「共同参画」2021年2月号

特集2

スペシャルインタビュー
(一社)共同通信社社長 水谷 亨氏にお話を伺いました
内閣府男女共同参画局総務課


メディアの世界も変わった。多様性重視、多くの女性記者が活躍

林局長:「第5次男女共同参画基本計画」を2020年12月に閣議決定しました。基本の法律はできてから約20年になりますが、地域によっては男尊女卑の雰囲気が残り、若い女性の大都市圏への流出が増えています。共同参画社会を進める上でメディアの役割は大きいと思います。お考えを聞かせてください。

水谷社長:私が入社した約40年前は、記者は男性ばかりでした。しかし今では全国の支社局に配属する女性の比率は高くなっています。各地の事件や事故の取材を仕切る「県警キャップ」という重要な役割を、多くの女性記者が担っています。女性が来たから女性にやらせてみようということではありません。男性だから、女性だからではなく、どういう能力があるのかが優先されます。多様性を重視していると言った方がいいかもしれません。意識もだいぶ変わってきたと感じています。

林局長:記者は男社会というイメージを持っていました。

水谷社長:水谷社長:20年4月時点で約1650人の職員がいますが、その5人に1人が女性です。比率は21.8%です。20代は51.4%と半分以上です。しかし私が入った時に女性がいなかったように、部長以上の世代は少なく50代は8.4%です。

林局長:国も幹部職員といわれる審議官以上は4%です。年功序列の日本の雇用システムの中では比率を高めるのに時間がかかるのが悩みです。

水谷社長:若い記者が書いてきた原稿を直したり指摘したりする職員を「デスク」と呼びます。そういう指導的な立場にある職員は次長職以上の肩書を持っており、その女性比率は7.6%です。以前よりは増えていますが、そんなには高くはありません。これからもう少し割合を上げていかなければと思っています。


若い記者の問題意識が世の中を動かす

林局長:女性記者が増えて、記事に変化はありますか。

水谷社長:あります。スポーツ分野を取材する「運動部」に所属する女性記者が書いた記事が、世の中を動かしました。この記者はスポーツ大会などで選手を盗撮している人たちがいて、それを知った女子選手が非常に苦しい思いをしていることに学生の頃からおかしいと思っていました。その問題意識をデスクらにぶつけて、一つ上の女性の先輩記者と一緒に取材を続け、日本オリンピック委員会など7団体が性的な撮影や画像拡散の撲滅に取り組む共同声明を発表、スポーツ庁長官が「看過できない問題」と発言する事態になりました。

林局長:五輪選手だった橋本聖子内閣府特命相も非常に問題だと述べ、基本計画にはスポーツ分野におけるセクシャルハラスメント被害の防止策を講じることなどを盛り込みました。記事が果たした役割は大きいですね。

水谷社長:記者が相談した上司の指導法も興味深かったです。「〝盗撮する人を閉め出せ〟という原稿に終わらせてはだめだ。社会全体がおかしいと言って、是正させるような流れを生む記事にしなければならない」と伝えました。なぜそういう指導をしたかというと、共同通信では13年に女子柔道の五輪代表選手への暴力やパワーハラスメント事件をスクープし新聞協会賞をいただきました。その時もスポーツ界の歪んだ部分は、正す方向にもっていくような記事を書き評価されました。今回もそうした方針に応えてくれました。

林局長:若い記者が問題を発掘して、年齢が上の世代に課題を示してもらうことは大事だと思います。

水谷社長:もう一つ記事を紹介します。高校生の制服についてです。男子はスラックス、女子はスカートということが意外とLGBTの人々には苦痛になっているという視点で記事をまとめました。共同通信の調査では少なくとも19都道県の600校を超える公立高校が、性別に縛られない制服を採用していることも分かりました。それだけの学校が対応するというのは性別にこだわらない流れが若い世代には出てきているのだと思います。

世界へ女性特派員。日本のジェンダーギャップ指数の低迷は驚き

林局長:この20年で世界の中枢機関のトップに女性が増えました。基本計画には海外と比較したジェンダーギャップ指数の順位も記述しました。日本は153カ国中、121位です。

水谷社長:121位という数字には驚きました。途上国よりも下なのかと思いました。共同通信では世界に約70人の特派員を出していますが、その1割が女性です。ワシントンやロンドン、珍しいところではサンパウロやモスクワに派遣しています。女性が行きにくいという意味ではイスラム圏があるのですが、テヘランやカイロに女性特派員を出したことがあります。

林局長:日本は政治分野で特に女性の割合が低く、女性の衆議院議員を増やすには、まずは地方の女性議員を増やすことが重要です。女性が1人もいない議会もまだあります。

水谷社長:共同通信では女性議員の少なさに問題意識を持ち、奈良県で半数以上が女性という珍しい町議会の副議長にインタビューし記事を配信したことがあります。地方の議会の方が進んでいる部分、遅れている部分、いろいろあると思います。かつて熊本市議会で生後7カ月の子どもを連れて議会に出席しようとして厳重注意された事例なども報じましたが、どうしてもっと寛容になれないのかと思ってしまいます。

性別や年齢、国籍、障がいの有無にかかわらず誰でも力を発揮できる環境に

林局長:ダイバーシティーの取り組みを教えてください。

水谷社長:性別とか年齢とか国籍とか障害の有無にかかわらず、誰でも力を発揮できるような環境にしましょうという趣旨を明確にする意味もあって、19年に両立支援室の名称を「ダイバーシティー推進室」に変えました。やむにやまれぬ理由で会社を去る人をできるだけ作らない、妨げることがあるのならそれを乗り越えて仕事をできる環境を作りましょうという取り組みです。人材を重視する思いが込められています。

林局長:男性の育児休業の割合を教えてください。子どもと関わることで新たな視点が生まれ、よい影響があるのではないでしょうか。

水谷社長:男性の育休取得率は全国平均(7.48%)より高く28.6%です。夫が育休を取得し、妻が働く、というケースもありました。男は育児などせず、休みの日も仕事をするのがよい記者だ、と言われた時代もありましたが、今は奥さんの育児をサポートする、自ら率先して育児をするというマインドがないと外の仕事もうまくいかないのではないかと思います。

声を上げれば変わる。乗り越えられないことはない

林局長:基本計画の副題は「すべての女性が輝く令和の社会へ」としました。令和を生きる女性にエールをお願いします。

水谷社長:自分がこの先もう進めないと思っても、乗り越えられないことはありません。声を上げることで変わることもあります。盗撮問題も、声を上げた人たちがいたからこそ変わりました。声を出す前に周囲が気づければいいのですが、そこまで目が行き届いていない。だから声を上げてもらったことは変えていきたい。これは性別に関係ない問題だと考えています。多様性が生まれれば、一歩進んだ視点を持った記者が育ち、いい記事につながっていくと考えます。

林局長:多様な人が多様な視点で多様な記事を書くのはすばらしいですね。普通の女性が生きやすくすることが大事だと思っています。

水谷社長:共同通信は記事や写真を配信することが主な業務ですが、いい記事なら加盟する多くの新聞社や放送局が報道してくれ、日本の隅々までニュースが伝わります。それによりいろいろな人の考え方が変わるといいと思います。

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019