「共同参画」2014年 3・4月号

「共同参画」2014年 3・4月号

スペシャル・インタビュー/第37回

女性の採用は5割。男女共同参画って、いまさら言わなくても当たり前になっているのではと思います。

井上 弘
日本民間放送連盟会長

メディアトップインタビューシリーズ(3)
聞き手 佐村 知子
さむら・ともこ/内閣府男女共同参画局長


~放送局では、男女問わず自分で動かせる仕事の幅が大きい~

─ 日本民間放送連盟(民放連)加盟205社及びTBSテレビ(ホールディングスを含む)における女性の活躍状況、登用状況を教えてください。

(井上)民放連加盟全社の全従業員に占める女性の比率は25.1%、全役付従業員に占める比率は12.3%。(※1)採用試験で成績順で取ったら、女性ばかりになるような実態です。以前は女性を採りにくいところがありましたが、今後は比較的バランスよく採れると思っています。

テレビ界は昔から、特に制作ジャンルで女性プロデューサーが各局に多くいらっしゃり、私が現役でやっていた時分は女性3人で一週間に視聴率を足すと80%ほど取っている時代がありました。制作の仕事は女の人の方が向いているところがある。これから先もかなり活躍できるのではないかと思います。また放送外事業、例えば舞台ものや展覧会などでも、各局同様に女性が非常に頑張っています。


(※1) 民放連加盟社 従業員の女性割合


─ 採用の区分は?

(井上)一般職、技術職、アナウンサー職など職種別で採用します。一般職は、入社時に希望を聞いて、配属します。昔は、女性はドラマ志望が多かったのですが、この頃は女性でもバラエティジャンルに配属されますね。(※2)


(※2) 民放連加盟社 職種別の女性割合(平成25年度)


─ 育てるための仕組みは?

(井上)研修等もありますが、入った後は一人で頑張ってもらうことになります。例えば報道の現場はそれなりにきつい仕事ではありますが、女性も随分います。総理のインタビューなどで、囲んでいる記者の中にたくさん女性が映っていますよね。

─ 大きくは、制作と報道の2つの分野ということですね。

(井上)現場は、ドラマ、バラエティ系の番組を作る人たちと、報道、情報、スポーツ系の番組を作る人たちとに二分されます。現場に配属されると、長期にわたって経験を積み、その分野のプロフェッショナルになる社員もいます。例えば厚生労働省の記者クラブに10数年いた女性は、クラブのキャップになり、専門家として番組にも出ています。

男女雇用機会均等法がない時代、女性はアナウンサーで採用され、法改正で深夜勤務ができるようになって報道等に活躍の場を拡げました。今は採用から男女の区別なくしっかり働き、制作現場から異動して事業分野で成功している女性もいます。

─ 女性の活躍や登用における課題、問題点をどのようにお考えですか?

(井上)最近は、出産後の制度が整備され、連続して育児休暇をとる社員もいます。一方で、出産後、4月に保育所に入れないといけない、とフルで休まず1年足らずで復職してくる人もいますね。女性の社会進出を国として進めるならば、子育て中の女性を国としてどのように支援していくか、保育所整備など施設的な部分は考えていただかないと、企業の努力だけでは無理なところがあります。女性社員のためだけじゃない。この頃は父親も子育てに参加しますね。父親の育休なんかあるのかなと思ってしまいますが、そんなこと言うと怒られますね、今は。(笑)

─ 総理が昨年4月に経済3団体のトップに、子どもが3歳までは男女とも育休や短時間勤務が取りやすい環境整備を要請したところ、あまり長く休むと職場復帰が大変なので、保育園整備に力を入れてほしいとの強い要望を頂きました。待機児童解消に向けては政府挙げて一生懸命取り組んでいます。

(井上)この業界は、経験の積み重ね、人間関係のつながりで仕事をするところがあります。育児休業が長くなると、本人としては結構きつい。制度的にはやれないことはないかもしれませんが、現場でバリバリやっている人にとっては、3年のブランクは大きい。結婚して出産するのが30歳前後だとすると、仕事的には一番いい時期です。そこで3年いないとなると結構しんどいかもしれない。

─ 結婚・出産で6割位の女性が辞めてしまう「M字カーブ問題」。放送局の女性たちはどうでしょうか。

(井上)最近は結婚・出産を理由に辞める人はほとんどいません。他社も同じだと思います。様々な制度を利用して働き続けていますね。かなり充実していますから。

─ 辞める人がいない、でも働き方が厳しい。とすると、産休・育休をとる時の職場の負担感が重くなりますね。結果的に女性の採用の抑制につながったりしないでしょうか?

(井上)いやいや、TBSは、2011年度は男女50:50位で採用しています。全部で25人ぐらいですから、10人も女性がいると、入社式で女性の方が目立ちます。(※3)結婚して出産後復帰する方も、割とすんなり復職できているようです。個々の職場でいろいろあるとは思いますが、皆さんキャリア上、何とか乗り越えて来られたのじゃないでしょうか。


(※3) 民放連加盟社 新規採用者の女性割合


─ 管理職への登用状況はいかがでしょうか。

(井上)能力と年功はある程度比例しますから、まだその年次・キャリアに達していない人が多い。当社でいうと女性のトップは局長。民放連では今年度、地方のFM局(エフエム北海道・CROSS FM)で、女性社長が二人同時期に誕生した、と話題になりました。キー局の日本テレビでも女性の取締役や執行役員がいらっしゃいます。

