「共同参画」2018年10月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(6)~世界に広がるジェンダー予算~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

1990年代後半から、開発におけるジェンダー主流化を進めるためのイニシアティブとして、「ジェンダー予算」が世界各地に広がりました。UNDPにも、途上国の政府やNGOから「ジェンダー予算」への支援要請が数多く寄せられるようになりました。その背景には、1990年にUNDPが「人間開発」という概念を打ち出し、開発のパラダイムが「経済中心」から「人間中心」に移行したこと、その流れで、民主的ガバナンスが重視され、「予算編成」プロセスの透明化と市民の参画を推進する動きが加速したこと、さらに、グローバル化が「政府の介入を最小限に抑え、自由競争を推進することで、市場が富を生み出し、トリクルダウン効果(おこぼれ効果)によって、全ての人が恩恵を受けることができる」というかけ声のもとに急速に進展しながら、実際には、国と国の間のみならず、国内でも少数の勝者と多数の敗者を生み出し、格差を広げることになったことがあります。削減された社会保障や公共サービスを無償労働で肩代わりするなど、女性への影響は深刻でした。グローバル化が及ぼす「負の影響」を最小限に抑え、それが生み出しうる「新たな機会」をいかに活用するか、マクロ経済政策や公共予算にどのようにジェンダー平等の視点を主流化していくかが重要な開発課題となり、「ジェンダー予算」の政策手段としての可能性が注目されるようになったのです。

「ジェンダー予算」は、「女性のための予算」ではなく、国の総予算や省庁の予算、自治体の予算など、公的財源から成る予算を、ジェンダー平等の観点から分析する手法を指します。日本でのジェンダー予算研究の第一人者、故村松安子東京女子大学名誉教授は、次のように定義づけていました。「(ジェンダー予算とは)現実の予算が果たしてジェンダー平等政策を推進するように配分されているか、あるいは、配分が既存の男女間の不平等を縮小する効果を持つのか逆に拡大する効果を持つのか、さらに、ジェンダー平等社会形成への社会(特に女性が不利な状況に置かれているとすれば)の必要を満たす予算配分となっているかなどを査定・評価する手法である1」。

「予算」や「マクロ経済政策」は、ジェンダーに中立的であると考えられていましたが、男女に異なる影響を及ぼします。立案・策定過程に関わっているのは主に男性であること、性別役割分業が家庭・地域・社会全体に深く根ざしているところでは、あらゆる生産資源や経済的な利益が男女間で不平等に分配される構造になっていること、さらに、多くの場合、女性が担っているケア労働は無報酬であるがゆえに、国の経済計算やGDPに換算されず、その価値や貢献が経済政策の策定や分析で考慮されないことなどを鑑みると、実はジェンダー・バイアスに満ちていることがわかります。「予算」、つまり、国や自治体の一会計年度の収入と支出の計画についても、何に優先的に予算を配分するか、予算をどのような事業に充てるかは、男性の視点に立って決められていることが多いのです。「国や組織のトップの『ジェンダー平等は大事』という発言が単なるリップサービスかどうかは、予算を見ればわかる」とよく言われたものです。次回は、ジェンダー予算の具体的な取組み事例を紹介します。


 村松安子『「ジェンダーと開発」論の形成と展開−経済学のジェンダー化への試み』未来社、2005年、p133

「ミレニアム開発目標達成のための戦略:ジェンダーの視点をとり入れたマクロ経済と予算のあり方」シンポジウムの様子1(2006年7月)
「ミレニアム開発目標達成のための戦略:ジェンダーの視点をとり入れたマクロ経済と予算のあり方」シンポジウムの様子1(2006年7月)
http://www.undp.or.jp/undpandjapan/widfund/symposium.shtml


同シンポジウムの様子2(2006年7月)
同シンポジウムの様子2(2006年7月)
http://www.undp.or.jp/undpandjapan/widfund/symposium.shtml


執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
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