「共同参画」2019年10月号

特集3

活躍する女性たち〜公務員の現場から
内閣府男女共同参画局総務課

「自分らしく」あるために~家庭でも仕事でも、明るく伸びやかに。感謝の気持ちと慈しみの心を大切に。

加古川刑務所分類教育部 主任矯正処遇官(教育担当)
生多 マキ氏

刑務官とは、国民生活の基盤である治安を支え、罪を犯した者を更生に導くことにより再犯を防止し、もって安心・安全な社会を築くという使命を果たす国家公務員です。現在、約17,500名の刑務官が全国各地の刑事施設(刑務所、少年刑務所又は拘置所)において勤務に励んでいます。

 

矯正の世界に飛び込んで、約17年が経とうとしています。刑務所とは、受刑者を改善更生させ、円滑な社会復帰に導く場所であり、「受刑者の改善更生」に向けて、私に何ができるのか、という期待と不安の中、17年前に刑務官としてのスタート地点に立ちました。

採用後、数年間は、目の前の業務を行うことに必死で、「受刑者の改善更生」について考える余裕もなく、また、自己の未熟さから、うまく受刑者と接することができずに無力感を覚えることが多々ありました。キャリアアップを考えるようになり、平成19年、初級幹部職員を目指し、約3か月間の中等科研修を受けました。

その後、結婚、第一子出産後の育児休業、転勤、第二子出産後の育児休業を経て、職場復帰し、平成30年に初級幹部である主任矯正処遇官に昇任しました。

初めての主任業務は、男性受刑者の処遇(刑務所内での生活全般等の指導)担当であり、異性の処遇という高いハードルを、どのように超えたらいいのか分からずに悩んだ1年間でした。また、現場勤務は突発的な事案も多く、夫には次男の保育園の送迎から家事全般に亘って負担を掛けることが多くなってきて、働き方について、真剣に考えるようになりました。

今年の4月、分類教育部(教育担当)に異動となったのを機に、育児支援制度の利用を開始し、午前9時から午後4時半までの勤務(1日に1時間の育児時間を取得)をしています。育児に費やす時間が増えたことで、子どもの精神状態も安定し、自分の気持ちにも余裕が持てるようになりました。夫は趣味の空手にも通えるようになりました。

現在、刑務所の教育担当を受け持ち、「受刑者の改善更生」に密接に関わることができ、とてもやりがいを感じています。週に1時間、新入の男性受刑者に対して、「刑務所における改善指導(犯罪の責任を自覚させたり、社会生活に適応するために必要な知識や生活態度を習得させる指導)」について講義を行っています。私が直接受刑者と接するのは、この講義のみなので、何か心に残るような指導ができたらと思い、日々工夫を凝らしながら指導を行っています。

このように、私らしく伸びやかに勤務ができるのも、上司や同僚の理解があるからこそです。また、改善指導には、職員をはじめ、公認心理師などのカウンセラー、大学関係者等多くの方が関わってくださっています。

周りの全ての人に感謝の気持ちを忘れず、これからも自分自身を磨き、社会に貢献できるよう、「受刑者の改善更生」に向けて、全力を尽くします。

○法務省ホームページ
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse13.html

 

動物検疫と私〜男女半々の職場から〜

農林水産省動物検疫所 沖縄支所検疫課
太郎良 陽子(たろうら ようこ)氏 

動物検疫とは、外国から輸入される動物・畜産物などを介して家畜の伝染性疾病が国内に侵入することを防止するほか、外国に家畜の伝染性疾病をひろげるおそれのない動物・畜産物などを輸出することによって我が国の畜産の振興に寄与しようとするもの。全国に28箇所の動物検疫所が設置され、105か所の空海港において検査を行っています。

 

動物検疫所では、海外から動物の病気が侵入することを防ぐために検査を行っています。

検査の対象は、牛や豚等の家畜やその畜産物をはじめ、犬・猫等の愛玩動物や、こい・金魚等の水産動物まで多岐に亘り、検査場所も空港や港、係留施設(動物の隔離検査を行う)等、様々です。

一般の皆様には、空港で働くビーグル犬がお馴染みかもしれません。彼らは、検査対象物の肉製品等を探知する「動植物検疫探知犬」です。その活動は、空港内に留まらず、郵便局での国際郵便物の探知、小学校での出前授業や各種イベントへ赴く宣伝部長でもあります。動物検疫の活動は、意外と身近な場所でも行われているのです。


