「共同参画」2019年2月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(10)~グローバルな枠組みの基本原則に~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

国際社会にとって喫緊の課題である「気候変動」。近年、ジェンダー主流化の動きが急速に進んでいます。

1992年に開催されたリオ・サミット(環境と開発に関する国際連合会議)で、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択され、国際的な枠組みが設定されました。温室効果ガスの削減・吸収の促進を通じた「緩和策」(mitigation)と、気候変化の影響を軽減し、備える「適応策」(adaptation)を両輪とした対策が進められています「緩和策」には、省エネ、再生可能エネルギーの開発・普及、森林保全など植物による二酸化炭素の吸収などが含まれます。「適応策」には、防災インフラの整備、農作物の品種改良・新種開発、渇水・治水対策などがあります。

気候変動自体は、男性も女性も関係ない「現象」ですが、気候変動から受ける影響は、男性と女性で異なります。例えば、砂漠化が進むと近隣の水源が干上がり、より遠くに水を汲みに行きます。森林資源が減少すると、煮炊きに使う薪をより遠くまで採取しに行きます。水汲み・薪集めは女性の役割とされている地域が多いので、無償労働の時間と量が増加し、健康を損なったり、教育・経済活動・政治への参加の妨げになったりと、女性のエンパワーメントの阻害要因になりうるのです。また、「緩和策」として森林保全を進めると、食料や収入源を森林の資源(水、薪、キノコ類、果物、ハーブ、シアバターなど)に頼っている女性たちの生活を直撃します。

ところが、気候変動対策の中心であるインフラ、エネルギー、農業、自然資源管理といったセクターは、従来「男性」の専門家、実務家、政策策定者が多い領域です。ジェンダー専門家、女性団体、一部の国際機関がジェンダー視点の重要性を指摘しつつも、主流化からは程遠い状況が続きました。

しかし、2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、2020年以降の新たな法的枠組みとして採択された「パリ協定」の前文には、気候変動対策におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントの重要性が明記されました。

途上国の森林劣化を食い止めることで温室効果ガスの抑制を図り、同時に持続可能な森林経営を進める取組みを支援するREDD +は「ジェンダー視点に立ったガイダンスノート」を制作。現地住民の生活への悪影響を防ぐための措置(セーフガード)項目においても「女性」を重要なコンポーネントと位置付けています。

2017年には、気候変動対策への国際的な資金メカニズムである「緑の気候基金」(Green Climate Fund)は、ジェンダー分析に基づく「ジェンダー評価」(ジェンダー・アセスメント)と「ジェンダー行動計画」の提出を資金要請の必須要件としました。UN Women(国連女性機関)と共同でジェンダー主流化マニュアルを制作・普及しています。

この動きの背景には、「ジェンダー主流化」がエビデンス・ベースの政策立案・事業計画を実行するための手段であるという認識の高まりがあります。対象地域の「性別役割分担」と「(土地、現金、設備などの)生産資源へのアクセスとコントロールの度合いの違い」を可視化し、その背景にある「ジェンダー規範」を特定し、それを踏まえて事業を計画することが求められているのです。それらの要素がプロジェクトの成果を左右するからです。言い換えれば、ジェンダー分析の無いものは「エビデンスを欠いた事業計画」であると判断されるのです。

Mainstreaming Gender in Green Climate Fund Projects
Mainstreaming Gender in Green Climate Fund Projects
「緑の気候基金」プロジェクトにおけるジェンダー主流化マニュアル
(UN Women(国連女性機関)との共同開発)
出典:http://genderandenvironment.org/resource/mainstreaming-gender-in-gcf-projects/

ゴール5「ジェンダー平等と女性・ガールズのエンパワーメント」
GENDER AND CLIMATE CHANGE Gender and REDD+
出典:https://a.msip.securewg.jp/docview/viewer/
docN82B67831922F887c7d905d8945a7a27f664b8c82c54c21af2431f4af2b5daa7ca2757d3198d3


執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
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