、色々な手続きをする面で御苦労はなかったのでしょうか。
田澤氏:最初の会社は比較的小さくスタートできたのですが、10年くらい経って、自分が在宅で働ける会社を頑張って作っても世の中は変わらないなと気がついたのです。起業から10年経った当時、ワイズスタッフで、在宅で働いているスタッフは150人位でした。もう10年頑張っても300人。これでは世の中は変わりません。世の中を変えるには、企業を変えなくてはいけない。企業が社員を在宅でも働けるようにすれば、多くの人の働き方が変わると考え、二つめの会社を立ち上げました。それがテレワークマネジメントです。これは本当に大変で、先ほど御指摘いただいたような苦労がありました。最初は企業に無料でいいのでテレワークの講演をさせてくださいということをやっていたので、どんどんお金がなくなっていきました。銀行にお金を借りに行き、計画を出し、「これからテレワークという働き方は重要で企業のニーズも出てくるから借金は返せます」という説明をしても、「テレワークなんて夢物語。事業ではありません」と言われたのです。とても悔しい思いをしました。そこから軌道に乗るまで10年かかりましたが、国もテレワークを推進していただいていますし、世の中が少しずつ変わって来ました。残念ながら、たくさん儲けるということはできませんが、自分がやりたかったことにだんだん近づいてきているのがこの10年間です。
林局長:今まさに、コロナでテレワークのコンサルティングは引っ張りだこではないかと思いますが、いかがですか。
田澤氏:引っ張りだこでしたらとてもうれしいのですが、ニーズは確実に増えています。皆さん色々取り組んでいただいていますが、試行錯誤の時だと思っていて、ここからが本番だと感じます。長年やってきた経験やノウハウや運用、ツール類を今こそ大きく生かせると思っています。
林局長:テレワークがこれだけ広がってきて、物の考え方が変わってきているというアンケートの調査結果もあります。田澤さんがされてきたことは先見の明があったのではないかと思います。
田澤氏:ありがとうございます。
男性も女性も変わらない働き方
林局長:田澤さん御自身の働き方を柔軟に変えながら、キャリアを追求されてきたことは、これからの女性にとって大切なロールモデルになると思います。今後女性が活躍していく上で、あるいは女性が活躍しやすい社会を作っていく上でどういったことが大事だとお考えになりますか。
田澤氏:女性が活躍できる社会づくりというのは色々な要素があると思います。私が全てを語ることはできませんが、私自身は、女性のために何かをするとか、女性だけを優遇するというのではなく、男性も女性も関係なく能力を発揮できる場づくりが一番重要だと考えています。今私がやっているテレワークというのはそこに大きく貢献できると思います。朝早く会社に行って、夜遅くまで働ける人しか評価されない社会だったのが、テレワークであれば子育て中でも家にいながらフルタイムで働くことができます。男性も女性も変わらない働き方、同様に働ける基盤が重要だと考えています。私はたまたま女性として働きやすいということでテレワークを選んだけれども、テレワークが男性も含めてあたりまえの働き方になることが結果として女性が働きやすい社会になると思います。ただ、女性は出産という男性とは異なるシーンがあるので、そういったことも埋められるようなフェアな環境・制度が社会にできることが重要だと思います。
思い、信念、想像力をもって進んでほしい
林局長:田澤さんのお話を伺って、世の中は変わるし変えられるということを実感します。
田澤氏:想像するということがとても大事だと思います。できないと思った瞬間に思考が止まってしまうじゃないですか。どうやったらできるかということをずっと想像し、挑戦し続けることが大事だと思います。
林局長:最後に女性で起業している方や志す方にアドバイスをお願いします。
田澤氏:20年、30年のレンジでお話してきましたが、あの時代だったからこれだけかかったということはあると思います。今ならもっとスピーディーに、アイディアや技術で私が10年かかったことが1年でできるかもしれません。そこに必要なのは、思いと信念と想像力だと私は思っています。正直、起業は楽ではないですが、大変なりに得られるもの、自分がやりたいことができる喜びは最大だと思います。起業を目指している方あるいは起業して御苦労されている方は信念を持って、想像力を持って、新しいテクノロジーを使って、前に進んでください。きっと楽しい世界、自分が目指した世界がもっと近くなると思います。ぜひ頑張っていただきたいです。
林局長:思いと信念と想像力は、本当に大事ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。