「共同参画」2014年2月号

「共同参画」2014年2月号

スペシャル・インタビュー/第36回

近いうちに女性の役員が誕生する可能性は極めて大きい。当然の成り行きだと考えています。

白石 興二郎
日本新聞協会会長

メディアトップインタビューシリーズ(2)
聞き手 佐村 知子
さむら・ともこ/内閣府男女共同参画局長


~社会の常識が変われば、我々も変る。我々が変われば、社会も変わる。そういう意味では我々の責任も大きいですね。~

─ 最初に、読売新聞社の女性の活躍状況や課題、克服への取組についてお聞かせください。

(白石)読売新聞の場合、東京、大阪、福岡(西部)の3つの本社で個々に採用をしています。東京本社では、雇用機会均等法が施行される前の1982年から女性記者を毎年採用しており、女性記者の比率は昨年の4月で19.7%、概ね20%になっています。また、広告・事業・販売の現場の従業員も加味すると女性の比率は毎年高まっていて昨年4月の新入社員では女性が4割です。大阪本社など、採用人数の多いところは同じような比率です。日本新聞協会の加盟社の社長さん方と話しても同じような傾向で、地方紙も含めて女性の採用が今増えています。(※1)

(※1)日本新聞協会加盟社 女性従業員等の割合


読売新聞は、女性の採用では30年の歴史があり当時新卒の方々は、今50代の半ばになっています。部長職もいれば編集委員もいます。1期生が局次長とか部長とかの要職につきつつある世代。去年の秋には、新たに女性が編集局総務に昇進しました。けれども残念ながら今東京本社含め3本社の役員に女性がいません。政府の方針もあり、我々自らの必要性もあり、近いうちに女性の役員が誕生する可能性は極めて大きい。男女を問わず登用するということからして、当然の成り行きだと考えています。

また、新聞社には編集だけでなく、事業や営業など多機能の仕事があり、その現場でも女性の活躍が求められています。(※2)

(※2)日本新聞協会加盟社 部門別女性従業員等の割合


さらに、読売新聞の販売店では、全国の従業員全体に対する女性の比率が40%を超えています。特筆すべきは「ユース」という販売店グループ。ここは、女性比率が75%、女性の店主ももちろんいます。ユースの定例会議に出ましたところ、圧倒されるような女性のパワーを感じました。女性が配達や集金をすると、苦情への対応がうまい。苦情をチャンスに変えている。女性が主役の組織の方が営業力が強いのです。読売新聞社としては、これを広げていくべきだと考えています。「ユース」の強味は、託児所。子育て中の奥さん方も安心して参加できている。そういう環境を整備することが大事なのです。

我々は想像以上に女性の力を借りて、新聞発行・新聞販売・家庭への配達が出来ているのだと思っています。

─ 女性の活躍の推進を担当するような組織はありますか?

(白石)人事や厚生の部門に担当者をおいていますが、専門の推進組織は現在ありません。また、何割まで女性を登用するとか、いつまでにどのように目標を掲げていくか、具体的なところはまだ作っておりません。こうした機会に検討していかなければと考えています。

─ 取材の現場、記者の職場で、女性が活躍するためには、様々なサポートが必要だと思うのですが、このあたりはいかがでしょうか?

(白石)転勤など地方での生活を余儀なくされるのが、取材記者の職場です。全国紙と言われる新聞社、通信社では、新卒の記者を本社内で教育した後、男女問わず地方支局に出します。支局で5年前後の期間同僚や先輩と一緒に仕事をする中でいろんな経験をする。事件、事故、行政の取材、支局は、正に取材の原点であり、中央の縮刷版みたいなものですから。男女を問わず同じ仕事をさせますが、女性ならではの悩みも出てくるので、対応策として各本社にジェンダー担当の専門委員、コーディネーターをおき、女性記者支援をしています。厳しい環境の中で頑張ってくれている女性が働きやすい職場をいかに作るかは、我々経営者の責任であると思います。(※3)

(※3) 日本新聞協会加盟社 女性記者の割合


─ 現場の厳しさが変わらないのは、取材相手である政治、経済、社会で女性の活躍が進んでいないことにも原因がありますね。新聞が啓発してくれると良いなと思いますが、現実を記事にするものでもありますし。

(白石)要するに、相互作用ですね。インタラクティブだと思うんです。取材先も変わらなければいけない。変わっているんだと思います。警察の現場も、女性の警察官なり管理職が出てきたり、或いは、行政の現場もそうですし。

日本社会は変わりつつあるなと感じますよ。新聞の場合には、男女共同参画に限らない話ですが、例えば、被害者・加害者の実名・匿名の表記の仕方など人権に配慮した表現に変えてきています。社会の常識が変われば、我々も変る。我々が変われば、社会も変わるという、ここはインタラクティブなんです。そういう意味では我々の責任も大きいですね。

─ 女性記者が、産休や育休を取って戻る場合も出てきていると思いますが、そういう経験をプラスにしている例、工夫はありますか。

(白石)1年とか現場を離れると、取材先とのつながりが薄くなるのではないかという危機感は、皆にある。だけど、1年か2年で切れるような人脈じゃしょうがないじゃないのと。逆に言えば、そういう試練を乗り越えなければいけないと思います。最近も政治部の男性記者が育休を取ったという話がある。女性記者だけの問題でもなくなってきています。不安はあるかもしれないけども、育児だとか、産休だとかというところで費やした時間というのは、必ずしも無駄にはならない。新しい経験をするということは、人生を豊かにする。そういう経験をすべしと、思います。そのための配慮や、可能となる職場環境を作ってやらなければならない。

