「共同参画」2018年6月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(2)~UNDPの経験①~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

1995年に開催された第4回世界女性会議で「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」が国際社会共通の新たなゴールになりました。1997年、国連経済社会理事会(ECOSOC)は、ジェンダー平等達成の手段として、「ジェンダー主流化」を次のように定義づけました。

「ジェンダー視点の主流化とは、法律、政策、事業など、あらゆる分野のすべてのレベルにおける取組みが及ぼしうる女性と男性への異なる影響を精査するプロセスである。それは、政治、経済、社会の領域のすべての政策と事業の策定、実施、モニタリング、評価を含むすべてのプロセスに、女性と男性の関心事と経験を統合し、女性と男性が平等に恩恵を受け、不平等が永続しないようにするための戦略である。究極的な目的は、ジェンダー平等の達成である」1

実務的な観点から要約すると、全ての政策的課題において、
①男女別のデータを用いて、男女間の格差を明らかにすること
②格差を縮める、もしくは解消するための戦略を策定すること
③戦略を実行するための資源(資金、人材、情報/知見等)を投入すること
④戦略の実施状況をモニタリング(監視)し、成果を出すことに対する責任の所在(個人・部署・組織等)を明らかにしておくこと

という4つのステップに言い換えることができます。このステップは、私自身が制作に関わり、2003年に発表されたUNDP(国連開発計画)の報告書2に記載されているものです。

「ジェンダー主流化」が定義づけられると、UNDPはすぐに「実行に落とし込むこと」を求められました。当時、160以上もの国と地域がUNDPの活動拠点だったことからもわかる通り、世界の国々の大半が途上国です。ジェンダー平等を世界規模で達成するには、途上国の開発支援においてジェンダー主流化を進めることが必要でした。また、UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、環境、紛争予防・復興といった、一見「男も女も関係無い」ように見える領域でこそ、ジェンダー主流化が必要とされたのです。

私が開発政策局のジェンダー担当部署に着任したのは1998年でした。約10人のチームで、主な役割は、途上国が国連女性差別撤廃条約や北京行動綱領を履行できるようにサポートすること。「ジェンダー主流化」という新たなアプローチを組織に定着させるために、アジア太平洋、アフリカ、中南米などの地域を周り、参加型ワークショップを開催していました。将来的に皆が使えるような、ジェンダー分析やアドボカシーなどの手法を習得するための研修教材の開発と、各事務所でジェンダー主流化を行うにあたっての困難や支援ニーズの聞き取りが目的です。各国のUNDP事務所から集められた参加者の多くは、ジェンダー担当官や、ジェンダー関連の連絡係の職員でした。地域を問わず、上がってきた声は、「トップの理解が無い」「優先順位が低い」「女性やジュニアな立場の人が担当するものと思われている」「やり方がわからない」などでした。

1 国連経済社会理事会 E.1997.L.10.Para.4(筆者訳)
2 UNDP. (2003) Transforming the Mainstream: Gender in UNDP

第4回世界女性会議の様子(UNWOMENホームページより)
第4回世界女性会議の様子(UNWOMENホームページより)
http://www.un.org/womenwatch/daw/beijing/photo.htm

UNDPのジェンダー主流化に関する報告書(ダウンロード可能)
UNDPのジェンダー主流化に関する報告書(ダウンロード可能)
http://iknowpolitics.org/sites/default/files/transforming20the20 mainstream20-20part201.pdf

地域別ワークショップでの聞き取りを通じて開発された研修教材
地域別ワークショップでの聞き取りを通じて開発された研修教材
Leaning & Information Pack GENDER ANALYSIS

http://www.undp.org/content/dam/undp/library/gender/Institutional%20Development/TLGEN1.6%20UNDP%20GenderAnalysis%20toolkit.pdf

執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
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