「共同参画」2019年2月号

特集2

女性活躍の現場から
地場産業で活躍する女性人材を育成する「溶接女子」の取組について
新潟県立三条テクノスクール

新潟県では、平成29年3月に策定した第10次新潟県職業能力開発計画において、「産業の維持・成長に向けた生産性向上と所得向上につながる職業能力開発」を目指し、産業界のニーズを踏まえた能力開発、ものづくり産業を支える人材の育成、全員参加の社会の実現に取り組んでいます。

新潟県立三条テクノスクールは、皆さんもご存じのとおり金物のまち三条市、燕市、加茂市などを抱える県央地域に位置しており、近隣には、産業集積都市の長岡市もあります。この地域の職業能力開発の拠点施設として、地場産業であるものづくり分野を中心に、学卒者、求職者および在職者の皆さんを対象とした公共職業訓練等に取り組んでいます。

なお、訓練カリキュラムについては、地元の商工団体等のご意見をいただきながら策定するとともに、訓練生向け合同企業説明会を開催して地元企業との求人求職のマッチングに努めているところです。

また、新潟県では平成29年度から国の競争的資金を活用した「ものづくり人材育成プロジェクト」に取り組んでおり、ものづくり企業への人材の育成供給と、正社員の拡充による安定就労の促進を目指し、ものづくり業界の業態を解説する「就職活動ゼミナール」や先輩従業員と懇談しながらの「企業見学会」、溶接やプレスなど「ものづくり体験会」を定期的に開催し、ものづくり分野の潜在的な労働力を発掘しています。

こういった取組において、この地域では、ものづくり分野で働く女性が他の地域に比べ多く、工場等での就業に抵抗感が少ないと感じていました。また、地域のものづくり産業の特色として、包丁や洋食器などの小物、ハウスウェア、宅配ボックスなどの軽量な薄板板金の製品製造が盛んなことから、製造工程において従事者に重労働を求めない職場が多く、女性が就労しやすい環境にもあります。

つまり職業訓練を通じたものづくりスキルの習得支援により職域を拡大することで、さらなる女性の就業拡大が期待できると考えていました。

しかしながら、この地域で盛んな製造業において、溶接技能者の活躍の場が多くありますが、求人が増えている一方で、溶接科の受講者数は伸び悩んでいました。

そのような中、当校の溶接科では、平成28年に県内で初めて女性の溶接科指導員の着任から、女性を中心に訓練受講者数を拡大しています。

それまで、ほとんどいなかった女性の受講者が、平成28年度は6人、平成29年度は18人と増え、年間受講者数もそれに伴い、約20人から約40人へと倍増したことにより、ものづくり企業の旺盛な求人ニーズに少しずつ応えられるようになってきただけでなく、女性溶接技能者「溶接女子」を採用した企業からも、「職場の雰囲気が明るくなり活気が出た、根気強い仕事ぶりに感心した。」といった感想をいただくようになりました。

新潟県立三条テクノスクールチラシ


溶接科は、地場産業においてニーズの高いプレスや磨き加工についても学び、求人ニーズの高いマルチ技能者を目指す6か月の訓練コースで、年間4回開講します。受講者は、20~30代を中心に幅広い年齢層の方が男女を問わず学んでいます。

募集広報は、地域を管轄する複数のハローワークにおいて、新規の雇用保険受給者向け説明会に出席して訓練科をお知らせするとともに、職業訓練説明会で求職者一人ひとりに時間をかけて訓練受講に関する相談にお応えしています。併せて、訓練施設の見学会も毎週開催します。

この取組を女性指導員が行いはじめてから、女性求職者に対する訴求力が高まり、受講者拡大につながったものと思われます。

女性指導員は、「溶接技術には繊細な感覚が求められ、女性に向いていること、一度技術を身につければ忘れることはなく、出産などで職場を離れても再就職しやすい。」といった魅力を伝え、自らがモデルとなったキャッチフレーズ「実は溶接って女子向きなんです!」のチラシを作り求職者に呼びかけました。

また、ものづくり体験会に加え、地元産業界がお盆や年末に開催する地場産業イベントにも、地元企業による包丁研ぎ体験などに並んで、溶接機を持ち込んだ体験ブースを積極的に出店し、それまでの重厚感のある鋼製製品から、ステンレスや線材を使ったランプスタンドなど女性視点の繊細でかわいらしいオブジェを採用し、さらにDIY女子溶接講座、キラリ☆溶接女子といったこれまで使ってこなかったキャッチコピーを起用したことも、ものづくりの仕事に目を向けてもらうのにインパクトが大きかったと思います。

オブジェ1


オブジェ2


受講者は、訓練修了1か月前からハローワークで求職活動を行います。ものづくり分野も人手不足の状況にあることから、最近では、勤務時間や休日、残業の時間数などの雇用条件を選んで求職できるようになり、ワークライフバランスを大切にする方にも就職しやすくなっています。

受講者


先日、女性の訓練受講者と修了者が集まる「溶接女子会」を開催しました。参加してくれた11人は、調理器具、照明器具、建築金具などを製作する地元企業に勤めており、自社製品の紹介を交えながら自己紹介をして、訓練受講者からの仕事のやりがい、職場の雰囲気、子育てとの両立といった質問に対して、前職と比較しながら答えました。

「事務職が自分に向いてないと思っていて、いつかはこの地域で盛んな製造業に従事したかった。」、「営業職でひたすら数値を追いかけて働くより、一日一日の成果目標が明確な製造職は働きやすい。」、「就業時間が明確でワークライフバランスがとりやすい。サービス業と違い土日の休みで友達と遊びに行ける。」、2歳児の子育てをしている修了生は、「仕事との両立はめちゃくちゃ大変だけど、育児だけの時よりも今は生活が充実しており、スイッチを切り替えることで、どちらにも張り合いが出た。」など、それぞれが生き生きとした表情で話してくれました。

職場では、重量物の運搬を男性社員が手伝ってくれる。新たに女性用の更衣室を作ってもらったなど、会社から大切にしてもらっているという感想も挙がりました。

このような情報交換により、修了者同士で士気を高めるとともに、今訓練を受講している方を勇気づけてくれました。

女性指導員は、富山県出身。福祉を志し、京都の女子大に進みましたが、その後、福祉機器の製作に関心が移り、中退して職業能力開発総合大学校に入学。就職活動を経て本県のテクノスクール指導員に採用されました。現在、指導員勤務7年目です。この度、第1子を出産し育児休暇を取得中で、彼女の職場復帰を心待ちにしているところです。

今後も全員参加の社会の実現に向けて、地域機関との連携強化と多様なアウトプットを進めてまいります。

○新潟県立三条テクノスクールHP
http://www.techno.ac.jp/top/sec/S

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