「共同参画」2021年7月号

巻頭言

日常生活での采配:危機対応の鍵

いま、世界中はコロナ禍にあり、そこで目につくのが格差・不平等である。事実、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長もワクチン接種の二極化に警告を発している。なかでも、ジェンダー格差の問題は極めて深刻である。日本社会の諸制度は家族機能に大きく依拠して設計され、親密圏として家族の重要な位置づけが強調されてきた。家庭という名の私的空間の密室性は、家庭内の問題を深刻化させ外部からの関与を困難にする。コロナ前から存在し、また潜在していた家庭内暴力は深刻化して、助けを求めようにも声を上げることができない女性たち、女の子たちの存在が見えてきた。社会的に弱い者たちを集中的に襲ったこのたびのパンデミックは、まさに世の中の格差の弊害を人々に実感させることになった。

男女共同参画局が内閣府に設置されたのは2001年。もう20年前となる。これまで何も変化がなかったとは言わない。ただ、国際的にみて依然として大きいジェンダー格差を目の当たりにし、十分な変化を起こすまでには至っていないことも事実である。いま求められるのは、直面するリスクへの臨機応変で柔軟、かつ迅速な対応力である。しかし、残念ながら日本の対応力が高いとは言えず、その背景にジェンダー格差の存在がある。長きにわたって諸制度の前提として位置付けられてきた家庭内の性別役割分業のもと、女性たちは日常の生活に多くの時間を費やしてきた。生活には非定型なことも多く、思いも寄らないことが起こる。そこに、柔軟かつ迅速、そして臨機応変な対応が求められてきたのである。女性たちは重要な政策決定の場から排除されてきたが、彼女たちの日常生活での経験や知恵がコロナ危機から脱却する突破口への起動力となりうる。事実、いくつかの国の女性リーダー達はコロナ危機を乗り越えるべく見事な采配を揮っている。

東京大学大学院人文社会系研究科教授 白波瀬佐和子
東京大学大学院人文社会系研究科教授
白波瀬佐和子

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