「共同参画」2017年6月号

連載 その1

女性活躍の視点からみた企業のあり方(2) 女性管理職の登用
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

女性活躍推進法に基づく行動計画では、多くの企業で、女性管理職の割合や人数の数値目標が掲げられています。しかし、企業が女性管理職の登用を進めようとしても、女性社員の「管理職になりたくない」「ならなくてよい」という意識がネックとなって進まない、と認識している企業経営者・人事担当者は少なくありません。

ここで、まず考える必要があるのは、なぜ今女性管理職の登用拡大を進めるのか、ということです。この答えとして、「国が求めているから」で済ませるのではなく、なぜ今国が法律を策定してまで企業に「女性活躍」を求めているのか、まで考えると、今回の法律の対象となっている大企業においては、近年、結婚や妊娠・出産時の就業継続が進んでいることが背景として挙げられます。就業継続支援の効果が出てきて、従来の日本企業におけるキャリアパスでいえば、10年前後の就業経験を積んだ管理職手前の層が増えてきた、ということが問題なのです。管理職手前の層が増えてきて、従来の男性社員と同様に数年で管理職に昇格する、企業からみれば「登用」する人材が増えることを期待していたら、そうはならない。なぜなのか?そこで企業がぶつかるのが、冒頭に紹介した女性社員の意識の問題なのです。

この問題への対策として、管理職候補層の女性社員の意識啓発をしてやる気にさせようとか、とにかく登用してやらせてみればよい、という考えがあります。課題が「意識」の問題だから対策も「意識啓発」で済む、とは限りません。なぜ女性社員が「なりたくない」「ならなくてよい」と考えるに至ったのか、その理由を把握した上で対策をとることが必要でしょう。理由の多くは、ここに至るまでの「育成」過程にあります。男性と比べて限られた分野・範囲でしか「配置」や「異動」がなされてこなかった、「研修」の機会も限られていたり、「評価」にもバイアスがかかっていた、などです。そのため、実際に、管理職になるために必要な経験や能力開発が不足していたり、実は、経験や能力的には要件を満たしているにも関わらず、会社や上司から期待や評価を得られてこなかったことや、女性管理職のロールモデルが少なかったことにより自信を持てずにいる、ということが原因なのです。

従って、対策としては、採用直後から男女の区別なく「育成」がなされるような環境整備という「長期的視点の取り組み」と、すでに、育成過程で課題を持ちながら管理職候補になっている女性社員をターゲットに、短期集中的に育成を行ったり、自身が持てるようエンパワメントを行って「登用」につなげるという「短期的視点の取り組み」の2方向からのアプローチが必要です。後者の取り組みは、いわゆるポジティブ・アクションであり、前者の取り組みが浸透すれば不要となることが望ましい過渡的な取り組みです。今回の行動計画で、こうしたポジティブ・アクションのみに注力している企業も見受けられますが、それでは長期的にみて問題解決にならないばかりか、場合によっては、男女共に活躍できる環境整備にマイナスの影響を残す可能性もあることに留意が必要です。

女性活躍推進の構造図

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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