「共同参画」2021年5月号

特集1

アンコンシャス・バイアスへの気づきは、ひとりひとりがイキイキと活躍する社会への第一歩
内閣府男女共同参画局総務課

我が国における男女共同参画の取組の進展が未だ十分でない要因の一つとして、社会全体において固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が存在していることが挙げられます。「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」においては、固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見の解消、固定観念を打破するとともに、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)による悪影響が生じないよう、男女双方の意識改革と理解の促進を図ることとしています。

アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)を御存知でしょうか。これは、日本語で「無意識の偏ったモノの見方」のことです。他にも、「無意識の思い込み」「無意識の偏見」「無意識バイアス」等と表現されることもあります。

そこで本特集では、男女間におけるアンコンシャス・バイアスを中心に、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所の代表理事、守屋智敬氏にお話を伺いました。

守屋 智敬氏
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所
代表理事 守屋 智敬氏


Q.アンコンシャス・バイアスとは、具体的にはどういった事例がありますか。

A.日常のあらゆる場面で起きています。例えば、次のような例が挙げられます。これらはほんの一例ですが、アンコンシャス・バイアスは、日常や職場にあふれています。

  • 血液型をきいて、相手の性格を想像することがある
  • 性別、世代、学歴などで、相手を見ることがある
  • “親が単身赴任中です”と聞くと、まずは「父親」を思い浮かべる(母親は思い浮かばない)
  • 「性別」で任せる仕事や、役割を決めていることがある
  • 男性から育児や介護休暇の申請があると、「奥さんは?」と咄嗟に思う
  • 子育て中の女性に、転勤を伴う仕事の打診はしないほうがいいと思う

Q.個々人が持っているアンコンシャス・バイアスはそれ自体が問題なのでしょうか。

A.アンコンシャス・バイアスは誰にでもあって、あること自体が問題というわけではありません。過去の経験や、見聞きしたことに影響を受けて、自然に培われていくため、アンコンシャス・バイアスそのものに良し悪しはありません。しかし、アンコンシャス・バイアスに気づかずにいると、そこから生まれた言動が、知らず知らずのうちに、相手を傷つけたり、キャリアに影響をおよぼしたり、自分自身の可能性を狭めてしまう等、様々な影響があるため、注意が必要です。

ひとつここで、「“親が単身赴任中です”と聞くと、まずは「父親」を思い浮かべる」を事例に考えてみましょう。

「まずは、父親を思い浮かべる」ということ自体に、良し悪しはありません。ただし、「単身赴任という働き方を選択するのは、普通、父親だ」というアンコンシャス・バイアスに気づかずに、単身赴任の母親に対して「え?母親なのに単身赴任?お子さん、かわいそうね…」といった言動が、母親や、家族を傷つけることがあるかもしれません。また、性別で任せる仕事を決めつけてしまい、成長やキャリアに影響を及ぼすこともあるかもしれません。

Q.アンコンシャス・バイアスは解消できるものでしょうか。

A.具体的な対処法を3つお伝えします。

対処法1 決めつけない、押しつけない

アンコンシャス・バイアスから生まれる言動には、「普通そうだ」「こうあるべきだ」「どうせムリだ」といった、決めつけや押しつけが挙げられます。(詳細は、図表参照)

図表


例えば、「子育て中の女性は、普通、長期出張は無理だ」、「この仕事は、たいていの男性には無理だ」といったように、自分の決めつけや押しつけの言動に気づいたなら、「これは、私のアンコンシャス・バイアスかも?」と疑ってみてください。頭ごなしに決めつけないこと、ひとりひとりと対話をしてみること、相手を尊重する心の姿勢を持つことがカギを握ります。

対処法2 相手の表情や態度の変化など「サイン」に注目する

相手の心のあと味が、サインとなってあらわれます。「急に表情が曇った」「声のトーンが変わった」「キーボードを打つ音が大きくなった」「オンライン会議中に急にビデオがOFFになった」といったサインに気づいたなら、「私のアンコンシャス・バイアスによる言動が、相手の心のあと味を濁したかも?」と、ぜひ立ち止まってみてください。違和感をそのままにせず、フォローを心掛けてみてください。

対処法3 自己認知

アンコンシャス・バイアスの正体は「自己防衛心」です。脳が無意識のうちに自分にとって都合のよい解釈をすることによって起きています。自然の摂理であり、完全に払しょくすることはできません。だからこそ、大切なことは、アンコンシャス・バイアスに気づこうと、ひとりひとりが意識することです。

「これって、私のアンコンシャス・バイアス?」と自分に問いながら、アンコンシャス・バイアスのメモを1~2週間とってみることもお薦めです。(詳細は、参考参照) 自分のモノの見方のクセや、思考のクセに気づけるかもしれません。

参考


「これって、私のアンコン?」が、組織全体の共通言語となり、互いに自己開示しあえることが、ひとりひとりがイキイキと活躍する社会に、一歩でも二歩でも近づいてゆくことにつながると思います。

アンコンシャス・バイアスへの気づきは、多様性を認め合う社会の実現に向けての第一歩です。「わたし」を主語に、ひとりひとりが実践することです。「わたし」から始める、「半径数メートル」から始まるダイバーシティ&インクルージョンではないかと思うのです。

Q.私たちが、アンコンシャス・バイアスと向き合い続けていくためのポイントはありますか。

A.過去の経験や見聞きしてきたことは、未来への貴重な財産です。否定されるものではありません。一方で、十把一絡げなモノの見方が、悪影響をもたらすこともある、という意識を持ち続けてみてください。

大切なことは、ひとりひとり、その時々と向き合うことです。「100人に影響がなくても、101人目に影響があるかもしれない」「これまでに出会った100人の女性/男性はこうだったと決めつけずに、101人目は違うかもしれない」「過去と今とでは違うかもしれない」といったように、101人目に思いを馳せてみてください。

Profile
守屋 智敬氏(もりや ともたか)
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事
1970年大阪府生まれ。
都市計画事務所、コンサルティング会社を経て、2015年、株式会社モリヤコンサルティングを設立。その後2018年、一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。アンコンシャスバイアス研修の講師育成や、子どもたちへの授業など、ひとりひとりがイキイキする社会をめざして活動している。

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