「共同参画」2014年 5月号

「共同参画」2014年 5月号

連載 その1

男女共同参画 全国の現場から(1) つくばにて
地域エコノミスト・(株)日本総合研究所主席研究員 藻谷 浩介

今月号より1年間、当欄を担当させていただくこととなった。男性執筆者が2年続くのはいかがなものかと思うのだが、全国津々浦々の地域活性化の取り組みの現場を巡り、年間1200件の登壇・出演・面談・会食・寄稿を行っている立場なので、各地からの臨場感を持った報告をお届けできるよう頑張りたい。

さて、3月下旬の日曜日。桜の木にはまだ蕾も出ていないが、陽射しや風の匂いには春の気配が強く感じられる快晴の茨城県つくば市で、まち歩き+講演+パネル+交流会という1日がかりのイベントに出てきた。主催者も、7〜80人ほどの参加者も、地域振興の現場に身を置く草の根の人たちだ。

筆者は、時間的に対応可能であって、特に怪しい要素がなさそうであれば、呼ばれればどこにでも行く。だが選べるものであれば、お勉強専門の団体よりは実践者の集まりを好む。後者には共通した特徴がある。第一に、補助金頼みではないので予算がない。第二に、自営業、サラリーマン、公務員、学生、主婦、研究者など、いろんな立場の、いろんな年齢の人が混ざっている。そして第三に、参加者の男女比が1対1に近い。今回の行事はまさに、その3点を満たしていた。

こういう会では、前で話す人は概して話のまとまりがいいし、話す時間は短いし、無駄な自慢話は出ない。交流会では、小気味いいテンポで、いろいろな活動のアピールが続いた。そしてそのいずれも、当たり前だが男女が参画して営まれていた。男性が代表で女性が副代表のNPOも、女性が代表で男性が副代表のNPOもあった。夫婦での参加で、夫が主に話すケースも、妻だけが話して夫は静かに聴いているケースもあった。専業主婦と名乗りながら5つの資格を持って5つもの地域づくり活動を主導している女性もいたし、夫がサラリーマンで妻はホテルを経営しているという夫婦もいた。これが現場の現実であり、何かが前に進むときのあり方だ。

数日前に参加したある自治体の幹部会議を思い出す。議論の水準も、幹部人材の質も、筆者の知る自治体の中では群を抜いた高さだったが、全員が中高年男性だった。これが、住民サービスを主務とする自治体のあるべき姿だとは思えない。男女分け隔てなく均等にやってきた結果だとも思えない。あと何年もこんな状態が続いているはずはないし、続けてはいけない。

筆者の講演の最中に、ある夫婦の連れてきた幼児がぐずった。だが講演会でもPTAでも自治会でも、よしんば国会でも、暮らしがテーマの場であれば、親についてきた幼児がぐずったっていいのではないか。「聞き苦しい野次は聞こえないが、子供の声は聞こえる」というのが人間にとっての正常な生活環境なのではないだろうか。そういう考えが当たり前の日本社会になって初めて、著しい少子化だのブラック企業の横行だのが、ようやく終息していくのではないだろうか。

「来てくれてありがと!長い話でごめんね、もうすぐ終わるからね」と語りかけると、子供は筆者のヒゲ面を怖がってお父さんにしがみついてしまったが、会場には柔らかな空気が流れた。皆が、子連れで参加する人のいる会の良さ、ありがたさを感じた、心のぽっと暖まる瞬間だった。

藻谷浩介 地域エコノミスト・(株)日本総合研究所主席研究員
もたに・こうすけ/地域エコノミスト。日本政策投資銀行を経て現在、(株)日本総合研究所主席研究員。平成合併前3,200市町村をすべて訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興や人口成熟問題に関し精力的に執筆、講演を行う。政府関係の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」「しなやかな日本列島のつくりかた」等がある。