「共同参画」2021年3・4月号

特集2

スペシャルインタビュー
(株)資生堂 代表取締役 社長 兼 CEO 魚谷 雅彦氏にお話を伺いました
内閣府男女共同参画局総務課

スペシャルインタビュー


リーダーのスタイルも多様。自分らしいリーダー像を描いてほしい。

林局長:女性が輝く先進企業表彰2020内閣総理大臣表彰受賞、おめでとうございます。貴社における女性活躍のための取組を教えてください。

魚谷社長:化粧品を扱っている会社で、女性の管理職比率が高いのは当たり前と思われがちですが、表彰式の総理の言葉にもあったように、管理職・役員・取締役のように会社の経営に大きく影響を与えられるポジションにしっかり女性を登用していこうとここ数年間取り組んできました。私が社長に就任した際、新たにビジョンを掲げたところ、ダイバーシティの必然性が見えてきました。男性だけでは見えない世界、議論が必要であり、制度をいくつか変えました。

その1つとして、女性リーダー育成塾“Next Leadership Session for Women”という、部門長などの上位管理職の女性比率向上を目指すことを目的とした塾を、私が塾長となり、開催しています。4年前に1期生がスタートし、私は思いを込めて語りました。しかし参加者との温度感に差がありました。彼女らは「なぜ呼ばれたのか。家事・育児でも忙しいのにもっと働けということか」と戸惑い、私は人選ミスかとすら思いました。しかし、これこそが現実と痛感しました。我々にもアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)はあり、彼女らにもアンコンシャスバイアスが存在する。彼女らにとってのリーダーとは、親分肌の男性。自分たちはとてもそんなリーダーにはなれない、と思っていたようです。私たち世代の若い頃には、そういったタイプのリーダーが多かったから、無意識に自分たちがそういう印象を与えてしまっていたことに気づきました。しかし、リーダーの姿は多様であってよいはずです。共感してもらえる巻き込み型のリーダーも必要です。自分のスタイルでリーダー像を描いてほしいのです。


年下の女性社長との仕事が私のベース。

林局長:日本のジェンダーギャップ指数は121位と先進国最下位です。その理由の1つに年功序列など「昭和の男性中心労働慣行」があり、女性は継続勤務がしづらいため、どうしても不利になりがちとされています。貴社の場合、グローバルなプレッシャーもあったのでしょうか。

魚谷社長:私は生え抜きではありません。ライオン、留学、コカ・コーラ、とキャリアを重ねてきました。なかでもコカ・コーラでの経験が私の社会人の基礎になっています。

日本コカ・コーラで副社長をしているときに、アメリカ人の年下の女性が社長として赴任してきたことがありました。彼女はプレゼンがうまく、仕事に対しても厳しく大変でした。しかし、一緒に仕事をしてみると、日本のために本社から投資を引き出してくるなど、意欲や交渉力などに秀でており、私のこともリスペクトしてくれて、よいコンビでした。この経験が、仕事をする上で、国籍・男女・年齢は全く関係ないと学ぶことができたきっかけとなりました。

女性の働き方としては、“資生堂ショック”と呼ばれることがありました。弊社には多くの美容部員がおり、女性が大半のため、例えば出産後、夜や土日の勤務が厳しくなると、制約のない社員で対応してきました。そうすると夜や土日対応をする社員から不公平感の声が上がり、子育て中の社員から申し訳ないなという思いや、顧客との接点も減り、技能も衰え、キャリアに影響するのではという不安も出てきました。そこで、交代制で夜や土日も少し働いてもらう方向に舵を切りました。ただこれは丁寧にやらないと誤解を招きます。幹部職が全員、一人一人と面接を重ね、実現に至り、少し経つと評価も変わってきました。様々なサポートによって女性を働きやすくしてきましたが、それができたら次の課題が見えた。その課題の解決に向けて取り組んだのだから、これは称賛されるべきではないか、というものです。子育て中の女性からは、皆と同じように働く機会が与えられた、夜や土日に自身が働くから夫と子どものコミュニケーションが促進されたといった好意的な声も聞かれました。幹部職側も非常にデリケートな問題の本音が聞けて、理解が進み、マネジメントスキルの向上にもつながりました。

林局長:社員の多様化とともにきめ細かいマネジメントが大事ですね。

魚谷社長:今の若い男性も、昔の男性の価値観とは変わってきています。男女平等や育児参加は当たり前。キャリアの築き方にも変化が起きています。男性、女性であろうと、この仕事は何を目的としているのか、自分に何を期待しているのか、説明が求められる時代であり、緻密なコミュニケーションが求められています。


「30%Club Japan」では、企業のトップ同士が本音で語り合い、切磋琢磨できる。

林局長:「30%Club Japan」の初代会長就任の経緯や取組について教えてください。

魚谷社長:140年以上の歴史をもつ、資生堂を元気にすることは、日本を元気にすることにつながる、と背中を押され、使命感を持ったのがきっかけです。資生堂には、社会のためにどう貢献するのかを考えて入社してきた社員がたくさんいます。弊社は社会価値貢献も先んじて行ってきました。そのため他社より少しノウハウがあり、企業内保育所の事例もその1つです。

「30%Club Japan」の存在を知ったとき、すぐに連絡を取りました。よいノウハウ共有の場になりそうだと思い、積極的に参加してきました。すると、いつの間にか会長に。海外から日本はダメだと言われることもありますが、経営者はみんな必死に何とかしなきゃと思っています。しかしすぐには変えられないジレンマを抱えています。だから、企業のトップ同士、本音で話し合える場が必要と思いました。成功事例やノウハウはもちろん、大きな声で話せないような失敗談も含め、切磋琢磨できる場となっています。

林局長:心強いお話です。日本の真ん中で活躍されている企業のノウハウをぜひ広げていただきたいです。


タブーと思われていた日々の小さなことを1つ1つ変えていくことが大事。

林局長:今回、基本計画に初めて副題をつけ、すべての女性が自分らしく幸せになれる社会をつくっていきたいという思いをこめて「すべての女性が輝く令和の社会へ」としました。そのために必要なことは何だと思われますか。

魚谷社長:日本の社会・企業において、イノベーションの度合いが弱いと考えます。どこにその根っこがあるのかと考えるとやはり教育。今は変化に耐えられることが大事です。日本の教育は、基本的には全員が同じであることがよい、という考え方からスタートしています。教育の段階から、個の力を適性に応じて発揮してよい、と思わせてくれる社会を期待します。

多様化というときに、人事制度が変わっていないため、採用が従来通りで、個性がない学生ばかりです。企業側も個性がある学生を好むことを明示することも必要です。弊社では、面接時には個性が見える服装で来てくれ、と言っています。タブーをノーマルにするくらいの発想が今の時代には必要です。こうした1つ1つの小さな積み重ねが本当の意味で企業を変えてくれると思っています。

林局長:本当にそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

オンライン対談の様子
オンライン対談の様子

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