「共同参画」2018年1月号

連載

女性活躍の視点からみた企業のあり方(9) 女性活躍推進と働き方改革
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

平成29年3月に政府は「働き方改革実行計画」を決定しました。「女性活躍」を含む「一億総活躍」の視点から、多様な人材が活躍できる社会づくりに取組む中で、「最大のチャレンジ」を「働き方改革」とし、働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革のみならず、企業文化や風土を含めて変える必要性を説いています。しかし、こうした抜本的な「働き方改革」の必要性が指摘されたのは、今回が初めてではありません。

平成9年に人口問題審議会は「少子化に関する基本的考え方について」という提言で、少子化の要因への対応の中核は「固定的な男女の役割分業や仕事優先の固定的な雇用慣行の是正」であると指摘しています。そのためには、制度だけでなく、「意識や企業風土そのもの」を問い直すことや、「仕事の仕方も工夫する」取組みが必要であり、「とりわけ、定年制や終身雇用、年功序列型賃金などの固定的な雇用慣行を改め、女性や高齢者などあらゆる個人がその意欲に応じて就労できるよう性別や年齢による垣根を取り払う新たな雇用環境を創出していくことは、人口減少社会への対応の基本」とまで書かれていたのです。日本が少子化対策を本格的にスタートさせた初期の段階から、女性や子育て世代への支援にとどまらず、組織全体の働き方を変えることの重要性は指摘されていました。ただ、残念ながら、具体的に進んだ取組みは、保育や育児休業制度等の両立支援施策に留まることとなりました。

さらにこの10年後、平成19年12月には、政労使の合意に基づき「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「行動指針」が策定されました。従来の仕事と子育て等との両立支援のみならず、男性も含めた「基本的な働き方の見直し」の重要性が指摘されました。しかし、この時も、「ワーク・ライフ・バランスは女性や子育て社員のためのもの」、というイメージを払しょくするには至りませんでした。

これまでの経緯を振り返ると、「働き方改革」は今に始まった話ではなく、「三度目の正直」とも、日本社会にとって「長年の悲願」ともいえるテーマなのです。それだけ難しいテーマだとも言えますが、今度こそ、20年前の提言で指摘された「雇用慣行の是正」を含む「抜本改革」に踏み込むことが期待されます。一方で、長時間労働の弊害に関心が集まる中で、単なる「残業削減策」を目的とした個々の社員の意識啓発レベルの改革にとどまりそうな気配もみえてきています。

全社員が健康で生き生きと働くこと、女性等の多様な人材が活躍できる組織になること。そのための「働き方改革」であることを見失わないことが重要です。そのためには、全社員を対象として、長時間労働の是正だけでなく、柔軟な働き方を導入する必要があります。そして、それは個々の意識レベルの改革だけでなく、組織で協力して「仕事の進め方」を変えること、多様な働き方や効率を意識したマネジメントや経営戦略がとられることで実現可能となるのです。時間でなく成果を評価する、年功管理から脱却し多様な働き方を前提としたキャリア形成を可能とする、といった人事制度の見直しも欠かせません。日本社会が20年前から抱えてきた宿題に、今こそ正面から取り組む時なのではないでしょうか。

参考:人口問題審議会「少子化に関する基本的考え方について」
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s1027-1.html

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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