「共同参画」2015年 2月号

「共同参画」2015年 2月号

特集1

女性が輝く社会に向けた我が国の国際的貢献
外務省総合外交政策局 女性参画推進室

女性をエンパワーし、女性の保つ力を最大限に発揮できるようにすることは、社会全体に活力をもたらし、成長を支えていく上で不可欠です。こうした考えのもと、安倍晋三内閣総理大臣は2014年9月の国連総会一般討論演説において、21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にしていく、と表明しました。日本は今、国内外で「女性が輝く社会」を構築するべく、国際社会の先頭に立って積極的に取り組みを進めています。今月号ではそのいくつかをご紹介します。

国際協力における女性支援

安倍総理大臣は、2013年9月の国連総会一般討論演説において、「女性が輝く社会」の構築に向け、国際社会との協力や途上国支援を強化していくことを表明しました。具体的には、(1)女性の社会進出と能力強化、(2)国際保健外交戦略の推進の一環として女性の保健医療分野の取組強化、(3)平和と安全保障分野における女性の参画と保護の3つを柱とし、2013年から3年間で30億ドルを超すODAを実施する考えを示しました。日本は約束を守る国です。すでに2013年の1年間で約18億ドルの支援を実施しました。また、本年2月には、政府はODA大綱を約12年ぶりに改定し、開発協力大綱を決定しました。その中でも「女性の参画の促進」を実施上の原則の1つとして掲げた他、女性の権利を含む基本的人権の促進、女性の能力強化や平和構築における女性の保護と参画のための支援等を謳っています。

国連総会一般討論演説での安倍内閣総理大臣
(出典:首相官邸ホームページ)
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201409/25usa.html


国連における女性外交と北京+20

本年は1995年に第4回世界女性会議が北京で開催されてからちょうど20年(通称「北京+20」)にあたる節目の年です。日本は国連の要望に応え、第4回世界女性会議で採択された北京宣言及び行動綱領に掲げられた目的及び目標について、進捗状況のレビューを行い、昨年12月に報告書を国連に提出しました。本年は、世界中の国がこの20年の進捗状況について検討し、これからどうすべきかを考える年になるでしょう。日本もその議論に積極的に参加していきたいと思います。

また本年は、「北京+20」であると同時に、日本が「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」を批准してから30年目の年でもあります。昨年9月には、同条約にもとづく第7回・第8回の政府報告を国連に提出いたしました。また、日本は1987年から継続して女子差別撤廃委員会に委員を輩出していますが、昨年6月の選挙で現職の林陽子委員が再選されました。この節目の年を迎え、本条約の締約国として女性に対するあらゆる差別を取り除き、男女共同参画社会の実現に向けて努力する決意を新たにしています。

上述のとおり、日本は女性の分野で積極的に国連に参加・協力してきましたが、特に「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(略称:UN Women)」については、拠出金をこの1年で5倍に増額しました。加えて、本年はUN Womenの東京事務所(文京区役所内)も開設される予定です。今後は東京事務所を基点に、女性を巡る世界的な課題が発信され、また同機関との連携が一層深まることが期待されます。

UN Women東京事務所開設に向けて、ムランボ=ヌクカUN Women事務局長と文京区成澤区長(WAW!ボードメッセージの前で)
UN Women東京事務所開設に向けて、ムランボ=ヌクカUN Women事務局長と文京区成澤区長(WAW!ボードメッセージの前で)


最後に、昨年3月に開催された第58回国連婦人の地位委員会では、東日本大震災の教訓を踏まえ、「自然災害におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメント」決議を再提出し、全会一致で採択されました。本決議では、災害に強い社会づくりと、それに向けた平時からの女性の参画の重要性が指摘されています。本年3月には仙台で第3回国連防災世界会議が開かれます。そこでも、我が国の経験に基づく女性と自然災害に関する考えを世界と共有したいと思います。

紛争下の性的暴力に関する取組

「紛争下の性的暴力」に関する取り組みは、武力紛争下で武器としてレイプまたは他の形態の性的暴力が使われることを指摘し、加害者不処罰の文化を終焉させ、現在の、そして将来の暴力を防止することを目的としています。紛争の武器としての性的暴力は、関連する国際法の下では戦争犯罪とされており、日本にとっても決して看過できない問題です。しかし、世界各地の紛争地域において性的暴力の犠牲者は後を絶たず、加害者は多くの場合何ら責任を問われていません。そうした現状を踏まえ、安倍総理大臣は、2014年9月の第69回国連総会一般討論演説で、21世紀こそ女性に対する人権侵害のない世界にしていくため、日本は国際社会の先頭に立ってリードしていく、と力強く宣言しました。