新石垣空港における広報キャンペーンにて

動物検疫所の職員は国家公務員で、通常、3~5年毎に全国転勤を行います。日頃、外国人と接する機会が多く、語学堪能な職員も在籍していますが、私を含め大多数の職員は、業務上必要に迫られ、入省後に勉強しています。

また、女性が多い職場(女性比率50.8%)であることも特徴の一つです。シフト勤務や泊り勤務、出張等もありますが、職員間また各家庭で調整し、対応しています。


クルーズ船における船内検査風景

さらに、女性職員だけでなく、男性職員も育児休暇を取得するようになり、特に管理職が率先して取得し、部下が後に続く雰囲気を醸成しています。近い将来、介護休暇を取得する職員も増加していくことが予想されますが、介護理由の退職者を出さずに、お互い協力していけたらと思います。 

私の勤務している沖縄支所では、主に旅客の携帯品検査や、国際郵便物の検査及び犬猫等の輸出検査を行っていますが、沖縄県はクルーズ船入港数が全国一多い県であるため、その検査のため、出張が多くなっています。

私自身は、中学生と小学生の親であり、頻繁に家を空けるのは心苦しいですが、家族の協力と便利家電の力を借りて対応しています。

子供が小さい頃は、一日をやり過ごすことで精一杯でした。子供はしょっちゅう病気になるし、年休はギリギリ、仕事も家庭も中途半端であちこちに頭を下げて疲労困憊。

そんな頃、保育園で子供が熱を出し、早退を申し出た際の上司から一言「旦那さんが迎えに行けないの?」以降、何でも交渉してみるという技を身に着けたのでした。  

女性は、結婚、妊娠、出産等、様々な出来事に仕事の継続を阻まれることがありますが、諦めない図太さが肝心だと思います。


海外から来航するヨットへの検査・指導も行います

(※2019年4月現在 動物検疫所調べ)

○農林水産省動物検疫所ホームページ
http://www.maff.go.jp/aqs/

 

「女性の感性を武器に~職務質問」

警視庁地域部地域指導課 職務質問指導班
石丸 百合子氏 

地域警察官は、地域の安全・安心を守り市民に頼りにされる存在で、交番勤務やパトカー勤務を通じて、最も身近な存在として活動します。パトロールや防犯活動、職務質問による犯罪検挙、事件・事故発生時の初動警察活動のほか、地理案内や遺失届・拾得物の受理、相談対応など、地域の安全・安心に大きな役割を果たしています。また、警視庁においても警察官の約10%が女性警察官であり、近年、被害者や被疑者も女性が増加してきている中で、女性警察官が適正業務に必要不可欠な存在になっています。

 

『職務質問』という言葉を聞いて思い浮かぶのは、男性警察官の姿ではないでしょうか。警視庁警察職員約4万6千人のうち、地域警察官は約1万5千人、そのうち女性警察官は約1千人ほどですが、女性が職務質問の分野で活躍することが、まだまだ浸透していないのが現状です。

私は現在、地域部地域指導課職務質問指導班で、職務質問指導者の一人として、各警察署やパトカーで専門的に職務質問をする自動車警ら隊等へ派遣され、職務質問の指導をしています。私がこの職務質問の仕事をするようになったのは、自動車警ら隊に異動したことからです。

それまで地域部門での勤務経験がなかったため『職質のプロ』への異動は青天の霹靂でした。現場に出ると、「ブス!」「クソババア!」などと罵倒されるのは日常茶飯事で、男性と同じことをしても、女ということでなめられ、悔しい思いばかりしていました。そこで、強がって男性警察官と張り合うのではなく、自分自身が持っている女性の特性を活かした職務質問をやってみようと視点を変えてみました。

女性特有の会話能力、洞察力、きめ細やかな対応を武器に職務質問に取り組んだところ、自ら犯罪を自供したり、素直に所持品検査に応じる者が増えるなど、女性警察官でも『職務質問』ができることを示すことができました。今では現場の男性警察官から頼りにされることも増え、大変やりがいを感じています。男女の特性を尊重しつつ、互いの能力を発揮することで、一人でも多くの犯罪者を検挙することを目標に、日々邁進しています。職務質問は既に発生した犯罪の犯人検挙だけではなく、未然に犯罪の発生を防止できる警察官の武器と言っても過言ではありません。この職務質問の大切さを伝え、自ら行動する逞しい警察官を一人でも多く育てることが私の仕事です。

現在、当庁だけではなく、他県警察の女性警察官にも、自分の経験を活かした職務質問の指導をする場を頂いています。全国の女性警察官で情報交換のネットワークを作り、警察組織全体を盛り上げていければと思っています。

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019