「共同参画」2016年8月号
連載 その1
女性の経済的エンパワメント・各国の取組(4) パパの子育て促進
立命館大学法学部 教授 大西 祥世
夏休みになり、あちこちから子どもたちの元気な声が聞こえてきます。子どもとゆっくり過ごす時間を楽しみにしている方もいらっしゃると思います。
男性が仕事をしながら育児にかかわることは女性の活躍推進につながるので、パパの子育てを促す法制度の整備が世界中で進んでいます。父親も母親も取得できる育児休業を法制化している国は、日本をはじめ169か国中66か国(39%)です。その一方で、父親が子どもの世話をするために2週間以上の休みを取ると、その後も子育てに積極的にかかわるという効果がわかり(注1)、父親のみが取得できる育児休業制度を法制化する国が増えました(167か国中79か国(47%))。
(注1) ILO, “Maternity and Paternity at Work”, 2014.
男性が子育てに積極的にかかわることは、家庭内だけではなく、妻の働き方にもプラスの効果がありますが、実際には生活設計への不安があり、なかなか進みません。この不安を減らすため、90%の国では休業中は有給です。休業期間は、最長はアイスランドの3か月で、最短はチュニジアの1日と、各国でさまざまです。
ウィーンフィル新年コンサートの中継でおなじみのオーストリアの放送局は、2013年から「パパ・キャンペーン」を実施しました。子どもが生まれる男性社員はもれなく育児休業を取得するので、同じ企業で働いている妻の負担は減り、昇進を目指すことができます。妻が別の企業で働いている夫婦でも、育児を一人で背負うのではなく、夫と分担しあうことで、仕事をがんばることができます。
企業が男性の育児を促進することは、職場と地域の良い関係づくりにも大きく貢献します(注2)。休業中に買い物や育児サービス利用のために地域に出かけたジャーナリストのパパたちは、ニュースの素材は議会や外交の場だけではなく、身近な地域の草の根にもあることに気がつき、職場復帰後に取材の幅が広がりました。こうした取組は、社内の女性活躍推進にも好影響を及ぼし、外部からの評価も上がっています。
(注2) OECD, Policy Brief, “Parental leave: Where are the father?”, 2016.
パパが育児にかかわることは、休暇だけではなく、短時間勤務やフレキシブルな働き方を制度化することでも実現できます。欧州では、子どもを保育園に迎えに行くパパは珍しくなくなりました。17時以降に会議を設定しない職場のルールは、夫が子どもを保育園に送り迎えし、妻が仕事を継続する夫婦を大きく増やしました。
さらに、パパの子連れ出勤という方法もあります。育児のために会社を休むのでも、迎えにいく時間を気にして早めに退社するのでもなく、子どもを職場に連れてくる方法です。事業内保育所を整備する企業もありますが、千葉県のある中小企業では、清潔で安全な職場環境を整えて、パパたちは子どもを見守りながら仕事をして、子どもたちはパパを見ながら一日を過ごします。ほかの社員も協力的です。ただ、日本にはこうした素晴らしい企業がありますと紹介しても、欧州の友人にとってはよくある話のようです。
夫が子育てで頑張り、その分妻が仕事でエンパワーできる方法は、このようにさまざまあります。仕事で活躍するには、プライベートな面での自己決定・自己実現の権利も重要です。家族の形態が多様化した今日では、これまで以上に多様な権利保障が重要となります。ワーキング・パパへの支援が、ワーキング・ママが活躍する社会を実現するでしょう。
- おおにし・さちよ/立命館大学法学部教授。博士(法学)。専門:憲法、ジェンダーと法・政策、議会法。国連「女性のエンパワメント原則」リーダーシップグループメンバーとして活動。主著:『女性と憲法の構造』(信山社、2006年)、「国連・企業・政府の協働による国際人権保障」国際人権27号(2016年刊行予定)、「『政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない』の保障」立命館法学355号(2015年)等。