実際に、2014年6月にロンドンで開催された「紛争下における性的暴力の終焉に向けたグローバル・サミット(Preventing Sexual Violence Initiative (PSVI)サミット)」には、岸外務副大臣(当時)が参加し、紛争下の性的暴力防止と撲滅に向けたメッセージを国際社会に発信しています。

また、日本は、紛争当事国の司法制度の強化や司法関係者の研修・意識啓発にも力を入れています。法制度の整備のみならず、法的な枠組みを執行する人、利用するすべての人々の意識変革がなければ仕組みは十分機能しないからです。例えば、2014年は、コンゴ民主共和国やソマリアにおける性的暴力の責任者訴追に向けた司法制度強化等のため「紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所」に資金を拠出し、第1位のドナー国となりました。また、性的暴力の被害者対策も急務です。この観点から、日本政府は「国際刑事裁判所(ICC)被害者信託基金」に対して、約60万ユーロの拠出を行っています。

国内においても、2014年6月に紛争下の性的暴力の問題に取り組む専門家の育成のための取組や協働枠組みを考えるためのプラットフォームを立ち上げました。 続く11月には、赤十字国際委員会(ICRC)と共催して公開シンポジウムを開催し、国際機関、政府、有識者、市民社会から関係者が集い、現代の紛争下の性的暴力の現状とその課題について議論を行い、理解を深めました。

日本はこれからも、戦争・紛争の武器としての性的暴力を防止し、被害者を支援することが重要であるとの観点から、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所との連携や国際的な議論の場への参加を重視し、女性に対する人権侵害のない世界を構築するため、一層取り組みを強化していく予定です。

外務省・ICRC共催公開シンポジウム、武力紛争下における性的暴力:その現状と課題
外務省・ICRC共催公開シンポジウム、武力紛争下における性的暴力:その現状と課題
写真提供:H. Makabe/ICRC


安保理決議第1325号等による女性・平和・安全保障に関する行動計画

安保理決議第1325号及び関連決議は、女性と平和・安全保障を関連付けた初の安保理決議です。女性が紛争に影響を受けていることを認識するとともに、紛争予防や紛争解決、紛争後の平和構築に至るまで全ての段階における女性の積極的な参画や女性の人権保護の増進を要請しています。また、平和活動のあらゆる側面においてジェンダーの視点を主流化することが求められています。我が国の行動計画は、これらの規範をより忠実に反映すべく、国内外双方の取組に対応・連動させつつ、紛争関連や災害など広範囲な課題に対応するものとなっています。

2013年9月の国連総会一般討論演説では、安倍総理が「志を同じくする諸国と同様、我が国も、女性・平和・安全保障に関する行動計画を、草の根で働く人々との協力によりつつ、策定する」旨を発表しました。日本の行動計画の特徴は、策定プロセスにおいて、同行動計画の構成、含めるべき要素、モニタリング・評価作業の進め方について、関係府省庁だけではなく、市民社会と共に実質的に作業を行ってきた点です。このプロセスにおいて、市民社会と関係府省庁の代表から成る少人数グループ会合を12回開催しました。また、地方都市においても、沖縄を含む5カ所で市民社会との意見交換会を実施した後、行動計画案をパブリックコメントに付しました。今後、行動計画の実施を確実なものにするために、モニタリング・評価、見直しにおいても、引き続き、市民社会の積極的な参加が期待されています。

行動計画策定済みの国名一覧(計45か国)


女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW!Tokyo 2014)の開催

上述のような日本の取組を国内外に発信するため、2014年9月12日及び13日、安倍総理大臣のイニシアティブで「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(World Assembly for Women)」が開催されました。WAW!(ワウ)と呼ばれるこの国際会議には、6国際機関、24か国から約100名の女性の分野で活躍するトップ・リーダーが参加し、日本及び世界における女性のエンパワーメント、女性の活躍促進のための取組について議論を行いました。会議終了後には、「WAW!To Do」と呼ばれる12の提言が取りまとめられ、後に国連文書(A/69/396)としても発出されました。WAW!は女性を取り巻く国内外の課題について包括的に議論する場として、本年も開催する予定です。本年もたくさんの方のシャイン・ウィークス(*1)への参加をお待ちしております。参加したい方や昨年の様子を知りたい方は、以下シャイン・ウィークスフェースブックページをご覧ください。

(www.facebook.com/shineweeks)

*1:WAW!2015の前後の期間をシャイン・ウィークス(Shine Weeks)と位置づけ、関係府省庁、地方自治体、市民団体、学校・学生団体など様々な有志に女性関連イベントを開催して頂くことにより、女性の活躍促進のムーブメントを推進します。

