「共同参画」2019年3・4月号

スペシャル・インタビュー

従業員のみんなが、きっと家で家族と一緒に晩御飯を食べているやろうなと想像するだけで、幸せな気持ちになる。
minitts代表取締役 「佰食屋」オーナー 中村 朱美

今回は、「1日100食限定!限られた時間だけ働いて、適度に稼いで早く帰る」働き方を実現し、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞に選ばれた中村朱美さんにお話を伺いました。

―「佰食屋」の名前のルーツをお聞かせいただけますか。―

開業前、最初に決めたのがお店の名前です。もともと私も夫もサラリーマンで営業や広報の仕事をしていましたので、自分たちが飲食店をやるなら、頑張りが自分たちに何かの形で反映されるような働き方を導入したいと考えていました。

インセンティブを飲食店に導入するには、食数を限定し、それをクリアすれば早く帰れて給料も上がるという仕組みにする、1日何食ということを従業員もお客様も知る必要があると考えました。「佰食屋」という名前にしたら、働く人もお客様も100食限定というのがお店の名前からわかる。「佰食屋」の漢字も最初から決めていました。「百」だと、ただ100食を売るだけの店にしか聞こえない。私たちは、飲食店の働き方を変えたい、人を大切にする会社でありたいと思い、最初から「にんべん」、人を表す漢字をつけました。

―お店を開業してから今までの間は様々な御苦労があったのではないですか。―

実は佰食屋のメニューは、会社員の時に結婚した夫が作ってくれた晩御飯のメニューでした。夫が作るステーキ丼があまりにおいしくて、ほかの人にも食べてほしいと心底思っていました。夫も、昔から料理が好きで、定年退職したらいつか自分の店を持ちたいと言っていました。

結婚後、子どもがすぐに欲しかったのですが、なかなか授かれなかったこともあり、夫を誘い、私の方が夫のお尻をたたいて開業に持っていきましたが、私の実の両親からは非常に反対され、開業するまで理解を得られませんでした。でも、私は夫の作るステーキ丼が本当に大好きで自信があったので、皆さんに知ってもらえれば絶対流行るという自信は最初からありました。経営面では、景気の動向や天候により牛肉や野菜も高騰したりしますので、どれくらいの原価率で、どういう仕入れ値で安定させるかというのは、今でもずっと試行錯誤し続けています。突然メニューの金額を上げるようなことになればお客さんも離れてしまうので、すごく悩んだときもありました。今年7期目で、ようやく安定して利益を出せる仕組みを理解できてきた感じです。

今は牛ステーキ丼、すき焼き、そして肉寿司の3店舗をやっていますが、主婦の感覚、消費者として私が食べたい値段を付けています。千円を超えるとやはりランチに行きにくくなるので、そのくらいの中で先に値段を決めて、そこから材料を逆算していく形で考えました。

―「佰食屋」は残業がないとお聞きしたのですが。―

お店で働くスタッフは、今、全体で正社員13人とアルバイト17人が働いていて、勤務時間は一人一人が選べるようになっています。スタッフには、自分が選んだ勤務時間で帰ってもらうことを徹底してもらっています。おかげで、小さなお子様を保育園に預けているお母さんや介護が必要な親を抱えていらっしゃる方にも、みんなに働きやすいと言ってもらっています。

―中村さんがイメージする働きやすい職場というのはどのような職場とお考えですか。―

働きやすさには幾つかテーマがあると思います。そのひとつは、ガラス張りの環境であること。いざ勤め始めてみると、休憩時間が取れなかったり、残業が思った以上にあったり、新人は先輩より早く来いと言われたり、暗黙の了解みたいな、いわゆる錯誤みたいなことをなくしたい。働く仕組み、時間、休憩などは仕組み化してしまうことが絶対必要で、それが安心してストレスなく働けることにつながると思っています。

うちの店では、みんなに有休は全部取得してもらっていますが、みんながストレスなく使えるよう、私が関与しないルールにしています。店舗内でみんなに「私、この日有休を取ります」と宣言してもらって、なるべく他の人とかぶらないように調整さえしてくれれば、申請書を後で出すだけということにしています。また、できるだけ連休を取らせてあげたいので、シフトを作るときには、個人の希望はもちろん、それとは別に、シフトに愛情を込めてできるだけ毎月3連休を入れられるようにしています。

