「共同参画」2016年7月号

「共同参画」2016年7月号

行政施策トピックス3

『いまこそ』みんなで考える復興と男女共同参画
復興庁男女共同参画班

復興庁男女共同参画班では、復興に男女共同参画の視点が必要であることを理解していただくための活動を行っています。今回は、岩手県で行われたワークショップ「『いまこそ』みんなで考える復興と男女共同参画」の様子をご紹介します。

【はじめに】

「『いまこそ』みんなで考える復興と男女共同参画」は、岩手県で毎年開催されている「いわて男女共同参画フェスティバル2016」の分科会の一つとして実施されました。

分科会では、大規模地震を想定し、次々と避難所を訪れる被災者を受け入れる「避難所運営ゲーム」を活用し、「復興と男女共同参画」について改めて考えることを目的としてワークショップを実施しました。

【避難所運営ゲームとは】

避難所運営ゲームとは、平成19年度に静岡県が開発した防災ゲームで、HUG(Hinanzyo Unei Game、HUGは英語で「抱きしめる」の意味もある)と呼ばれています。ゲームでは、避難所の限られたスペースに、訪れる避難者をいかに適切に配置していくかを考える内容となっており、あらかじめ用意された避難所の図面に、避難者に見立てたカードを配置していくものです。

避難者は、健常者だけでなく、障害者、高齢者、妊産婦や乳幼児連れの家族、負傷者、日本語があまり堪能でない外国人など、様々な設定がなされており、避難所を訪れた人の状態によって、配慮の有無を判断していくことになります。

今回は、避難所を訪れる人がすべて障害者、高齢者、妊産婦などの「災害時要配慮者」であることを前提として実施しました。加えて、避難者の対応をしている合間に、災害対策本部等から物資の供給や必要な設備の配備情報が入ったり、いったん配置した避難者が様々な要望や不安を訴えたりと、実際の避難所で想定される事項を再現するなど、随所に工夫がなされています。

また、今回のワークショップに際しては、HUGの開発者でもあり、静岡県地震防災アドバイザー・「HUGのわ」主宰の倉野康彦さん、国立保健医療科学院主任研究官で「災害時母子救護ネットワーク構築のための人材育成プロジェクト」ディレクターの吉田穂波さん、岩手県男女共同参画センターにご指導をいただきながら、男女共同参画の視点で考えることができるような設定を加えました。


カードに従って対応を相談

【HUGの体験】

ワークショップには、岩手県内の12市町から23名の方にご参加頂きました。

最初に今回の分科会の趣旨を説明し、自己紹介(アイスブレイキング)を行いました。アイスブレイキングでは、自分の名前のほか、日頃から心がけている災害対策について紹介し、参加者同士が和やかな雰囲気の中でHUGを行えるようにしました。

その後、HUGを行うに当たっての前提条件や進め方を説明し、4グループに分かれて実際にHUGを実施しました。グループ分けは、参加者のお住まいの地域を考慮し、同じ地域の参加者が1つのグループに集まってしまうことのないように配慮しました。

【カードへの対応】

HUGが始まった当初は、矢継ぎ早に読み上げられていくカードに、どの教室に案内したらよいかの判断がなかなかできないグループもありました。また、避難者情報の合間に入ってくる物資や備品の配布・設置についての情報を避難者にどう伝えるかなど、避難者の配置以外にも考えることが多くあり、混乱している様子もありました。

しかしながら、時間が経つにつれ、参加者間での役割分担の必要性、避難者への情報伝達の方法や男女共同参画の視点からの配慮の必要性などについてグループ内で自然に気づき、参加者同士で相談し合いながら、どのような対応がよいのかを考え、それを行動に移していく姿が各グループで見受けられました。


役割分担で速やかに対応

【振り返り】

HUG終了後、グループごとで振り返りを行いました。振り返りでは、

  • (1)やってみて気付いたこと
  • (2)やってみて難しかったこと
  • (3)この経験を今後にどう生かすか

の3つに分けて参加者に考えてもらい、グループ内で発表していただきました。

参加者からは、気づいたこととして、

  • 臨場感たっぷりで良い経験になった
  • 避難所を運営する側の難しさが分かった
  • 妊婦さん、乳幼児など、女性ならではの対応が必要であることが分かった

などの意見がありました。

また、難しかったこととして、

  • 想定外の人がどんどんやってくるので、時間どおりに進まなかった
  • 妊婦や乳幼児だけでなく、認知症、LGBTの方などに対し、短時間で特別な配慮を講じなければならない点が難しかった
  • 必要な物資の量の把握が難しかった

などの意見がありました。

最後に、この経験を今後にどう生かすか、という点については、

  • 専門的な知識をもったリーダーシップ教育が必要と感じた
  • 外国語対応マニュアルを作ってみる

などの意見がありました。

グループごとでの発表の後は、参加者同士が自由に各グループでの結果を見て回ることで、一層学びを深めることができました。


振り返りの様子

【締めくくり】

最後に、平時から支援を頼み頼まれやすい声のかけ方を知っておくこと、心にダメージが来た時のサインを見つけられるようにすることなどが必要であり、こういったことを心がけることでいろいろなことに「気づく」ことができることなどをお話ししました。

また、今回のために加えたカードの一部について、その趣旨を説明し、男女共同参画の視点から配慮が必要な避難者がいたことを、改めてお伝えしました。

これらを通じて、身近にある課題を考える際に、HUGで実際に行ったように「男女共同参画の視点」をもって対処することで、すべての人にとって過ごしやすい環境の構築につながっていくことをお話ししました。

【おわりに】

今回のワークショップは、(1)HUGというツールを用いることで、男女共同参画の視点からどのような配慮が必要なのかを考え、(2)それを復興や日常生活の中のあらゆる場面に当てはめることで、「より良い復興」の実現につながることを理解すること、を目指して実施しました。参加者からは、住んでいる地域や震災による被害の大小に関わらず、それぞれの立場に立って復興を考えるよい機会となったとの声も聞かれました。

今回のこのワークショップに参加された皆さんが、HUGの経験を通じて感じたことを、お住まいの地域で実践していただくことで、「より良い復興」の実現につながるものと期待しています。

復興庁男女共同参画班では、これまでの取組に工夫を加えながら、男女共同参画の視点を復興に活かすことの必要性を理解していただくことで復興に貢献できるよう、活動を続けて参ります。