「共同参画」2016年9月号

「共同参画」2016年9月号

連載

女性の経済的エンパワメント・各国の取組(5) 調達とセットで加速
立命館大学法学部 教授 大西 祥世

女性がビジネスを起こして軌道に乗せたり、経営したりするのには男性以上に苦労もありますが、わくわくした楽しさがあります。地域市民のビジネス需要を優先し、その働く意欲や地域産品などの資源を活用して事業を行う女性の起業家は、地域の社会や経済の成長を支える重要な担い手です。世界各地の企業や政府では、契約や調達を用いて、ビジネスの拡充と女性活躍推進をセットにして両方とも加速させる取組が活発になっています。

米国は、2000年に、連邦政府の契約の5%にあたる金額を女性が経営する小規模事業者と優先的に契約する公共調達の制度を設けました。しかし、実効性が上がらなかったので、2011年に取組を強化して「女性優先調達プログラム」を策定しました。条件を満たした零細企業はオンラインで登録すれば、簡単な手続で契約先の候補になれます。各省庁が積極的に取り組み、地域の商工会議所や女性団体がきめ細かく支援したところ、2014年度は政府調達の金額の4.68%にあたる1億7900万ドルに拡大しました。引き続き5%の目標達成をめざして取り組まれています(注1)

(注1) David N. Beede, Robert N. Rubinovitz, Utilization of Women-Owned Businesses in Federal Prime Contracting, 2015.

企業による調達は、サプライチェーン・マネジメントと呼ばれています。米国に本社がある世界最大の飲料メーカーは、2011年に、2020年までに世界中で500万人の女性の起業家との取引を通じて、彼女たちのビジネスを発展させるプログラムを立ち上げました。事業規模は零細ですが志は高い起業家の女性に同社の小規模な流通センターの運営を任せるなど、実践的です。その結果、南アフリカでは参加者の売上高は平均44%上昇し、個人の収入は1年間に平均23%アップして(注2)、女性の活躍推進と地域社会の発展に大きく貢献した投資であると誇らしく報告されています。

(注2) Ipsos South Africa Study FAQs, 5by20 Milestone Announcement, 2016.

トルコ最大のアパレルメーカー(注3)は、女性の起業家を対象に行った研修プログラムを通じて、良質なサプライヤーを育成して長期的に確保できましたし、女性の起業家こそがこれまでとは次元がちがう新しい製品やイノベーションを生み出す可能性があるビジネスパートナーの宝庫であることに気がつきました。いわば調達先を新たに開拓する投資であり、利益の向上につながっています。

(注3) http://supply-chain.unglobalcompact.org/site/article/181

他方、サプライチェーン・マネジメントを応用して、政府契約の獲得に有利な条件を獲得しようという意欲的な企業もあります。米国最大の小売業者は、2011年度から2016年度までに米国内で200億ドルを用いて、低所得層の20万人の女性にスキルを提供し、小売業のサプライヤーに育成する計画を実行しています(注4)。公共調達を自社の市場を拡充するビジネスチャンスととらえたスケールの大きな投資です。各地域で女性の経営者が活躍することで、地域社会のジェンダー平等を推進する効果もあり、サプライチェーン・マネジメントと公共調達がうまく組み合わさった例といえるでしょう。

(注4) Wal-Mart Stores, Inc., 2016 Global Responsibility Report, 2016.

世界の企業は、女性経営者のリーダーシップの育成が、よりよい市場を作り出して新しいビジネスや革新的な開発にプラスの影響をもたらす「バリューチェーン」であることに気がついて投資や調達に取り組んでいます。政府も関与を深めています。こうした経営判断がさらに大きなうねりとなって、地域、国、世界レベルで女性の経済的なエンパワメントが一層進むことが期待されます。

執筆者写真
おおにし・さちよ/立命館大学法学部教授。博士(法学)。専門:憲法、ジェンダーと法・政策、議会法。国連「女性のエンパワメント原則」リーダーシップグループメンバーとして活動。主著:『女性と憲法の構造』(信山社、2006年)、「国連・企業・政府の協働による国際人権保障」国際人権27号(2016年刊行予定)、「『政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない』の保障」立命館法学355号(2015年)等。