「共同参画」2019年5月号

巻頭言

「ライフ」の拡大、「バランス」の多様性

ワーク・ライフ・バランス(WLB)の議論は、1990年代に急速に進んだ少子化傾向への懸念から仕事と育児の両立支援の重要性が認識されたことが端緒といえます。その後2000年前後から、「ライフ」を「仕事以外のプライベートな生活」と広くとらえるようになり、WLBの議論が深化してきました。

この過程で、特に「ライフ」領域が拡大してきた点が注目されます。最初は育児が中心でしたが、介護を含む家庭生活全般へ、さらに地域生活、個人の学びへと射程は広がり、今日では病気治療も重要な「ライフ」領域となっています。また最近は「副業」の議論もでてくるなど、「ワーク」と重なるような領域も「ライフ」としてとらえられています。女性、高齢者といったこれまでの潜在人材が職場で活躍するようになり、「ライフ」の多様な側面が意識されるようになってきました。これと並行して、男性の働き方への問題も提起されています。

次に「バランス」のための施策について考えてみましょう。本年4月から、いわゆる「働き方改革関連法」が順次施行されています。時間外労働の上限規制や年次有給休暇5日間の取得義務化など、WLBの実現につながる法改正がなされました。ただし、これまでの「バランス施策」は、働きすぎへの問題意識から、どうしても長時間労働の是正が主要テーマでした。しかし、「バランス状態」は、個々人により、また同じ個人でもライフステージにより多様であることを踏まえると、これからは、一律的な長時間労働削減施策以上に、柔軟に働き方を選べることが重要になってくると考えられます。

さらにこれまでは十分に検討がなされてこなかった「どこで働くか」という点も重要です。長いスパンでとらえれば勤務地選択(転勤を含む)の問題、短期的にはテレワーク・在宅勤務など、働く場所についての検討が重要になってきます。特に転勤を含む勤務地選択は、長期安定雇用や人材育成のあり方など、基本的な人事政策と深く関わる課題であり、長時間労働の是正以上に対応が難しい課題でもあります。

「ライフ領域」の拡大への対応、そして多様な「バランス施策」の重要性の高まりを踏まえ、WLBの議論がさらに深まることを期待しています。


法政大学キャリアデザイン学部教授
武石 恵美子

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