「共同参画」2020年3・4月号

巻頭言

日本では「#MeTooが盛り上がらない」のか?

最近、メディアから日本社会でのジェンダー平等や女性活躍について取材を受ける機会が多くなった。その際、記者さんたちの口から出る質問には、「日本ではなぜ#MeToo運動が盛り上がらないのでしょうか」という消極的なものが多い。しかし、私は、そんなことはないと思っている。なぜなら、日本でもここ2年ぐらいの間に、東京医科大学不正入試への抗議デモ、性暴力根絶を訴えるフラワーデモ、就活セクハラ根絶に向けた学生たちの活動、ハイヒール強要に物申す#KuToo、黄色を目印とした痴漢パトロール隊活動などなど、社会の各所で女性の尊厳を主張する新たな#MeToo運動が展開されてきた。それぞれアジェンダは違うけれども、女だから、男だからと我慢を強いられてきた事柄について、一般の市民たちがしっかりと異議申し立てをしている。

だから私は、「盛り上がっていないのではなく、メディアが盛り上げていないだけじゃないですか」と記者さんたちに問い返すことにしている。

いくつかの事例を調査しても、諸外国に比べて、日本のメディアはジェンダー平等に関する話題の取り上げ方に消極的だ。その原因はいろいろあるだろうけれども、何よりも日本では、メディアで働く女性が圧倒的に少数派であることも一因だろう。管理職となると、その数は絶望的となる。つまり、メディアの側に、ジェンダー平等をめぐる動きへのアンテナが立っていないのである。

人々が知るべきニュースの選択、ニュースの内容、ニュースの順序付けといった制作プロセス全般に、ダイバーシティとマイノリティの視点が薄いことは、せっかく盛り上がった男女共同参画社会を目指す気運を挫くことになりかねない。ジェンダー平等をめぐる日本社会の新たな胎動をいかにキャッチして、社会に浸透、定着させていくか。5年先、10年先の日本のジェンダー平等達成度は、メディアの発信の仕方いかんにかかっていると私は考えている。

 


 


東京大学大学院情報学環教授
林香里

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