「共同参画」2014年 5月号
特集2
防災・復興における男女共同参画の推進
内閣府男女共同参画局総務課
復興庁男女共同参画班
東日本大震災から3年余が経ちました。東日本大震災は、防災・復興における男女共同参画の視点の重要性を改めて認識する契機となりました。防災・復興における男女共同参画の推進について、最近の動向をお伝えします。
1.防災における男女共同参画の推進
(都道府県防災会議)
都道府県防災会議の委員は、災害対策基本法第15条で定められており、女性委員の割合が低い理由として、委員の職指定(いわゆる「充て職」)があること、指定される職(組織の長)に女性が少ないことなどが挙げられていました。
平成24年6月に災害対策基本法が改正され、都道府県防災会議の委員として、「自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者」を新たに加えることが可能となりました。
都道府県防災会議の女性委員の割合は、平成24年10月には5.1%でしたが、平成25年4月には10.7%と増加しました。また、女性委員のいない都道府県防災会議の数は初めてゼロとなりました(図表1)。
内閣府が平成25年12月時点の委員の内訳を調べたところ、災害対策基本法第15条第5項第8号(自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者)の規定により多くの女性が任命されていました(図表2)。
一方で、この規定だけでなく、同条同項第5号(都道府県の知事がその部内の職員のうちから指名する者)や第7号(指定公共機関又は指定地方公共機関の役員又は職員)を活用し、女性委員を増加している地方公共団体もあります。
鳥取県は、女性割合が40.9%(66人中27人)と都道府県の中で最も高くなっています。8号委員として19人中16人を女性としているほか、7号委員として、指定公共機関・指定地方公共機関から職位にかかわらず女性を任命(20人中8人)し、女性委員の割合を高めています(例:通信系会社課長、運輸系会社課長、ガス協会主事、新聞社係長、テレビ放送副部長等)。
新潟県は、女性割合が26.1%(69人中18人)となっており、5号委員として県職員の女性を積極的に登用しています。16人中10人が女性で、県民生活・環境部長、県民生活・環境部男女平等社会推進課長、福祉保健部障害福祉課長、農林水産部長、出納局長のほか、3つの県立病院から看護部長を指名しています。
このほか、徳島県(女性割合27.6%)、島根県(同25.7%)も、第5号、第7号及び第8号の規定を活用し、女性割合を高めています。
佐賀県は、女性割合が29.9%(67人中20人)となっており、8号委員として15人中11人の女性を登用しています。大学教授のほか、地域婦人連絡協議会、社会福祉士会、介護福祉士会、老人福祉施設協議会、身体障害児者施設協議会、保育会、私立幼稚園連合会、難病支援ネットワーク等から女性を登用しています。
(市区町村防災会議)
内閣府は、平成25年11月から12月にかけて、全国の市区町村を対象に調査を実施し、1,327団体から回答を得ました(回収率76.2%)。これによると、市区町村防災会議の女性委員の割合は6.2%となっており、政令指定都市12.0%、政令指定都市以外の市区8.2%、町村3.6%となっています。また、1,327団体中429団体(32.3%)で女性委員がいないと回答しており、町村の防災会議では半数以上で女性委員がいないことが明らかとなりました(図表3)。
防災会議における女性委員の割合を高める工夫を行っている市区町村もありました。例えば、千葉県野田市では、公募委員(4名)を女性に限定したほか、関係団体の代表として女性を推薦するよう依頼し、女性割合を51.4%(37人中19人)としています。
岡山市は、学識経験者、市長が特に必要と認める者等について、極力女性を任命し、40.4%(52人中21人)としています。
兵庫県三木市では、女性委員枠(9人)を設定し、女性団体等からの推薦と一般公募を行い、30.0%(30人中9人)としています。
他には、各団体に女性を推薦するよう依頼して女性割合を44.0%としている岡山県真庭市や、審議会にクオータ制を導入して女性割合を33.3%としている福岡県福津市、女性を指名するようにして女性割合を28.6%としている奈良県平群町などの例があります。
2.復興における男女共同参画の推進
復興庁は、東日本大震災からの復興に当たり、女性が活躍している事例や被災地の女性を支援している事例等を取りまとめた参考事例集を作成し、平成26年2月に計48事例を公表しました。
また、参考事例集を活用しながら、被災地に出向き、それぞれの地域の状況を踏まえた具体的なアドバイス等を行う取組も行っています。
復興庁の参考事例集で取り上げている事例のいくつかを、以下に掲載します。事例の詳細や連絡先等については、復興庁ホームページを御参照ください。
