「共同参画」2020年10月号

トピックス1

スポーツ分野における女性の更なる活躍推進に向けて
内閣府男女共同参画局推進課

スポーツ分野における女性の活躍は目覚ましいものがあります。その更なる推進には、女性競技者が、女性特有の課題に悩むことなく、健康で活躍できる環境を整えることが必要です。対策の一つが、女性スポーツ指導者による、男女の身体構造等の違いを踏まえた支援体制の整備です。競技経験のある女性スポーツ指導者なら、高い競技技術の提供に加え、自身の経験を踏まえた課題解決への提案が可能です。そのため、女性競技者が現役引退後も引き続き、監督・コーチ・スタッフ等として活躍できるよう、現役時代からセカンドキャリアを見据えた準備を支援する取組を始めています。

以下、日頃から女性競技者の健康支援に携わっていらっしゃる有識者のお話と、スポーツ分野の女性活躍を推進する政府の取組等について御紹介します。

有識者のお話

東京大学医学部附属病院 能瀬さやか医師に、女性アスリートの健康課題についてお話をお伺いしました。

東京大学医学部附属病院女性診療科・産科には、女性アスリート外来があります。最も多い相談は、3か月以上月経が止まる「無月経」という症状です。その原因は様々ですが、多くは利用可能エネルギー※1不足によるものであり、これは日常的に激しい運動をする女性アスリート特有の問題ともいえます。

2014年に国際オリンピック委員会が合同声明として発表した「RED-S(Relative energy deficiency in sport)」という概念を御紹介します。アスリートが適切なエネルギーを摂っていない状態でスポーツに参加すると、発育や発達、精神、骨、代謝等全身に悪影響を与え、パフォーマンス低下につながります。この中で、利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症の3つの問題が、特に女子アスリートに多い問題であり、『女性アスリートの三主徴』と呼ばれています(図1)。


運動によるエネルギー消費量に見合った栄養摂取がなされていないと、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が低下して、月経が止まります。エストロゲンの分泌低下は、若い女性においても骨粗鬆症の原因となります。また、利用可能エネルギー不足は、低栄養、低体重につながります。低体重は、骨量増加のために必要とされる荷重負荷が不足することとなり、この低体重も骨粗鬆症の原因となります。この様に、3つの問題(利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症)の相関が三主徴の考え方であり、この事象の発端は利用可能エネルギー不足であるとされています。

我々が300名の競技レベルの高い選手を対象に、三主徴の割合を調査した結果、利用可能エネルギー不足は14%、無月経は39%、低骨量は22%でした。このデータをみると、10代、20代の若い選手で、既に低骨量や骨粗鬆症を抱えている選手が4~5人に1人いるという計算になります。

※1 「利用可能エネルギー」とは、「食事からの摂取エネルギー」から「運動により消費されるエネルギー」を引いたもので、基礎代謝や日常活動に使用可能なエネルギー量のこと。

別の調査では、BMI※2が低いほど無月経の割合が多いこともわかりました(図2)。


日本人女子選手を対象に競技レベル別に無月経の割合について調査を行ったところ、無月経は競技レベルの高いトップの選手に限らず、様々な競技レベルの選手において、同様の割合で起こっていることが明らかとなりました。

また、別の調査では、三主徴は疲労骨折と関連があることが明らかになっています。三主徴を抱える競技者ほど、(中でも20代よりも10代のほうが)疲労骨折のリスクが高いという結果が出ました(図3)。


女性は20歳前後で最大骨量を迎えますが、三主徴を抱える競技者は、10代で骨量を十分に獲得できず、生涯にわたって骨量が低いまま経過します。低骨量は競技生活における疲労骨折のリスクを高めるだけでなく、高齢期の骨折のリスクも高め、寝たきりや認知症の発症につながります。したがって10代の時期に低骨量のリスクがある人を早期にスクリーニングし医学的介入を行うことは、女性個人の生涯の健康をもたらすばかりか、社会的には医療費削減にも貢献すると思います。

しかし現時点では、骨量が低い若い選手たちに対する確立した治療法がありません。閉経後の女性の骨粗鬆症治療薬はありますが、選手ではドーピングの問題が、若年者では安全性等様々な問題があって使えないため、食事療法、栄養指導で予防するしかないのです。

この傾向は、一般女性に対する問題でもあります。現在、痩せの女性、ダイエットによる無月経、骨粗鬆症、摂食障害の女性も少なくありません。10代からの月経教育、そして問題の早期発見のため、学校現場と専門家が連携し、相談・支援できる体制の構築が必要と考えています。

国の取組

スポーツにおける女性特有の課題への対応として、主にスポーツ庁が中心となって、①女性特有の疾患・障害等における医・科学サポートプログラムの提供、②女性を対象としたスポーツ指導等のためのハンドブックの作成、③女性特有の視点とアスリートとしての高い技術・経験を兼ね備えた女性コーチの育成等に取り組んでいます。

内閣府では、第5次男女共同参画基本計画策定に当たり、スポーツ分野の女性活躍促進についても検討しています。引き続き、スポーツ分野において女性が活躍できる環境づくりを推進してまいります。

※2 「BMI(Body Mass Index)」はボディマス指数と呼ばれ、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数のこと。

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