―仕事と家庭の両立についてどんな考えをお持ちですか。―

私は、家庭とかプライベートを豊かにするために仕事をするというように、プライベート優先で仕事の仕組みを考えます。

私には、脳性麻痺の子どもがいて、毎日リハビリをしなければならないので、必ず夕方に私が家に帰らないといけない、なので、みんなにも夕方以降には働いてほしくない。自分が出来ないことは人にもやらせたくないし、自分はプライベートを大切にするためにこの仕事を作ったのだから、すべてプライベート優先で仕事の時間を決めています。皆さんには、そこら辺が女性らしいと言われますが、やはり男性の経営者はIPOを目指していたり、店舗数や年商などの数字やスケールを大事にされる方が多いですね。私はそういうのは全然興味がなく、働いている人の顔が生き生きするためにどうしたらいいのかだけをいつも考えています。売り上げが伸びても、人が疲弊したり、ノルマのために家に帰れない人が出るようなことはしたくないと思っています。

―ご家庭では、家事・育児について役割分担をされていますか。―

私たちは「得意なことは得意な方がする」というルールにしていて、夫は料理が得意だから朝食や夕食、また、子供のお弁当や離乳食も含め、買い物から調理、片付け物、お皿洗い、冷蔵庫の管理、食事にかかわるもの全部を夫が一人でやっています。夫が夕飯を作れないときは外で夕御飯を買ってきます。私はそれ以外の家事、つまり、掃除、洗濯、幼稚園の準備、必要な消耗品の買い出しとかをやる。私は片づけや掃除がすごく好きで、それぞれが好きなことをやっていますし、それでうまく回ります。育児については半々です。

いつも家で言っているのが、家事も子育てもミッションであると。仕事はミッションだから役割分担してちゃんとグループでやっていきますよね。家事も一緒で、それぞれ担当責任者がいて、それぞれが遂行するのだけれど、たまにいないときは、カバーするか、代替を用意する、そういう感じにしています。ミッション化すると男性はできると思います。責任者と担当ポジション、あと、目標設定です。

―「佰食屋」を始めて、あらためてやって良かったと感じるのはどんなことですか。―

やはり明るい時間に帰れるというのがいいですね。明るい時間に帰れると、子どもたちと一緒に晩御飯を食べられる、それは普通の会社では簡単なようで難しい。私たちは大体18時半に晩御飯を食べるのですが、絶対、毎日、家族が揃うようにしています。それは私の目指していた働き方でもあり、私のお店にかかわっている従業員全員が出来ているはずです。自分だけでなく、一緒にやってくれているチームのみんなが今きっと家で晩御飯を食べているやろうなと想像するだけで幸せな気持ちになります。今は30人ですが、その人数がもっと増えたら、きっと私はもっと幸せになるやろうなと思います。

―何かを見つけて活躍したいと思っている女性たちに向けてメッセージをお願いします。―

世の中の女性は、思ったことを口にするのが難しい方、あるいは抱え込んでしまう方がすごく多いと思うのです。例えば、家事がしんどいとか、子育てが大変と思っても、「手伝って」と言えなかったり、会社でも女性は責任感が強くて、期待されていたら一生懸命頑張ってしまい、最終的にパンクしてしまうということがあります。私は、いつもいろんなところで女性にメッセージを伝えるとき、「しんどいから助けてと言っていいんだよ」と言っています。その「しんどい」「助けて」というメッセージを外に発信することで、想像以上にみんな助けてくれるのです。だからしんどい時には、「ヘルプ」という言葉をぜひ一回言ってみよう。日本の女性は十分頑張っている。だから、これ以上頑張らなくていいといつも思っています。

―本日は大変いいお話をいただきまして、ありがとうございました。―

国産牛ステーキ丼
国産牛ステーキ丼


国産牛すき焼き定食
国産牛すき焼き定食


国産牛肉寿司定食
国産牛肉寿司定食


執筆者写真
なかむら・あけみ/
2007年、京都教育大学卒業後、京都市内のホテル・旅行・ブライダル専門学校に就職し、広報部に勤務。11年に結婚。12年7月に退職し、9月にminittsを設立。同年11月に京都市西院に国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」を開業した。現在3店舗を経営。2児の母でもある。
「1日100食、ランチ営業のみ」の営業方式で、従業員全員が残業なしで帰る働き方を実現。あえて売上を追求せずに短時間でも働き甲斐を持てる飲食店として、業界内外から注目を集めている。2018年11月30日日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞受賞。
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