「共同参画」2018年5月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年〜国際社会の歩み〜⑴
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

「おおお、ついに!」今年2月、グテーレス国連事務総長がSNSに投稿した国連会議の写真を見て、思わず声をあげました。「初めて、50-50(男女同数)の幹部会議が実現しました」という言葉が添えられています。

意思決定ポジションのジェンダー・バランス(=男女半々)の実現は、今から20年前、当時のコフィ・アナン事務総長が総会の要請を受けて取り組んでいた目標です。私が勤めていたUNDPでも、女性の登用を進めていました。ところが、一見、女性だらけの職場にもかかわらず、女性が集中しているのは、秘書職とエントリー・レベルの専門職です。管理職予備軍になるあたりで多くの女性職員が辞めていることがわかりました。とりあえず数値目標を達成するには?という議論もありましたが、最終的に落ち着いたのは、「時間はかかるけど、リテンションに注力するしかない」という結論でした。つまり、女性職員が辞めずに働き続けられるような環境の整備です。あれから20年。確かに時間はかかりましたが、幹部レベルでも男女半々が達成できたのか、と胸が熱くなりました。

最近、感動したことをもう一つ。喫緊の地球規模課題の一つに、気候変動対策があります。2016年に発効したパリ協定は、地球、そして人間社会の未来を左右する、重要な枠組みであり、国連、政府、NGO、民間企業を動員した、大きなうねりになっています。その動きを後押しする資金メカニズムが、「緑の気候基金」(Green Climate Fund)です。認証機関がプロジェクトを形成し、多様なパートナーと共に実施します。日本では昨年、JICA(国際協力機構)と三菱UFJ銀行が認証機関として承認されました。気候変動対策、特に、「緩和策」に関与しているのは、インフラや森林業や農業など、実務者も専門家も意思決定者も「圧倒的に男性が多い」セクターです。ところが、緑の気候基金がなんと、「ジェンダー主流化」を全ての案件の必須要件とし、資金要請をする際には、「(対象地域や対象領域の)ジェンダー分析を行い、その結果に基づいてジェンダー評価とジェンダー行動計画を策定し、提出しなければならない」と義務付けたのです。まさに、パラダイム・シフトです。

思い返せば、「ジェンダー主流化」が、「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」を達成するための手段として、国連の経済社会理事会(ECOSOC)で正式に定義づけられたのは、私がUNDPに入局した1997年でした。女性が直面している問題を「女性の問題」として捉え続ける限り、男女間の「不平等」という根源的な問題は解決できない。「ジェンダー」という概念と「女性の人権」を土台とした国際目標が1995年に北京で開催された第四回世界女性会議で採択された直後でした。

UNDPでもジェンダー主流化を進めようという機運が高まっていました。しかし、ジェンダー主流化の道は、茨の道でした。だからこそ、今、ジェンダー主流化が様々なレベルで、様々な領域で「実行」され、その動きがさらに加速していることに感慨深さを覚えます。この連載では、持続可能な開発目標(SDGs)という国際社会の新たな枠組みや、紛争・平和構築、経済、気候変動といった領域でのジェンダー主流化の最新動向や具体的な取組みを紹介します。

ジェンダー主流化:
あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するため、全ての政策、施策及び事業について、ジェンダーの視点を取り込むこと
出典:内閣府男女共同参画局ホームページ
http://www.gender.go.jp/about_danjo/glossary/glossary.html

国連会議の様子1:グテーレス国連事務総長のSNS投稿より

国連会議の様子2:グテーレス国連事務総長のSNS投稿より
国連会議の様子:グテーレス国連事務総長のSNS投稿より
https://twitter.com/antonioguterres/status/967104299879813120

執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
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