「共同参画」2015年 6月号
連載 その1
NATOでの勤務 (2)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿
筆者は、「女性・平和・安全保障担当NATO事務総長特別代表」のアドバイザーとして勤務しています。この役割は、「女性・平和・安全保障」の分野でNATOを代表する特別代表を支えることで、具体的には、特別代表の関連会議や要人との会談等の準備や必要な調整を行う日々です。
今年は、国連安保理決議1325号から15周年にあたり、各地で関連会合が開催され、特別代表はNATO加盟国及びパートナー国等での多くの会合に招へいされています。特別代表は、前職は在マケドニアのオランダ大使で、さすがは外交に長けた人物で、NATOの取組などを効果的に発信するとともに、参加者の疑問などにも鮮やかに対応しています。そして、会合から戻った特別代表は、各国に関する多くの情報と人脈とを持ち帰ります。その情報や人脈が、次の活動につながる例も多くあります。
また関連会合への参加だけでなく、NATOが活動中の現場にも進出しています。4月にアフガニスタンを訪問した特別代表は、アフガン女性の権利や男女平等推進に積極的なガニ大統領夫人、NATO部隊司令官、そして現地の市民社会代表者等と会談しました。
国連安保理決議1325号では、平和構築における女性の参画推進が求められており、この1つとして治安部門(警察や軍隊)における女性の役割の拡大や女性数の増加が課題とされています。アフガニスタンでは、治安の維持や持続的な発展のため、NATOや各国による治安部門改革支援が行われています。日本からも、警察官の給与支援や研修支援を行い大きな貢献をしているところです。アフガニスタン政府は、女性軍人を今後10年で10%に増やすという行動計画を設定しています。しかし、現実は、アフガニスタンではまだまだ女性が働くことは難しい社会であり、ましてや男性中心の警察や軍において女性を増やすことには多くの困難が伴うようです。例えば、女性警察官や女性軍人は職場の男性から疎まれ深刻なハラスメントを受けたり、任官(入隊)に親族から反対され絶縁状態になったりする例があるそうです。
NATOはアフガニスタンで「確固たる支援任務」として、軍に対する教育訓練の支援等を行っています。この司令部や各部隊には、「ジェンダー・アドバイザー」が配置され、NATOとしての活動全てにジェンダー視点を反映するという政策が現場レベルで進められています。NATOでは、アフガニスタンにおける特性を踏まえつつ、警察や軍において女性が働きやすい環境を整えることにも組織的に取り組んでおり、今後もこの分野のニーズはますます高まっていくと言われています。
特別代表の存在は、NATOの内外に大きなインパクトを与えるものであり、今後もあちこちから招へいされ、ひっぱりだこの状態が続きそうです。
NATOバナーの前で
豪州外相と特別代表の会談に同席
- くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。