「共同参画」2021年7月号

特集2

令和3年版男女共同参画白書
内閣府男女共同参画局総務課調査室

令和3年版男女共同参画白書が、6月11日に閣議決定・公表されました。この白書は、「男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)」に基づいて国会に毎年報告されるもので、法定白書としては通算で22回目となります。

男女共同参画白書


平成13(2001)年に第1回の男女共同参画会議が開催されてから、既に20年が経過しました。この間、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)」の制定など、男女共同参画には一定の進展が見られていますが、いまだに多くの課題が残されています。

世界経済フォーラムが公表したジェンダー・ギャップ指数における我が国の総合順位は156か国中120位で、G7の中で最下位、G20の中でも下位という大変残念な状況であり、国際社会では当然の規範であるジェンダー平等の理念が必ずしも共有されていません。これらは、グローバル化が進む中、世界的な人材獲得や投資を巡る競争を通じて、日本経済の成長力にも関わる問題です。

加えて、今般の新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の感染拡大は、女性の生活や雇用に大きな影響を与えており、男女共同参画・ジェンダー平等の遅れが改めて顕在化しました。

そこで今回の白書では、特集として、「コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題と未来」を取り上げています。

緊急事態宣言発出等によるステイホーム、在宅ワーク、学校休校等のため、飲食・宿泊業等のサービス業が大きな影響を被ったことなどから、非正規雇用労働者を中心に雇用情勢が急速に悪化しました。同時にこれまで見過ごされてきたこと、潜在的にあったものの表面化してこなかった諸問題、例えば、経済的・精神的DV(配偶者暴力)、ひとり親世帯、女性・女児の窮状、女性の貧困等が私たちの向き合うべき課題として社会に共有されました。

特集においては、コロナ下における就業面と生活面を巡る環境の変化を様々なデータを用いて整理するとともに、新型コロナに対する政府の取組をまとめ、さらに改めて注目されることとなった「新しい暮らし方」「新しい働き方」についてジェンダーの視点から分析を行いました。

以下、特集のポイントを御紹介します。

特集 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題と未来


Ⅰ コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題 ~就業面~

労働市場への影響

はじめに、男女共同参画の視点からの新型コロナの感染拡大の影響と課題について把握するため、我が国で新型コロナの感染が拡大した令和2(2020)年以降(以下「コロナ下」という。)の男女の就業に関する状況を概観していきます。

平成31(2019)年1月以降の雇用者数の推移を見ると、男女ともに、緊急事態宣言が発出された令和2(2020)年4月に前の月と比べて大幅に雇用者数が減少しており、男女で比較すると、女性は74万人の減少、男性は35万人の減少と、女性の減少幅は男性の約2倍となりました。その後の雇用者数の推移は、男女ともに持ち直しの動きが見られるものの、令和2(2020)年11月頃からおおむね横ばい圏内で推移しており、依然としてコロナ下以前の水準を下回っています(図1)。また、雇用形態別雇用者数(役員を除く)の前年同月差の推移を見ると、女性は正規雇用労働者の増加が続く一方、非正規雇用労働者は令和2(2020)年3月以降、13か月連続の減少となっています。

図1 雇用者数の推移
図1 雇用者数の推移


産業別雇用者の雇用形態別割合を男女別に見ると、女性は雇用者(役員を除く)の半分以上が非正規雇用労働者であり、特に「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」は、雇用者(役員を除く)全体における女性の非正規雇用労働者の割合が高くなっています。一方、男性は正規雇用労働者の割合が高く、雇用者(役員を除く)の約8割が正規雇用労働者となっています。

こうした中、緊急事態宣言中(令和2(2020)年4月から5月)の就業者数の推移を産業別に見ると、前年同月差の一月当たり平均で、女性は「飲食サービス業(25.0万人減少)」、「生活関連サービス業、娯楽業(17.0万人減少)」、「小売業(15.5万人減少)」の順に、男性は「飲食サービス業(13.0万人減少)」、「建設業(12.0万人減少)」、「製造業(10.5万人減少)」・「小売業(10.5万人減少)」の順に、減少幅が大きい結果となりました。


ひとり親世帯等の状況

続いて、ひとり親世帯への影響を見ていきます。我が国のひとり親世帯の86.8%は母子世帯です。母子世帯は平均年間就労収入が200万円であるなど経済的に厳しい状況に置かれていることが多くなっています。こうした中、令和2(2020)年7~9月期平均の完全失業率への影響を見ると、子供のいる有配偶の女性にはほとんど影響が見られない一方、母子世帯の親には約3%ポイントの押し上げ要因となりました(図2)。