3.男女共同参画センター・女性センター等の取組
男女共同参画センター・女性センター等では、男女共同参画の視点からの防災・復興に関して、積極的な取組が始まっています。
例えば、青森県男女共同参画センターが事務局となって組織した実行委員会では、平成25年度に、青森市とおいらせ町で、自主防災組織、社会福祉協議会、医療関係者等、多様な主体による運営委員会を組織し、避難所運営訓練を実施しました。
事前ワークショップでは目的の共有と多様性配慮の避難所のレイアウト作成と準備物の検討。訓練では避難所設営とともに、避難者カードを使って、名簿の重要性の確認。判断力を培うワークショップ等も実施しました。平成26年3月には、訓練会場レイアウトや避難者カードの見本も掲載した「男女共同参画の視点を取り入れた『安心できる避難所』づくり訓練ヒント集」を作成・公表しました。
また、仙台市男女共同参画推進センターの指定管理者である公益財団法人せんだい男女共同参画財団は、仙台市民と一緒に、多様性に配慮した避難所運営について学習し、地域で活用できるワークショップのテキストを作成しました。
ワークショップは、東日本大震災時に実際に避難所で起こった問題を題材にして、参加者でその解決策について話し合い、女性が避難所の運営に参画することで多様性に配慮した避難所運営ができることに気付く内容となっています。
平成26年3月に公表したテキスト「仙台版防災ワークショップ 『みんなのための避難所づくり』」は、ワークショップの様子や効果を分かりやすく説明するため、手順やヒントを掲載するとともに、進行シナリオやワークショップで使用するイラスト等も収録し、自分たちでワークショップを開催するときに活用できるものとなっています。
内閣府では、平成26年度新規事業として、「地域防災における男女共同参画の推進事業」を実施することとしています。本事業は、男女共同参画センター等が中心となり、地域の実情に合わせた男女共同参画の視点からの防災・復興のモデル的な取組を実施し、その効果や課題を明らかにするものです。事業の成果等については、内閣府ホームページで公表することを予定しています。
《関連URL》
○復興庁(参考事例集)
http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-16/20130626164021.html
○青森県男女共同参画センター
http://www.apio.pref.aomori.jp/gender2011/index2.html
○(公財)せんだい男女共同参画財団
http://www.sendai-l.jp/index.html
「安心できる避難所」づくり訓練ヒント集
みんなのための避難所作り
テキストに掲載されている話し合いで使うイラストの一例
Learning from Adversity ─Gender Equality & Disaster Risk Reduction─
内閣府は、平成25年5月に公表した「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」の内容を分かりやすく紹介する英文パンフレットを作成しました。
東日本大震災等の我が国の経験を国際社会と共有するため、積極的な情報発信を行っています。
http://www.gender.go.jp/english_contents/mge/drr/index.html
参考事例(1)
地域に根ざす起業を支援して被災地の復興を後押しする
やっぺす起業支援ファンド・石巻復興起業家ゼミ
宮城県石巻市では震災により、失業者が増加し、特に生産年齢にあたる市民の人口流出が問題化していました。こうした中、NPO法人石巻復興支援ネットワークは、女性や若者が石巻に安心して定住し、人々を雇用し復興まちづくりを推進していくような起業を目指す人々へ支援を計画しました。
平成24年度は、内閣府「復興支援型地域社会雇用創造事業」を受託し、石巻とその周辺地域で、社会的企業の起業を目指している女性と若者に限定した起業支援「やっぺす! 起業支援ファンド」を開始し、最大250万円の起業支援金を提供、さらに専門家や企業家によるサポート体制を整え、被災地の復興を促進する起業を支援しました。
平成25年度は、NPO法人edgeの協力を得て、当ネットワークの強みである地元の人とのつながりと、NPO法人edgeが得意とする若手の社会起業家支援の技術をかけあわせ、月に一度、参加者が集い学ぶ場として「石巻復興起業家ゼミ」を開催しました。参加者の起業意欲を維持するため、プレゼンテーションやメンタリングの機会を設け、参加者の積極性を促すなどの工夫を行いました。
参加者は総勢20名(女性11名、男性9名)で、参加者が構想していた事業の形をもとに、それぞれが起業を開始しました。起業内容は、仮設住宅で暮らす女性の仕事づくり、仮設住宅等での学習支援、被災沿岸部での食堂開業など多岐に渡り、地域の復興まちづくりを促進していくため、包括的で横断的なネットワークが広がっています。