今春から復職制度を導入します。私が局長時代に編集局で働いていた社会部の女性記者ですが、科学部記者の亭主がワシントンに転勤になり、子供の面倒を見るということで、退職してついていきました。私の秘書だった女性が、亭主が勉強のためにイギリスに1年ぐらい留学するというので、これも、ついて行くということで会社を辞めた。こういう事例が身近に起きて、もったいないし、人材を確保する、育てるという立場からすると、再チャレンジの機会を作ってやりたいと思い、原則は退職から5年以内ですが、状況に応じては無制限で復職制度を設けました。復職したら退職した当時の処遇、待遇、をベースに考えます。5年なり3年なりのギャップがあれば研修とか再教育が必要になる。そういうことを考慮した上で、復職の希望があれば、積極的に受け入れていくようにします。

─ 復職制度までお考えだというのはすばらしいですね。

(白石)人材確保のチャンネルとして考えました。実は、新聞社に入ってもミスマッチで自発的に退職していく社員が結構いる。今までは、もったいないから辞めないでくれと説得していました。若い者が辞めると、上司の責任だと言われたものです。私は新たな出発を応援しようじゃないかと、後追いしないことにした。その場合、空きが出ますから、補充するにはどうするか。社会人の中途採用も積極的にやりますが、再チャレンジ、復職も、人材確保の大きなチャンネルになると思います。

また、メディア全体で、放送、新聞を問わず、女性が多くなっている。すると、社内結婚だけでなく同業結婚が多くなりました。社を超えてライバル会社の配偶者と一緒になる。当然、転勤とか転属があるから勤務地が離れる。例えば、読売新聞大阪本社の女性記者が通信社の記者と結婚したが、彼が東京転勤になった。女性記者は、大阪本社の採用ですから東京には転勤できない。これを東京本社に転籍させてそれぞれ勤め続けられるようにしました。特段の支障がない限り弾力性のある人事制度をやれば良いと考えています。

─ 新聞協会として、女性の活躍、ワーク・ライフ・バランス(WLB)などの問題を検討する場や組織はあるんでしょうか?

(白石)協会全体としては、今、組織はありません。労務問題については、労務委員会で、労働法制の変化への対応とか、WLBについての意見交換や勉強会を開いています。折角のご指摘ですから、私が会長の間にそういう委員会を作ります。

─ 経団連でも企業行動委員会の中に女性の活躍推進部会が立ちあがりました。新聞協会でも、是非(笑)。

話は変わりますが、女性の登用を進めるため、上場企業のコーポレート・ガバナンス報告書に、役員の男女別構成を記載するよう働きかけたり、内閣府のHPでの女性の役員・管理職比率や登用目標、男女別の勤続年数・育休取得率などの開示をお願いしています。新聞協会としても是非こういった情報の開示にご協力いただけないでしょうか?

(白石)読売新聞としては問題ないと思いますよ。メディアの世界も変わってきているなということはわかりますね。非上場なのでコーポレートガバナンス報告書自体作成していないのですが、新卒のリクルートの案内でそういう数字を出しています。

─ 「Women’s Voice」という、読売新聞のリクルートサイトでは女性の先輩の方々が、いろんな経験を語られていますね。

(白石)若い人にアピールするには、女性の活躍を紹介していくのが重要です。女子学生の皆さんが就職先を選ぶ場合にも、大きな判断材料になる訳ですから。そこに、我々の誇張や虚偽の事実を書くわけにはいかない。事実、3割、4割が女性社員で、ウーマンパワーを無視できないし、どんどん活用しないといけない。今の現状は、女性も男性も関係なく、我々のきつい仕事の中で、ちゃんとやっていけるという証拠です。女性の同僚、先輩がどんどん増えてきている。9月には、初めて女性の支局長、甲府支局長を出しました。思い切った登用でしたが、これからも行います。限られた空間と地域の中でマネジメントをやってもらう。当然、判断を求められる難しい仕事ではあるんですが充分やってくれていると思います。

─ 両立支援は子育てだけでなく介護でも問題になってきています。介護の場合は、男女問わず育て上げて管理職になった人が両立を求められる。これから訪れてくるそういう社会の前哨戦としても仕事と家庭の両立支援、WLBを考えることは大切です。

(白石)これは、社会全体として、経験をさせていく、経験を積み重ねる以外にないと思いますよね。

─ 本日は、ありがとうございました。

読売婦人附録(大正3年4月3日、日本の新聞初の婦人面を制作) 読売新聞社新社屋 よみかきの森保育園


白石会長と佐村局長のインタビュー風景


白石 興二郎 日本新聞協会会長
白石 興二郎
日本新聞協会会長

しらいし・こうじろう/
昭和21年、富山県出身。昭和44年、読売新聞社に入社。昭和50年~平成5年まで政治部。以後、執行役員メディア戦略局長、常務取締役編集局長、専務取締役論説委員長などを経て、平成23年、代表取締役社長に就任。平成25年6月、一般社団法人日本新聞協会会長に就任し、現在に至る。