「共同参画」2018年9月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(4)~UNDPの経験④~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

1995年に開催された第四回世界女性会議で、「北京宣言・行動綱領」が採択されました。日本政府は、フォローアップの一環として、「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」を策定し、「UNDP・日本WID基金」(通称・WID基金)を設置しました。当初は、「教育」「健康」「経済社会活動への参加」の領域に関連した、草の根のプロジェクトを実施していました。2000年の「ミレニアム開発目標 (MDGs)」の採択を契機に、「ジェンダー主流化に向けた革新的な取組みに先行投資をするための資金」という位置付けとなり、「貿易、マクロ経済政策、HIV/エイズや情報通信技術(ICT)などの新たな開発課題にジェンダー視点を主流化する取組みを行う」「重要な開発課題にジェンダーを主流化するための革新的な手法を開発する」「女性のニーズに対応するための政策転換と社会変革を促す」「草の根の女性ネットワークの経験と問題解決方法が(国などの)政策決定過程に反映されるような枠組みを作る」といった目的を掲げる基金になりました。世界に先駆けた、斬新なビジョンでした。2つの事例を紹介します。

1. 貿易の自由化とジェンダー:2001年12月にWTO(世界貿易機関)に加盟した中国でのプロジェクト。貿易の自由化が農業や製造業に従事する女性たちの雇用形態、労働環境、生活にどのような影響を及ぼすかを調査・分析し、負の影響を最小限にとどめ、メリットを最大化するような政策を策定するための基礎情報や、将来に渡り、追跡調査を行うためのベースライン・データとする。UNDPやILO(国際労働機関)の技術支援を受けながら、中国国内の研究者やエコノミストが調査分析を行うことで、ジェンダー分析の手法・スキルを身につけた人材の育成にもなった。

当時、WTO加盟の国内労働者への影響をジェンダー視点から調査した報告書は皆無だったので、国際的な注目を集めました。また、筆者が2014年にAPEC女性と経済フォーラムの官民対話セッションに登壇した際、中国のエコノミストが報告していた、農村部のシングルマザーのための融資事業が非常にうまくデザインされている事業だったので、詳細を聞いてみると、このプロジェクトの調査分析・政策提言を踏まえて策定したとのことで、今も国内政策にインパクトを及ぼしていることを知りました。

2. ジェンダー予算:ジェンダー予算とは、公共の財源がどのように分配され、男性と女性にどのような異なるインパクトを及ぼしているのかを分析するための政策ツール(手段)を指す。公共政策・予算・事業における男女間の公平性の確保、限られた財源の有効活用、予算編成過程への女性の参画を促すための取組みとして、1990年代に急速に広まった。WID基金では、当時、世界中に散逸していたマニュアルや報告書など、既存の資料のデータベースを構築。また、途上国で圧倒的に不足していた、研修や技術支援を行える人材を育成した。

筆者は毎年、「途上国の行政官のためのジェンダー主流化研修」(JICA/アジア女性研究・交流フォーラム)の講師を務めているのですが、多くの国々が、女性省が他省庁や地方自治体に働きかけながら、女性NGOや研究機関と共にジェンダー予算を実施していると報告しています。

WID基金のライブラリー
WID基金のライブラリーには、多くの資料やツールや事例が紹介されている
http://www.undp.or.jp/undpandjapan/widfund/library.shtml


特定非営利活動法人きらりんきっず
2007年に東京で開催したケア・エコノミーに関するシンポジウムの報告書も
http://www.undp.or.jp/undpandjapan/widfund/pdf/2007_Care%20Econ%20Symp%20Tokyo_Report__EJ_1215.pdf


2003年にモスクワで開催されたジェンダー予算の人材育成研修
2003年にモスクワで開催されたジェンダー予算の人材育成研修
http://www.undp.or.jp/undpandjapan/widfund/activity01.shtml#05


執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
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