参考事例(2)
伝統産業を活かして避難してきた女性たちの仕事をつくる
株式会社IIE
福島県会津若松市には原発事故の影響で沿岸部から多くの住民が避難しています。震災前の生業や生きがいを失い、「やることがないのがつらい」という声や、母子避難等の二重生活や今後の暮らしに対する経済的な不安を抱え、「何をしたらいいのか」「何ができるか」と悶々とする母親たちの声を聞き、地元出身の青年が仮設住宅の女性たちの仕事づくりに乗り出しました。
当初は縫製の内職斡旋を行いましたが、高度な専門技術を要するため思うようにはかどらなかったため、地元の伝統産業品「会津木綿」を活かした商品の企画販売に転換。女性たちと知恵を出し合って、ミシンを使わず簡単な作業工程で作れるストールを考案しました。
平成23年秋、任意団体として復興関連の助成金を獲得。仮設住宅の回覧板で10名ほどの作り手を募り、会津木綿ストールの製作・販売事業を開始しました。
平成24年度には福島県の緊急雇用助成金を活用して2名のスタッフを採用。平成25年度からは株式会社化し、事業収入型のビジネスモデルへの転換を図っています。
工賃は出来高制ですが内職としては高めの設定で、事務所で材料の裁断や仕上げ等の作業に携わる場合には、時給契約で別途労賃を支払うようにしました。時間の融通が利くため、作り手はやりがいを感じながら、生活の状況に応じて無理なく作業をこなすことができています。
洗練されたブランドイメージを作り、インターネットによる通信販売のほか、市内外のセレクトショップで取り扱われるなど、売れ行きは好調となっています。
参考事例(3)
妊娠初期から安全・安心な子育てを助産師が支援
特定非営利活動法人こそだてシップ
岩手県沿岸気仙管内には産婦人科が少なく助産所もないため、県立病院を退職した助産師2名を中心に発足した「出張助産師の会」が、妊娠期・産じょく期や乳児に関する相談を受けていました。
震災で相談室のあった施設が被災し、メンバーも被災するなどして相談機能を失いましたが、相談活動の再開の必要性を感じ、妊娠初期から安全かつ安心して子育てができるよう、平成23年9月に「ママ&ベビーサロン大船渡&陸前高田『こそだてシップ』」を開設しました。平成25年にはNPO法人格を取得しました。
平成23年10月から、大船渡市と陸前高田市の2会場で、月1回「ママサロン」を開催。妊娠中〜1歳児を対象に助産師による妊婦及び母子相談、ベビーマッサージ、体重測定、口腔ケア、離乳食等の赤ちゃんへの専門的なケアのほか、「どう逃げたかを語る被災ママの体験談」など母親交流の企画を実施しました。
平成25年4月からは、母親からの希望を受け、1歳〜就学前までを対象としたリズム遊び、人形劇や親子で三陸鉄道に乗る企画等のイベントを開催するようになりました。
また、(一社)ジェスペールの協力を得て、助産師2名による巡回訪問を実施し、支援物資の提供のほか、妊娠中の生活相談・母乳指導や育児相談・赤ちゃんの検診など専門的なケアを行っています。
ママサロンは大船渡で延べ1,272組、陸前高田で延べ790組の母子が参加しており、リピーターも多くなっています。巡回訪問では360件の相談がありました(平成26年3月現在)。
参考事例(4)
女性が独りでも安心して集える身近な居場所づくり
いわきふれあいサポート
いわきふれあいサポートは、平成14年の設立以来、いわき市と連携して様々な女性支援を行ってきました。高齢化や離婚等によって世間とのつながりが薄れ孤立して暮らす女性たちが増えてきています。そのような女性たちが、地域で気軽に集える居場所づくりの準備を進めていましたが、震災により計画は延期となりました。
いわき市には原発事故の影響によって県沿岸部から数多くの被災者が避難しており、震災で家族を亡くしたり、若い世代の県外避難等により高齢夫婦や単身で避難生活を送っている人も少なくありません。また、地元に帰還するかや賠償金の使い道等で家族の中で意見が食い違ったり、家庭の中で孤立感やストレスを深めていたり、DV等の暴力被害に遭ったり、という女性たちの話も聞くようになりました。
そのため、いわきふれあいサポートでは、参加対象に被災女性も含めて居場所づくり事業を開始することにし、平成23年10月から、仮設住宅近くの公民館を会場に、「おしゃべりカフェ『コスモス』」をスタートさせました。参加費は無料で、月1回2時間、皆で歌や簡単なストレッチなどその時々のプログラムに参加し、お茶とお菓子を囲んでおしゃべりを楽しみます。
心の問題や家族からの暴力等、サポートが必要と思われる参加者にはスタッフが話を聴き、適切な支援機関につなぐなど、安心して話せる場だからこそ出てくる問題に寄り添っています。主な参加者は60歳代以上で、日中独りになりがちな高齢女性たちに、地域との貴重なつながりの場として頼りにされています。