「共同参画」2018年6月号

スペシャル・インタビュー/第44回

新しい技術や価値の創造という目標の前では、本来、国境や男女差、年齢や身分差などはなくて、みんな平等です。だから、自分がここまでしかできないと、自分で殻を作ってしまうのではなく、一歩踏み出す勇気を持って、どんどんチャレンジしてもらいたい。

末延 則子
ポーラ化成工業株式会社 取締役執行役員 研究・企画担当
フロンティアリサーチセンター所長
医学博士

今回は、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018大賞に選ばれた末延則子さんにお話を伺いました。

―2017年1月に発売した薬用化粧品「リンクルショットメディカルセラム」が爆発的なヒットとなりましたが、開発を目指したのはどのような理由からですか。―

2002年当時、会社の中で大きな改革を行おうとしていました。ポーラグループは訪問販売が中心の会社で、それまではお客様宅に訪問して商品を御紹介するということが主だったのですが、「新創業宣言」として、これからは、例えば、駅近くにお店を作ってお客様に来ていただく、エステのサービスをする、そういうビジネスモデルに少しずつ変えていこうという動きが社内で起こっていました。

会社全体が何か新しいことをしなければという気運に満ちていたため、研究所としても、技術で新しいチャレンジをしたいと思っていました。

今まで自分たちはアンチエイジングについて研究をしてきましたが、結局、当時の薬事法上、しわに効きますとか、老化に効きますということを高らかに謳えるような製品を出すことができませんでした。そういうしわに本当に効果があることを謳えるような製品作りを是非やってみたいという話がメンバーの中から出てきまして、実際に世の中でしわに悩んでいらっしゃるお客様がどれぐらいいるか調べました。その結果、30歳以上の女性のお客様の約70%以上がしわに悩んでいるということがわかり、しわを改善する製品ができたら世の中の女性の悩んでいる70%以上の方を笑顔にできると、そこから研究を始めたのがきっかけでした。

―研究開発から製品化されるまでの間の様々な失敗や障害、ご苦労があったのではないですか。―

世の中に無いものを開発するということは、その製品を開発したらどんなことが起こるのか、自分も周りの人たちも想像ができないわけです。

最初はそういう有効成分もない、どうやって申請すればいいのかもわからない状況でしたが、有効成分が見つかり、ヒトでの有効性がわかり、安全性がわかるというふうに、1つずつクリアしていくと、少しずつ周りの人たちが理解を示してくれるようになり、どんどん仲間が増えていく感じがしました。

開発当初は、もちろんしわの医薬部外品なんて世の中にないし、それができるのかというような疑いの目もあったのですが、そのような中、メンバーも増え、応援者、一緒にやっていく仲間が増えていったことが印象的で、良かったなと思っています。

―しわを改善する、目立たなくさせるような製品を手がけようとしたときに、本当にそれを実現できるのか不安はありませんでしたか。―

不安はありました。ただ、本当に遅い歩みかもしれませんが、研究成果が少しずつ進んでいくことを実感できると、次の一歩をやればゴールまでちょっと近くなると思えます。また、少しずつでもいいから進むと、諦めることができなくなっていきました。うまくいかないことが続いても、みんながお互いに、自分の専門外でも困っている人がいたら助けようとしてくれましたので、メンバーに恵まれたなと思います。

―末延さんが理系の学校に進学され、卒業後、研究職を目指したきっかけを教えていただけますか。―

私が高校時代の頃にバイオテクノロジーが流行し始めていました。遺伝子技術を使って、今まで社会で困っていたことをどんどん解決してくれるバイオテクノロジーを面白いなと思い、その中でも特に人の健康に携わる仕事に興味があって、薬学部を選びました。

就職活動のときは、日用品のような生活に近い製品作りができればといいなと思っていました。そのときは漠然とした夢だったのですが、自分が年をとったときに、自分の作った製品がお店に並んでいる姿を見るとか、もし、そこに自分の孫がいたら、これ、おばあちゃんが作ったんだよと言えるような、そういう生活の身近にある物づくりに携われるような仕事がしたいと思って化粧品会社を選びました。