図2 子供のいる有配偶者とシングルマザー(令和2(2020)年7~9月期平均)
図2 子供のいる有配偶者とシングルマザー(令和2(2020)年7~9月期平均)


また、令和2(2020)年に実施された調査によると、令和2(2020)年末に向けての暮らし向きが「苦しい」と回答したひとり親は60.8%に上りました。さらに、直近1か月間に必要とする食料が買えないことが「あった」と回答したひとり親は35.6%に上りました。

もちろん、家計が厳しい状況にある世帯は、ひとり親世帯に限りません。例えば、コロナ下において、経済的な理由で生理用品を購入できない女性や女の子がいる「生理の貧困」が注目されています。生理の貧困は、女性の健康や尊厳に関わる重要な課題です。

このように、ひとり親世帯や若年女性、単身女性など、様々な困難を抱える女性に寄り添う、多様な支援の必要性が高まっています。


Ⅱ コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題 ~生活面~

女性に対する暴力の状況

次に、コロナ下における人々の生活に関する状況について概観していきます。

女性に対する暴力は、重大な人権侵害であり、決して許される行為ではありません。しかしながら、コロナ下の生活不安やストレス、外出自粛による在宅時間の増加等によって、女性に対する暴力の増加や深刻化が懸念されています。

全国の配偶者暴力相談支援センターとDV相談プラスに寄せられた令和2(2020)年度のDV(配偶者暴力)相談件数は19万0,030件で、前年度比で約1.6倍に増加しました(図3)。

図3 DV(配偶者暴力)相談件数の推移
図3 DV(配偶者暴力)相談件数の推移


また、内閣府が令和3(2021)年3月に公表した「男女間における暴力に関する調査報告書」によると、無理やりに性交等をされた被害経験のある女性は約14人に1人に上ります。被害を受けた時の相手は、「まったく知らない人」が全体の約1割、女性では「交際相手・元交際相手」が約3割、男性では「通っている(いた)学校・大学の関係者」が約2割となっています。コロナ下で性犯罪・性暴力に関する相談件数も増加しています。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの令和2(2020)年度の相談件数は5万1,141件で、前年度比で約1.2倍に増加しました。


自殺の状況

続いて、平成31(2019)年1月以降の自殺者数の推移を見ると、女性は令和2(2020)年6月以降、男性は令和2(2020)年8月以降、前年同月差で増加傾向にあることが分かります。一方、増加幅を男女で比較すると、女性の自殺者数の増加幅の方が大きくなっています。令和2(2020)年の自殺者数を見ると、前の年と比べて、男性は23人減少しましたが、女性は935人増加しました(図4)。

図4 自殺者数の推移1
図4 自殺者数の推移2
図4 自殺者数の推移


職業別に自殺者数の増減を見ると、令和2(2020)年度は前年度と比べて、女性は「無職者」が648人増加、「被雇用者・勤め人」が443人増加し、男性は「被雇用者・勤め人」が199人増加しています。女性の「無職者」の中では「主婦」が最も増加(261人増加)しており、「学生・生徒等」の中では「高校生」が最も増加(69人増加)しています(図5)。

図5 自殺者数の増減
図5 自殺者数の増減


厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センターが令和2(2020)年10月21日に発表した「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)」によると、令和2(2020)年の自殺の動向は、例年とは明らかに異なっていると指摘しています。また、女性の自殺の背景には、経済生活問題や勤務問題、DV(配偶者暴力)被害や育児の悩み、介護疲れや精神疾患など、様々な問題が潜んでいるとされ、コロナ禍において、そうした自殺の要因になりかねない問題が深刻化したことが、女性の自殺者数の増加に影響を与えている可能性があると分析されています。このほか、ウェルテル効果と呼ばれる有名人の自殺報道の影響によって自殺が増える現象が見られること、緊急小口資金の貸付けなど政府の各種支援策が自殺の増加を抑制している可能性があることなど、様々な指摘がなされています。


Ⅲ ポストコロナ時代における男女共同参画の未来

政府の取組

新型コロナの感染拡大を受け、我が国では、内閣総理大臣を本部長とし、全ての閣僚からなる「新型コロナウイルス感染症対策本部」(令和2(2020)年1月30日閣議決定)を設置し、令和2(2020)年4月7日の緊急事態宣言(以下「第1回緊急事態宣言」という。)発出をはじめとして、総力を挙げて対策を講じています。また、コロナ下の女性への影響が特に深刻であることを受けて、女性や困難な問題を抱える人々に対する各種取組が行われています。

