「共同参画」2015年 9月号

「共同参画」2015年 9月号

連載

NATOでの勤務 (5)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

6月25日、在ベルギー日本大使公邸で、自衛隊記念日レセプションが開催され、NATOからも多くの同僚や関係者が参加しました。この機会に、自衛隊の活動等のパネル展示とともに和食や日本酒等が紹介され、参加者は日本に対する親近感や信頼感を高めたものと思います。筆者も、NATO本部内で、今後じっくりと日本の魅力を発信していきたいと考えています。

さて、同じ6月、NATO本部ではジェンダーに関する複数の会合が開催され、各国から専門家が集まりました。まずは、「1325リロード(再装てん)」という名前の公開会合。その趣旨は「2000年の国連安保理決議1325号『女性・平和・安全保障』以降、早15年が経過するものの、この理念の履行はいまだ不十分である。今こそ「再装てん」(見直し・再考)してみよう」というもの。

これは、スペイン(レイ・ホアン・カルロス大学)と豪州(人権コミッション及び豪州軍)による共同研究の総括会合で、NATO関係者や市民社会からの専門家等、約120名が参加しました。

この研究は、過去15年間のデータに基づき、NATO28か国の軍におけるジェンダーの状況を可視化しようとするものです。1325号決議が各国の軍の政策、募集、作戦等に及ぼした影響を分析し、豪州軍の先進的な取り組みを参考にしつつ、今後NATOがとるべき方向性について提言するという興味深い内容でした。会合では、軍における女性の割合や、ジェンダー統合(少数派である女性を軍内にいかに組み入れ戦力化を図るか)に関する事項等の多くのデータが発表されました。

では、このように、NATOが「女性、平和、安全保障」や「軍とジェンダー」という課題に熱心に取組んでいるのはなぜでしょうか。

筆者は、2つの理由があると考えています。(1)安全保障上のニーズ、(2)ジェンダー平等の観点からのニーズです。

NATOにとって「女性・平和・安全保障」とは、NATOの集団防衛に影響する安全保障上の課題へのアプローチであり、喫緊に取り組むべきものと認識されています。加盟国の集団安全保障機構であるNATOに「女性、平和、安全保障」担当特別代表が配置されていることも、その表れと言えるでしょう。

また、NATOは人権意識の強い欧米の加盟国から構成されており、関係者はジェンダー平等や機会の平等に対して大変敏感であることを、筆者は日々肌で感じています。伝統的に極端な男性社会の軍という組織では、性差別や性的暴力といったジェンダーに起因する諸問題は避けて通れず各国共通の課題となっているのですが、これらの諸問題の改善という観点からも、NATOは各加盟国の軍に対して提言を行う等積極的な働きかけを行っています。

そして、これらNATOの取組みを動機付けているのは、「女性・平和・安全保障」関連の安保理決議であり、軍や安全保障分野にもっと女性を増やすこと、そして少数派の女性を軍で当たり前に勤務できるようにすること、さらに男女のジェンダー視点を軍の活動に反映していくこと、それらが世界を変え、より恒久的で安定した安全保障環境の構築に有効である、という理念でもあるのです。

(本寄稿は個人の見解によるものです)


(大使公邸にて、大使、公使、防衛駐在官、特別代表、同僚と)



(「1325リロード」会合でスピーチする特別代表)



(「1325リロード」会合で発言する前豪州陸軍本部長)


執筆者写真
くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。