女性が輝く社会に向けた国際シンポジウムロゴ


最後に

世界を見渡しますと、女性に生まれたというだけで、 自立する機会を奪われ、医療ケアや教育など基本的な サービスを受けられない、という悲しい状況が未だに見られます。20世紀には、ひとたび紛争が起きると、女性の名誉と尊厳が深く傷つけられた歴史がありました。日本は、21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にしていくため、国際社会や市民社会とともに取組みを強化していきたいと思います。


女性の活躍に関する最近の取り組み及び今後の予定

2013年
国連総会 安倍総理の一般討論演説(9月)
2014年
外務省総合外交政策局に「女性参画推進室」設置(4月)
紛争下の性暴力の撲滅を目指すグローバル・サミット(於:ロンドン)(6月)
シャイン・ウィークス(9月8日-19日)
女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW! Tokyo 2014)(9月12日-13日)
国連総会及び関連会議への参加(9月22日-26日)
「すべての女性が輝く社会づくり本部」設置(10月)
「北京+20」アジア太平洋地域レビュー(於:バンコク)(11月17日-20日)
外務省・ICRC共催公開シンポジウム「武力紛争下における性的暴力:その現状と課題」(11月25日)
2015年
第59回国連婦人の地位委員会(CSW)(3月9日-20日)
第3回国連防災世界会議(於:仙台)(3月14日-18日)
女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(WAW! Tokyo 2015)
UN Women 東京事務所開設(予定)

平成26年12月1日から約2年間、栗田千寿2等陸佐が、「女性・平和・安全保障分野担当のNATO事務総長特別代表」のアドバイザーとしてNATO本部に派遣されることになりました。

栗田2等陸佐は、『女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議』を踏まえ、NATOの様々な政策や事業にジェンダーの視点を盛り込み、女性の参画を促すための助言を行う予定です。

今回は、栗田千寿さんからの寄稿をご紹介します。

1 派遣の背景と経緯

2014年5月、安倍総理大臣とラスムセンNATO事務総長(当時)の首脳合意に基づき、防衛省から北大西洋条約機構(NATO)本部(ブリュッセル)への派遣が決まり、2014年12月から筆者が日本人初のNATO本部要員として勤務することになりました。安倍総理は、これまで「女性が輝く社会の実現」を国内外で強調しており、この中には途上国の女性支援という面と、社会での日本女性の活躍拡大という面が含まれています。また、わが国のこれまでの国際平和協力は、国連平和維持活動(PKO)での施設部隊の派遣と国連への財政支援が主でしたが、国際社会の現場においてはPKOへの女性要員の増加等、治安部門における女性へのニーズが高まっており、今回の派遣はこのニーズを反映したものでもあります。筆者には東ティモールでのPKO(UNMIT1)に軍事連絡要員としての参加経験があったこともあり、この派遣要員に指名されました。今回の任務を誇りに思っています。

1 UNMIT : United Nations Mission in Timor Leste 国連東ティモール統合ミッション

そのような背景も踏まえ、本派遣は、PKO活動から更に日NATO協力の進展と、ジェンダーに係る国際的課題への日本女性の参加、という二つのニーズから実現したものとなります。

2 NATOの事務総長特別代表の部署へ

女性、平和、安全保障に関する国連安保理決議1325号には、(1)紛争下における男女のニーズの違いを認識すること、(2)戦争犯罪である性暴力から女性や女児を保護すること、(3)PKOを含む平和構築、紛争予防、復興のすべての活動にジェンダー視点を取り入れ女性の参画を徹底することなどが盛り込まれ、国連加盟各国に履行を求めており、わが国も現在、履行のための行動計画を策定中です。NATOは、女性、平和、安全保障担当の事務総長特別代表を恒久的なポストとし、NATOの行動計画を策定し、これに基づき1325号の履行に積極的に取り組んでいます。そして筆者は、その1325号の履行を推進する事務総長特別代表であるスクールマン代表の補佐官として勤務しています。スクールマン代表はオランダの外交官で、前職はマケドニア大使の文民(軍人以外の民間人のこと)です。筆者が勤務する国際事務局(IS)という部署には、オランダ出身、ブルガリア出身の同僚がいます。文民の部署での勤務ですが、今後はPKO派遣を経験した自衛官としてのインプットが期待されています。今後しばらく、本誌でブリュッセルからNATOの活動や印象について報告していきたいと思います。

栗田千寿2等陸佐(NATO本部にて)


栗田千寿2等陸佐(PKO参加当時、現地の子どもと(2011年8月))