新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2(2020)年3月28日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)においては、「政府及び関係機関は、各種対策を実施する場合においては、国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとするとともに、女性や障害者などに与える影響を十分配慮して実施するものとする。」との文言が盛り込まれていましたが、その後出された基本的対処方針において、「特に、女性の生活や雇用への影響が深刻なものとなっていることに留意」する、「必要な支援を適時適切に実施」するとの文言等が新たに追加されました。

内閣府では、令和2(2020)年9月に有識者による「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」を立ち上げ、同年11月には、政府に対する緊急提言がまとめられました。政府は、自殺やDV(配偶者暴力)の相談体制の強化や「ひとり親世帯臨時特別給付金」の給付等を経済対策に盛り込み、令和2(2020)年度第3次補正予算等で措置しました。

令和3(2021)年3月には、新たに任命された孤独・孤立対策担当大臣を議長とする「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」、「新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議」が開催され、非正規雇用労働者等に対する緊急支援策が打ち出されました。


新しい働き方

第1回緊急事態宣言を境に、我が国では、多くの就業者がテレワークを経験することになり、地域別、産業別、年収別等で実施状況が異なるものの、普及・定着しつつあります。一方、テレワークを経験して感じたことを男女で比較すると、女性は家庭生活においての課題を感じることが多く、男性は仕事についての課題を感じることが多いことが分かります(図6)。

図6 テレワークを経験して感じたこと(テレワークを経験した就業者)
図6 テレワークを経験して感じたこと(テレワークを経験した就業者)


医療・福祉、情報通信業等は、コロナ下においても就業者数が増加しています。介護サービスの職業については、第1回緊急事態宣言後も有効求人倍率が3~4倍以上で推移しており、ニーズが高いです。また、IT関連の転職求人倍率も高く推移しています(図7)。今後、このようなニーズのある分野や成長分野等へのシフトが重要であり、そのための人材育成、マッチング、勤務環境の改善等が必要になっています。

図7 有効求人倍率・転職求人倍率
図7 有効求人倍率・転職求人倍率


新しい生活

1日の時間の使い方について、新型コロナ感染拡大前と比較すると、男性の仕事時間が減少した分、育児時間が増加し、男性の育児参画が進んだように見えます。ただし、女性の育児時間も同様に増加しており、また家事時間については変化がないことから、女性が男性の2倍以上、家事・育児をしている傾向は、新型コロナ感染拡大前後で変わりません(図8)。

図8 1日の時間の使い方
図8 1日の時間の使い方


一方、新型コロナ感染拡大前と比較して「夫」「夫と妻」の家事・育児の役割が増加した世帯の約42%が「夫婦の関係が良くなった」としており、男性の家事・育児参画は、良好な家族関係の構築のきっかけとなっています。


男女共同参画の未来

新型コロナという未曽有の危機とそれに伴う経済社会の構造変化は、女性の地位向上を図るチャンスでもあります。この流れを後押しするよう、時機を逸せず、ジェンダー視点を踏まえた政策を次々と打つ必要があり、そのためには、意思決定の場における女性の参加、女性の政治参画も重要です。この機に、ポストコロナ時代を見据えた男女共同参画を強力に進め、我が国の一人ひとりがこの国に生まれてきて良かったと思える社会、誰一人取り残されない社会を実現する。そこにこそ、男女共同参画の未来があります。


  1. 令和2(2020)年の完全失業率(実測値)と、平成27(2015)年から令和元(2019)年までのデータから作成した予測モデルで算出した令和2(2020)年の完全失業率(予測値)の差で影響度合いを評価。
  2. 独立行政法人労働政策研究・研修機構「新型コロナウイルス感染症のひとり親家庭への影響に関する緊急調査」
  3. 令和2(2020)年4月より、新たなDV(配偶者暴力)相談窓口として開設され、24時間の電話相談対応、WEB面談対応、10の外国語での相談対応を行っているほか、電話ができない場合にも相談できるようにSNS・メール相談も行っている。
  4. 本報告書については、「コロナ禍における自殺の動向を精緻に分析するために必要なデータが揃っておらず、現時点における分析は不十分なものとならざるを得ない。また分析を進めるほどに、時間をかけて詳細な分析を行う必要性に直面しているところだが、現時点で分かったことだけでも早めに公表すべきと判断し、今回、中間的な報告を行うことにした。」などの留意点が記されている。
  5. 令和3(2021)年1月7日。
  6. 令和3(2021)年4月23日。

令和3年版男女共同参画白書について、詳しくはこちら
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html


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