―仕事を進めていく中で大切にしてきたこと、また、研究開発チームをまとめていく上で心がけてきたことなどについてお聞かせください。―

ノーベル賞を受賞された小柴先生が、“考えて考えて恋人のことを考えるように研究のことを考えていると、その先にふと解決策が浮かんできます”と仰っていたのを大変いい言葉だなと思って覚えています。あえて考えようとしなくてもおのずと考えている、恋人のことを考えるように、という意味合いだったと思うのですが、それくらいずっと考え抜いた先に解決策が見つかるのだということを常に自分の中でも心がけるようにしていますし、メンバーに対しても、考え抜いた上で新しい結論を出して下さいと話をしています。

解決策が見つかった時に、“あ、これか”とわかるときの瞬間の楽しさや、喜びというものを若い研究員には是非味わってもらいたいので、よくその話はするようにしています。研究メンバーが同じ目標に向かって立ち向かえるよう、目標を明確にすること、そしてそれを実現できた時の明るい未来を思い描かせることを大切にしています。

そのために必要な研究ディスカッションでは、男女も上下関係もないと思っていますので、ひとつの目標を目指してお互いを尊重しつつディスカッションして、新たな価値づくりを行っていくことを大切にしています。

―ご自身やチーム、部下の方々のワーク・ライフ・バランスについて心がけていることはありますか。―

会社はフレックスタイム制を敷いていて、基本的な勤務時間の時間帯も決まっています。ただ、忙しい時には特定個人に負担がかかってしまいかねないのですが、今回のプロジェクトチームでは、1人だけに仕事の負担が偏るということがなく、お互いが助け合う力がすごく強かったと思っています。

研究所の従業員の男女比は大体1:1くらいで、私も含め、子育て経験者も非常に多いのです。子供が熱を出して早く帰らなければいけない時などは、みんな当たり前のように時間調整していますし、周りも理解があるので、違和感は全くありません。また、共働きされている方も多く、お父さんの方が子供の病気の看病のために休むことも当たり前になっているので、そういうお互いの家庭の生活についても尊重し合って仕事ができていると思っています。

―研究職としての仕事のやりがいはどんなところですか。また、ご自身の今後の目標、やってみたいことについて伺えますか。―

そうですね。やはり、世の中に製品が出るときですね。今回のリンクルショットの製品ひとつを開発するにも15年間の中でいろいろなドラマがあったわけですけれど、一つ一つの壁を乗り越えることができたことが楽しかったですし、やりがいを感じています。

女性に限らず男性も朝起きて肌を触ったときに肌の調子がいいと、朝から心が、気持ちがよいと思うのです。そうすると、心が優しくなれるから、家族にも優しくなれるし、周りの友達にも優しくなれると思います。

そして、自分がそうだと周りにもよい影響を与えられるし、その影響を受けたその人も気持ちがよくなって他の人にもよい影響を与えるというふうに、1人の人の肌の調子がよいということが、世の中の人を平和にしていき、世界平和に繋がるのではないかと思っているのです。自分たちの製品を世界中で使っていただけたら、全世界に平和が広がっていくのではないか、だから、平和を実現するような製品をこれからも作り続けたいと思っています。

―将来、研究開発等の理工系分野を目指す若い女性たちに向けてメッセージをお願いします。―

新しい技術や価値の創造という目標の前では、本来、国境や男女差、年齢や身分差などはなくて、みんな平等です。

だから、自分がここまでしかできないと、自分で殻を作ってしまうのではなくて、一歩踏み出す勇気を持って、どんどんチャレンジをしてもらいたいと思います。

―ありがとうございました。―

末延則子
末延 則子
ポーラ化成工業株式会社 取締役執行役員 研究・企画担当
フロンティアリサーチセンター所長
医学博士
すえのぶ・のりこ/
大阪大学大学院を卒業後、91年に化粧品メーカーであるポーラ化成工業へ研究職として入社。02年に皮膚薬剤研究所でチームリーダーとして、抗シワの医薬部外品の研究開発をスタート。09年に皮膚薬剤研究部部長、13年には研究企画部部長。15年には同社初の女性役員に就任。日本初承認のシワを改善する医薬部外品化粧品「リンクルショットメディカルセラム」を15年の歳月をかけて開発し、発売1年で売上累計94万個、売上総額130億円を達成し、2017年最大のヒット化粧品となった。2017年12月日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018」大賞受賞。

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