─ 時間が経てば自然に数字も上がっていくだろうと。

(井上)ですね。これだけ優秀な女性がいれば。男よりずっといいじゃないかと思う女性もいますから。

─ 直接激励されたり、意見を聞いたりされているのですね。

(井上)はい。女性の方が我々に対してもちゃんと言ってくれます。男の方が男の扱いに慣れていない面もあります。友達とは上手くやれるけど、上・下の扱いが苦手ですね。

─ 女性の活躍の「見える化」として、上場企業にコーポレートガバナンス報告書やCSR報告書などで、女性の働きやすさ、登用率などを任意に開示してもらう働きかけや、役員数・社員総数・採用数・管理職数と女性比率などを開示して頂き内閣府のHPで紹介する取組を行っています。

(井上)TBSはHPで女性ディレクターの活躍を人数ではなく、エピソードで紹介しています。スター選手が輝いて働いている姿をどれだけ見せられるかがより大事ではないでしょうか。

─ 民放連として、業界はこんなに開かれ、平等であるとアピールしてもらえるといいと思うのですが。

(井上)おそらく他所に比べると、非常に平等な業種じゃないかと。チャンスに恵まれれば、男女問わず自分で仕事を動かせる幅が大きいですし、それこそ何億円というスケールの仕事をやっています。

─ TBSや民放連で女性の活躍推進を担当する組織を設けるご予定は?

(井上)今日的な課題への取り組みは、各社各社で対応されています。TBSでは、ハラスメント対策のカードを配付し、社員証ホルダーに入れて携帯できるようにしています(写真)。さらに、自発的なものですが、「ママ会」というネットワークがある。託児所の探し方などのノウハウ、どうすれば円滑に働き続けられるかをアドバイスするなど、実質的な情報交換をしています。育休復帰が近づくと、会社に赤ちゃんを連れて来て参加しています。今やTBSの女性社員の3分の1がワーキングマザー。どうすれば一番効率的に働けるか、女性や母親の視点で番組の企画はないかなど、お互い相談の場にもなっているようです。

また、テレビ朝日では人事局にワーキングマザーサポートチームを設置していたり、地方局にも、各セクションから女性委員を選出し、人事部が幹事役になって母性保護・セクハラ相談室を設置している例があります。(*表を参照。)


ハラスメント対策のカード


放送業界における女性の活躍状況の事例(*表)


─ 育休中の方たちへの研修等、ケアの仕組みはいかがですか。

(井上)TBSでは、職場復帰に向けて面談や電話でどのように復職したいかを人事がヒアリングすると同時に、上職からも意向を聞いてもらい、戻ってもらう形をとっています。

─ お子さんがいて管理職として働き続けている方は多いですか?

(井上)例えば、二人子供がいて、政治部時代は官邸キャップをやった女性経済部長がいます。組織の長(ライン部長)で子どものいる方が要所、要所で増えている。専門職部長(スペシャリスト)ではかなりたくさんいます。子どもがある程度大きくなった女性が増えていて、番組のプロデューサー、部長といった形で活躍してくれています。

─ 話は変わりますが、放送のインパクトはとても大きいと思います。政治・経済など女性が少ない分野で女性有識者が登場する、家事・育児参加の話題で、男性有識者が発言するなど、従来的な性別による役割分担意識にとらわれない「制作・報道」を意識されることはありますか?

(井上)もう、既にそうなっているのではないでしょうか。昔は女性の刑事などは想定外でしたが、今はどのドラマだって活躍する女性刑事が出てくる。評論家も女性がドンドン出てくる。時代が変わって、既にそうなっていると思いますね。そうでなければ、女性の志望者がこれほどたくさん来ないと思います。放送局は、女性として、やりがいがあって参画しやすい会社だと学生たちは思っているのではないでしょうか。

─ なるほど。日本社会で男女共同参画が必ずしも実現していないという中、放送には社会への啓発的な役割も期待されると思うのですが。

(井上)男女が平等で、各々に同等の権利があるというのは、皆もう当たり前だと思っているのではないでしょうか。ただし、取材・報道はしっかりやっていきますよ。例えば待機児童問題を詳しく取材し放送しています。男性も女性も働きやすい社会にするためにはどうすべきか、こんな社会が良いとか、現実の悪いところを直していくための主張をしなければ放送局じゃないですから。

─ 以前TBSの女性記者がベビーホテル問題でキャンペーンをはりました。誰も気づかなかった問題に気づき、それが会社的に大事だとの流れを作っていくような女性の先輩がいた。待機児童問題の報道も、そういう積み重ねの上にあるかもしれないですね。

(井上)誰かが見つけてきてこれをやろうよと言った時に、その人が上手く編集会議を突破していかなければいけない。上手く突破できればいいわけで、それはもう個人の力量。経営者が介入してこれを優先的に取り上げろとは言わない。だから現場の皆さんの知恵で普段からやってもらうしかないですね。

─ 報道の現場に女性が増えてくると、取り上げられる論点が多様になっていくのでしょうね。本日はありがとうございました。


井上会長と佐村局長のインタビュー風景


井上 弘 日本民間放送連盟会長
井上 弘
日本民間放送連盟会長

いのうえ・ひろし/
昭和38年、東京放送に入社。平成5年から取締役テレビ営業局長、テレビ編成局長等、平成8年から常務取締役、専務取締役、代表取締役副社長を経て、平成14年、代表取締役社長に就任、平成21年、(株)東京放送ホールディングス代表取締役会長、(株)TBSテレビ代表取締役会長に就任。平成24年4月、一般社団法人日本民間放送連盟会長に就任し、現在に至る。